子宮筋腫への鍼灸症例|松戸市在住40代女性
子宮筋腫への鍼灸症例
子宮筋腫は、成人女性の3~4人に1人が持つとも言われるほど一般的な疾患です。
良性の腫瘍であるとはいえ、月経痛や過多月経、貧血、腹部の圧迫感、頻尿など、様々な症状を引き起こし、日常生活に支障をきたすことも少なくありません。
西洋医学では、経過観察、薬物療法、そして手術(筋腫核出術や子宮全摘術)が主な治療法となります。
しかし、「なるべく手術は避けたい」「薬の副作用が心配」「経過観察と言われたけれど、何かできることはないか」とお考えの方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
そのようなお悩みに対し、鍼灸治療は有効な選択肢の一つとなり得ます。
今回は、当院で実際に子宮筋腫に対する鍼灸治療を受けられ、改善が見られた40代女性の症例をご紹介いたします。
患者さまについて
年齢・性別:
40代女性・松戸市在住
鍼灸院に来るまでの経緯:
患者さまが初めて子宮筋腫の可能性を指摘されたのは、今から8年前の健康診断でした。
その際は「病院に行くように」との勧めがありましたが、日々の忙しさもあり、そのままにされていました。
しかし、3年前の健康診断で再び子宮筋腫を指摘され、しかも以前より悪化していることが判明。
さすがに放置できないと考え、婦人科を受診されました。
検査の結果、筋腫の大きさは約6cm。
幸い、すぐに手術が必要な状態ではありませんでしたが、「経過観察」となり、1年に1回の定期的なチェックを受けることになりました。
そして先月、年に一度の検査を受けたところ、筋腫が8cmまで増大していることが分かりました。
医師からは「このまま大きくなるようであれば、手術も検討した方が良い」との説明を受け、患者さまは大きな不安を感じられました。
手術は避けたい、でもこのまま筋腫が大きくなっていくのも怖い…。
「病院でできる治療以外にも、何か自分でできることはないだろうか」と考え、鍼灸治療を知り、当院へご相談に来られました。
初診時の症状:
子宮筋腫そのものによる自覚症状(月経痛や過多月経など)は、ご本人としてはそこまで強く訴えられてはいませんでしたが、以下のようないくつかの併存する不調がありました。
・SLE(全身性エリテマトーデス)の既往
10代の頃に発症し、現在も定期的に通院し、服薬を継続中。
自己免疫疾患であるSLEは、東洋医学的に見ても免疫バランスや「気」「血」の乱れと深く関連すると考えられ、今回の筋腫の背景にも影響している可能性を考慮しました。
・冷えのぼせ
手足は冷えるのに、顔や上半身はほてるという、典型的な冷えのぼせの症状がありました。
これは自律神経の乱れや血行不良のサインと考えられます。
・皮膚・頭皮の荒れ
目の周りの皮膚や頭皮に、時折かゆみや赤みが出ることがあるとのことでした。
これも体内の熱のこもりや血行不良、免疫バランスの乱れと関連している可能性があります。
慢性的な疲労感: 仕事や日常生活において、常に疲れを感じやすい状態でした。
これらの症状は、一見すると子宮筋腫とは直接関係ないように思えるかもしれませんが、東洋医学的にはすべて繋がっており、身体全体のバランスが崩れているサインとして捉えることができます。
東洋医学的考察
東洋医学では、私たちの身体は「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」という3つの要素がバランス良く巡ることで健康が保たれていると考えます。
これらのバランスが崩れると、様々な不調が現れます。
今回の患者さまの状態を、東洋医学の視点から詳しく診させていただき、以下の点が特徴的でした。
■瘀血(おけつ)
東洋医学で「血(けつ)」は、血液だけでなく、栄養を運び、身体を温める働き全般を指します。
「瘀血」とは、この血の流れが滞り、古くなった血が溜まってしまう状態のことです。
下腹部を触診した際に、筋腫のある部分に硬いしこり(抵抗感)と圧痛(押すと痛む)を認めました。
また、舌の色がやや暗紫色で、舌の裏側の静脈が怒張している様子も見られました。
これらの所見は、典型的な瘀血のサインです。
子宮筋腫はまさに、この瘀血が子宮という場所に「塊(かたまり)」として形成されたものと捉えられます。
長年の冷えやストレス、あるいはSLEという体質も、血行を阻害し瘀血を生み出す要因になった可能性があります。
■気滞(きたい)
「気」は、生命活動のエネルギー源であり、血や水を巡らせる原動力です。
「気滞」とは、この気の流れがスムーズでなくなり、滞ってしまう状態を指します。
患者さまが抱える慢性的な疲労感や、ストレスを感じやすい状況、冷えのぼせといった症状は、気の巡りが悪くなっていることを示唆します。
