唾液づわり(よだれつわり)の鍼灸症例

よだれづわりへの鍼灸治療

唾液つわりの鍼灸症例

妊娠は女性にとって人生における大きな喜びの一つですが、同時に様々な身体の変化を伴う時期でもあります。

その中でも「つわり」は、多くの妊婦さんを悩ませる症状の一つです。
吐き気や嘔吐といった一般的な症状に加え、「唾液づわり(よだれつわり)」と呼ばれる、唾液が過剰に分泌される症状に苦しむ方も少なくありません。

一日中、絶え間なく溢れ出る唾液は、精神的な苦痛も伴い、日常生活に大きな支障をきたします。

当院では、このようなつらい唾液づわりに悩む多くの妊婦さんの治療に携わってきました。

東洋医学の観点から丁寧に原因を探り、お一人おひとりの体質に合わせた鍼灸治療を行うことで、症状の緩和、ひいては穏やかな妊娠生活を送るためのお手伝いをしています。

今回は、実際に当院で治療を行った唾液づわりの症例を通して、鍼灸治療の効果と、当院が大切にしている治療への想いをご紹介します

患者さまについて

年齢・性別:
30代の女性

鍼灸院に来るまでの経緯:
現在妊娠12週目。
自然妊娠で、妊娠が分かってから胃のムカムカが始まったとのことでした。
妊娠7週頃から吐き気が強まり、9週頃にはつばと痰が増え、吐き気もさらに強くなったそうです。
唾液や痰を飲み込むと気持ちが悪いため、頻繁に吐き出しており、一日中つらい状態が続いていました。
寝ている時のみ症状が和らぐものの、唾液を吐き出した瞬間は楽になっても、すぐにまた溜まってしまうため、落ち着く暇がありません。

今回は二人目の妊娠でしたが、一人目の時はつわりはあったものの唾液づわりではなく、妊娠14週ほどで改善した経験をお持ちでした。

その他の症状としては、
冷えのぼせ、疲れ、片頭痛と肩こりを訴えていました。

東洋医学的考察

東洋医学では、唾液づわりは「脾虚(ひきょ)」と「痰湿(たんしつ)」が大きく関与していると考えます。

「脾」は消化吸収を司る臓腑であり、「脾虚」はその機能が低下している状態を指します。
脾の機能が低下すると、体内の水分代謝がうまくいかなくなり、「痰湿」という余分な水分が体内に溜まりやすくなります。

この痰湿が、唾液の過剰分泌や吐き気などの原因となると考えられます。

今回の患者さまは、もともと疲れやすいという体質、つまり脾虚の傾向がありました。
妊娠によってさらに脾の負担が増し、痰湿が生じやすくなったと考えられます。

また、冷えのぼせは、体内の気の巡りが悪くなっていることを示唆しています。

これらの症状を総合的に判断し、患者さまの状態を東洋医学的に捉えることで、適切な治療方針を立てることができます。

治療方針

脾の機能を高め、体内の余分な水分である痰湿を取り除くことを目的としました。

具体的には、気血を補いながら、中焦(消化器系)の湿を取り除くことを重視しました。

鍼灸治療は、身体のバランスを整え、自然治癒力を高める効果があります。
患者さまの症状や体質に合わせてツボ(経穴)を選び、鍼やお灸を用いて刺激することで、気の流れをスムーズにし、体内の環境を整えていきます。

刺激量はあくまで過多にならないようにソフトに行いながら、要所要所でしっかり刺激を与える方法で行い、負担なく安心して治療を受けていただけるように配慮しています。

治療経過

1回目:
仰向けで、「内関」「足三里」「三陰交」「太谿」に浅く置鍼し、「内関」「太白」にお灸と円皮鍼を追加しました。「中脘」「関元」には棒温灸を行いました。
うつ伏せで、「心兪」「隔兪」「腎兪」には浅く置鍼、「脾兪」には棒温灸を行いました。

2回目(1週間後):
妊娠13週に入っていました。
初回の鍼灸治療後、少しダルさが出たものの、すぐに軽快したとのことでした。
つわりは続いており、とくに夜の方がつらい状態でした。
基本的には1回目と同様の施術を行い、必要に応じて円皮鍼や点灸を随時追加しました。
背兪は「胃の六つ灸」にお灸を行いました。

3回目、4回目(1週間おきペース):
治療を重ねるごとに、唾液づわりは少しずつ改善していきました。
最初のつらさを10段階の10とすると、3回目の時点で「5」、4回目の時点で「2」くらいに改善しました(0は全く症状がない状態)。
施術内容は1回目に準じて行いました。

症状が軽快している様子が見られたため、4回の治療で鍼灸を終了としました。

使用した主なツボとその代表的な効果

内関(ないかん):
胸部の不快感、吐き気、嘔吐、動悸などに効果があります。精神安定作用もあります。

足三里(あしさんり):
胃腸の働きを整え、消化不良、食欲不振、便秘、下痢などに効果があります。全身の倦怠感にも有効です。

三陰交(さんいんこう):
女性特有の症状、例えば生理不順、生理痛、更年期障害などに効果があります。冷え性にも有効です。

太谿(たいけい):
腎の機能を高め、足腰の冷え、むくみ、精力減退などに効果があります。

太白(たいはく):
脾の機能を高め、消化不良、食欲不振、下痢などに効果があります。

中脘(ちゅうかん):
胃の不調、吐き気、嘔吐、胃痛などに効果があります。

関元(かんげん):
全身の気を補い、冷え性、精力減退、婦人科系の疾患などに効果があります。

心兪(しんゆ)、隔兪(かくゆ)、腎兪(じんゆ)、脾兪(ひゆ):
それぞれ心、横隔膜、腎、脾の働きを整え、関連する症状に効果があります。
特に背部の兪穴は、臓腑の機能を調整する上で重要なツボです。

胃の六つ灸:
胃の働きを整え、吐き気、胃もたれ、食欲不振などに効果があります。

まとめ

今回の症例では、つわりの鍼灸を3週間ほどかけて4回施術を行いました
最終的には症状の軽減が見られましたが、時期的につわりが落ち着く時期でもあったため、鍼灸の効果がどこまであったかは明確には判断できません。

しかし、患者さま自身は症状の改善を実感されており、精神的な安心感にも繋がったと考えています

「唾液づわり」は「湿」の影響が大きいと考えられ、内臓の虚からくるのか、湿邪が多いからなのかに合わせて施術を行っていくことが重要です。

つわりの鍼灸は、自然に軽快してもおかしくない時期に並行して行うことが多いため、治っていくのが鍼灸の効果なのかを測りかねるところもあります。
しかし、施術者としては、鍼灸が症状の緩和に役立っていると信じています。

何よりも、その場その場での何かできることはないかという患者さまの希望や未来への不安には、鍼灸治療を通して寄り添い、サポートできると考えています。

当院では、刺激量をあくまで過多にならないようにソフトに行いながら、要所要所でしっかり刺激を与える方法で行っているため、安心して治療を受けていただけます。

つらい唾液づわりに悩んでいる方は、ぜひ一度当院にご相談ください。
東洋医学の力で、穏やかな妊娠生活を送るためのお手伝いをさせていただきます。

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つわり(妊娠悪阻)