また、精神的なストレスは特に「肝(かん)」の働きを乱し、気の流れを阻害しやすいと考えられています。
気が滞ると血の流れも悪くなり、瘀血をさらに助長するという悪循環に陥りやすくなります。
■腎虚(じんきょ)
東洋医学でいう「腎(じん)」は、西洋医学の腎臓とは異なり、生命エネルギー(精)を蓄え、成長・発育・生殖を司る、非常に重要な臓器と捉えられています。
「腎虚」とは、この腎のエネルギーが不足している状態です。
婦人科系の機能は特に「腎」と密接に関連しており、子宮筋腫のような婦人科疾患の背景には、腎虚が関わっていることが多いと考えられます。
患者さまの場合、40代という年齢的な要因に加え、長年の疲労の蓄積、そしてSLEという慢性的な自己免疫疾患も腎のエネルギーを消耗させる一因になった可能性があります。
これらの所見を総合的に判断し、この患者さまの子宮筋腫は、「瘀血」を主体としつつ、「気滞」と「腎虚」が複合的に絡み合って発生・増大している状態であると考えました。
治療方針
上記の東洋医学的な考察に基づき、単に筋腫のある下腹部だけを治療するのではなく、全身のバランスを整え、体質から改善していくことを目的とした治療方針を立てました。
具体的には、以下の3つの柱でアプローチを行いました。
■活血化瘀(かっけつかお)
瘀血を取り除きます。
最も重要なのは、筋腫の直接的な原因と考えられる「瘀血」を改善することです。鍼や灸を用いて気血の巡りを促進し、滞った古い血を流し、新しい血がスムーズに巡るように促します。
とくに下腹部や骨盤周りの血行を改善するツボを重点的に使用しました。
■理気(りき)
気の流れを整えます。
「気滞」を解消し、気の流れをスムーズにすることも重要です。
気が巡れば血も巡りやすくなり、瘀血の改善にも繋がります。
また、気の流れが整うことで、精神的なストレスの緩和、疲労感の軽減、冷えのぼせの改善なども期待できます。
リラックス効果の高いツボや、気の流れを調整する作用のあるツボを選定しました。
■補腎(ほじん)
腎のエネルギーを補います。
根本的な体質改善と、婦人科系の機能を健やかに保つためには、「腎」のエネルギーを補うことが不可欠です。
腎を強化するツボに鍼や灸を行うことで、生命エネルギーを高め、ホルモンバランスを整え、加齢や疲労、持病による消耗を補います。
これらのアプローチを基本としつつ、患者さまのその日の体調や訴え(例えば、肩こりがひどい、便秘が辛い、眠りが浅いなど)に合わせて、使用するツボや手技を微調整する「オーダーメイド治療」を心がけました。
治療経過
1回目:
仰向けで、全身の気血の流れを整える基本的なツボ(内関、足三里、太谿、太衝など)に置鍼(鍼を刺したまま一定時間置くこと)を行いました。
同時に、子宮筋腫のある下腹部に直接アプローチ。
まずは棒温灸(火をつけた棒状のもぐさを皮膚に近づけて温める)で深部までじっくりと温め、血行を促進します。
続いて、硬くなっている筋腫のしこりを囲むように、点灸(米粒ほどの小さなお灸を直接皮膚に乗せて行う)を施しました。
これは、瘀血を直接的に散らす効果を狙ったものです。
さらに、婦人科系の要穴である「三陰交」に台座灸(台座の上にもぐさが乗っており、温熱がマイルドに伝わる)を行いました。
次にうつ伏せで、背部のツボ(天柱、心兪、膈兪、肝兪、志室、大腸兪など)に置鍼。
これらのツボは、自律神経の調整、血行促進、ストレス緩和、そして腎の働きを助ける効果が期待できます。
とくに腎虚を考慮し、「志室」と「大腸兪」には台座灸も追加しました。
2回目~5回目(週1回ペース):
基本的な施術内容は初回に準じますが、患者さまの反応を見ながら微調整を行いました。
とくに下腹部の棒温灸は、熱さを感じやすいご様子でしたので、足の「三陰交」への棒温灸を当てました。
6回目~10回目(2週間に1回ペース):
施術内容は、引き続き瘀血改善、気滞解消、補腎を主軸としつつ、その時々の不調、例えば「仕事が忙しくて肩が凝る」「最近便秘気味」といった具体的な訴えに合わせて、関連するツボを追加したり、刺激量を調整したりしました。
この頃になると、治療効果が現れてきました。
初回の治療から約4ヶ月が経過した時点で、お腹の表面から触れる筋腫のしこりが、明らかに小さくなっていることを確認できました。
これは施術者だけでなく、患者さまご自身もはっきりと実感されており、「触った感じが小さくなってる」との声を共有してくださいました。
その後、数回治療をし、症状が消失したわけではありませんが、最初より明らかに改善し、状態がお落ち着いたこともあり、いったん鍼灸治療は終了としました。
使用した主なツボとその代表的な効果
今回の治療で主に使用した経穴(ツボ)と、その代表的な効果についてご紹介します。
当院では、これらのツボを患者さま一人ひとりの状態に合わせて組み合わせ、最適な治療を提供します。
■内関(ないかん)
手首の内側にあるツボ。精神的な緊張やストレスを和らげ、気の巡りを整えます。吐き気を抑える効果でも知られます。気滞の改善に用いました。
■足三里(あしさんり)
膝下の外側にあるツボ。
胃腸の働きを高め、全身のエネルギー(気)を補う代表的なツボです。
「元気のツボ」とも呼ばれ、疲労回復や免疫力向上に効果が期待できます。
■太谿(たいけい)
内くるぶしとアキレス腱の間にあるツボ。
東洋医学の「腎」のエネルギーを補う非常に重要なツボです。
生命力を高め、老化防止や生殖能力にも関わるとされ、腎虚の改善に不可欠です。
冷えの改善にも繋がります。
■太衝(たいしょう)
足の甲、親指と人差し指の骨の間にあるツボ。
「肝」の気の流れをスムーズにし、イライラやストレスを緩和します。
血行促進や目の疲れにも効果的です。気滞と瘀血の両方に関わるツボです。
■三陰交(さんいんこう)
内くるぶしから指4本分上にあるツボ。
婦人科系の症状(生理痛、生理不順、更年期障害など)に幅広く用いられる重要なツボです。
「肝・脾・腎」の3つの経絡が交わる場所であり、血行改善、冷えの改善、ホルモンバランス調整などの効果が期待できます。
瘀血と腎虚の両方にアプローチできます。
■下腹部のツボ(気海、関元など)と筋腫周囲:
おへその下にあるこれらのツボは、下腹部全体の気血の流れを整え、子宮や卵巣の働きを助けます。
棒温灸や点灸で直接的に温め、刺激することで、筋腫(瘀血)への直接的なアプローチを行いました。
■天柱(てんちゅう)
首の後ろ、髪の生え際にあるツボ。
首肩のこりを緩和し、頭部への血流を改善します。自律神経の調整にも関わります。
■心兪(しんゆ)・膈兪(かくゆ)・肝兪(かんゆ)
背骨の両脇にあるツボ。それぞれ「心(精神活動)」「膈(血の滞り)」「肝(気の流れ、血の貯蔵)」と深く関連しています。
これらのツボを刺激することで、精神安定、血行促進、ストレス緩和、瘀血改善などの効果が期待できます。
■志室(ししつ)
腰部、第二腰椎の高さで背骨から指4本分外側にあるツボ。
「腎」の働きを助け、生命力を補います。
腰痛や泌尿器・生殖器系の不調にも用いられます。腎虚の改善に重要です。
■大腸兪(だいちょうゆ)
腰部、第四腰椎の高さで背骨から指2本分外側にあるツボ。
大腸の働きを整えるだけでなく、腰痛や下腹部の血行促進にも効果があります。
便秘の改善や、骨盤内の循環改善に繋がります。
これらのツボはあくまで一例であり、実際の施術では、患者さまのその日の状態や脈・舌・お腹の所見に応じて、他のツボを追加したり、刺激の方法(鍼の深さ、お灸の種類や数など)を調整したりします。
まとめ
今回ご紹介した症例は、8cmまで増大し、手術も視野に入れられていた子宮筋腫に対して、鍼灸治療が有効な選択肢となり得ることを示す一例です。
約半年間の治療を通じて、当初は硬く触れていた筋腫が明らかに縮小・軟化し、患者さまご自身にもその変化を実感していただけました。
これは、鍼灸治療によって「瘀血」が改善され、滞っていた気血の流れがスムーズになった結果と考えられます。
もちろん、鍼灸治療がすべての子宮筋腫に同様の効果を発揮するわけではありませんし、筋腫を完全に消失させることが常に可能とは限りません。
しかし、西洋医学的な治療と並行して体質改善を目指したり、手術を希望しない場合の代替療法として、あるいは経過観察中の不快な症状を緩和する目的で、鍼灸がお役に立てるケースは非常に多いと感じています。
また、患者さまの背景には、お仕事などによる長年の疲労やストレスがありました。
生活習慣が深く関わる症状は、その習慣を変えることが難しい場合、改善の妨げとなることもあります。
しかし、私たちは患者さまの状況に寄り添い、鍼灸治療を通じて少しでも心身の負担を和らげ、自己治癒力を高めるお手伝いをしたいと考えています。
当院では、東洋医学に基づいた丁寧なカウンセリングと、脈診・舌診・腹診などを用いた的確な診断を重視しています。そして、その診断に基づき、お一人おひとりの体質、症状、ライフスタイルに合わせたオーダーメイドの治療計画をご提案いたします。
子宮筋腫や月経に関するお悩み、その他原因の分からない不調など、どんな些細なことでも構いません。
もしあなたが「病院以外の選択肢も試してみたい」「自分の体質に合ったケアを受けたい」とお考えでしたら、ぜひ一度、当院にご相談ください。
あなた本来の健やかな身体を取り戻すために、私たちが全力でサポートさせていただきます。
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