小暑|鍼灸師が教える二十四節気の健康法
小暑の今できる健康法について
今回は、二十四節気の11番目の「小暑(しょうしょ)」について、東洋医学の観点から解説していきます。
暦の上では、いよいよ本格的な夏の到来を告げる「小暑(しょうしょ)」の季節となりました。
通常7月6日頃から7月21日頃にあたります。
2025年の小暑の始まりは7月7日です。
ジメジメとした梅雨が明け、本格的な暑さが始まるこの時期は、心身ともに疲れが出やすいものです。
鍼灸師として、この小暑の時期に起こりやすい心身の不調と、それを乗り切るための東洋医学的な養生法について解説します。
小暑の頃に起こりうる心身の不調
この時期は一年で気温が高く、同時に湿度も高まるため、体内の「気(き)」や「水(すい)」が消耗されやすくなります。
東洋医学では、この時期は「心(しん)」と「小腸(しょうちょう)」の働きに影響が出やすいと考えられ、過剰な「熱邪(ねつじゃ)」や停滞する「湿邪(しつじゃ)」による体調不良に特に注意が必要です。
これらの邪気は、心身に様々な不調を引き起こす原因となります。
まず、熱邪の影響についてです。気温の上昇は、体内に過剰な熱を生み出します。
この熱は特に「心(しん)」の機能に負担をかけやすいとされます。
心は血液循環を主り、精神活動を司る臓器です。
熱邪の影響
以下のような症状が現れやすくなります。
■動悸や胸苦しさ
心臓の拍動が速くなったり、不規則になったりすることがあります。
■不眠
暑さで寝苦しくなり、寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなったりします。
心は精神活動を主るため、心に熱がこもると精神が不安定になり、不眠につながりやすいのです。
■イライラ、焦燥感
熱がこもると気が高ぶりやすくなり、些細なことで感情的になったり、落ち着きがなくなったりします。
■口渇、喉の痛み
体内の水(体液)が熱によって消耗されるため、口や喉の乾燥、さらには痛みが生じることがあります。
■尿の色が濃い、排尿回数の減少
水の消耗により、尿が濃縮され、排尿量が減ることがあります。
■顔面紅潮、目の充血
熱が上部に昇るため、顔が赤くなったり、目が充血したりすることがあります。
■夏バテ
熱邪によって体力が消耗され、だるさ、食欲不振、倦怠感といった典型的な夏バテ症状が現れます。
湿邪の影響
次に、湿邪の影響です。
梅雨明け直後で湿気が依然として高い状態は、体内に湿邪が停滞しやすい環境を作ります。
湿邪は重く、粘りつく性質があるため、気の巡りを阻害し、体の様々な部位に影響を与えます。
■体の重だるさ
とくに手足や全身に鉛のような重さを感じることがあります。
■浮腫み(むくみ)
水分代謝が滞り、顔や手足がむくみやすくなります。
■食欲不振、消化不良
湿邪は「脾(ひ)」(消化吸収を主る臓器)の働きを妨げます。
これにより、胃もたれ、膨満感、下痢、食欲不振などの消化器症状が出やすくなります。
■軟便、下痢
湿邪が脾の運化作用を阻害することで、便が軟らかくなったり、下痢になったりすることがあります。
■関節の痛み、神経痛の悪化
湿邪が関節や筋骨に停滞すると、重く、しつこい痛みを引き起こすことがあります。
元々関節痛を持つ人は悪化しやすい傾向にあります。
■皮膚トラブル
湿熱がこもると、汗疹(あせも)、湿疹、水虫といった皮膚のトラブルが悪化することもあります。
■頭重感、めまい
湿邪が上部に停滞すると、頭が重く感じたり、めまいがしたりすることがあります。
これらの熱邪と湿邪が複合的に作用することで、より複雑な体調不良を引き起こすことも珍しくありません。
例えば、熱邪による消耗と湿邪による気の巡りの悪さが重なると、疲労感がより一層強くなり、回復が遅れるといった状況も考えられます。
小暑の時期は、これらの邪気から身を守り、心身のバランスを保つための養生が特に重要となります。
東洋医学的な健康法
小暑の頃に起こりやすい心身の不調を避けるためには、東洋医学の「養生(ようじょう)」の考え方に基づいた生活習慣が非常に有効です。
ここでは、鍼灸治療と合わせて、ご家庭で実践できる具体的な健康法をご紹介します。
食養生(しょくようじょう):熱と湿を取り除く工夫
小暑の時期は、体内にこもる熱を冷まし、湿気を排出する食材を積極的に摂ることが大切です。
■熱を冷ます食材
キュウリ、ナス、トマト、冬瓜、ゴーヤなどの夏野菜は、体の余分な熱を冷ます「清熱(せいねつ)」作用があります。
また、スイカやメロンなどの果物も、水分補給と同時に清熱効果が期待できます。
■湿気を排出する食材
ハトムギ、緑豆、小豆、トウモロコシのひげ茶などは、体内の余分な水分を排出し、むくみを改善する「利水滲湿(りすいしんしつ)」作用があります。
■脾胃(消化器系)を労わる食材
湿邪は脾の働きを弱めます。
消化の良いもの、例えば鶏肉、白身魚、山芋、大豆製品などを摂り、胃腸に負担をかけないようにしましょう。冷たいものの摂りすぎは胃腸を冷やし、湿邪を助長するので注意が必要です。
温かいスープや味噌汁を適度に取り入れると良いでしょう。
■香辛料の活用
生姜や紫蘇、ミョウガなどの香りのある野菜は、気の巡りを良くし、湿気を取り除く効果も期待できます。
生活習慣の調整:心身のバランスを保つ
■適度な運動と発汗
汗をかくことで、体内の余分な熱や湿を排出できます。
ただし、炎天下での激しい運動は避け、早朝や夕方など比較的涼しい時間帯に、ウォーキングや軽いストレッチなど、心地よく汗をかける程度の運動を心がけましょう。
汗をかきすぎると津液(体液)を消耗するので注意が必要です。
■十分な睡眠
暑さで寝苦しい時期ですが、心身を休ませるためにも質の良い睡眠が不可欠です。
寝具を工夫したり、寝る前にぬるめのお風呂に入ったりして、リラックスできる環境を整えましょう。
東洋医学では、夏は夜更かしをせず、早めに就寝し、早朝に起きるのが良いとされていますが、現代の生活リズムに合わせて、無理なく睡眠時間を確保することが重要です。
■冷房との付き合い方
快適に過ごすために冷房は必要ですが、冷えすぎは体調を崩す原因になります。
室内の設定温度を下げすぎない、直接風が当たらないようにする、カーディガンなどを羽織るなどして、体を冷やしすぎない工夫をしましょう。
冷房の効いた場所と屋外を行き来することで、自律神経の乱れから体調を崩しやすくなります。
■午睡(昼寝)の活用
夏は日の出が早く、夜の時間が短くなるため、心身が消耗しやすくなります。
短い午睡を取ることで、午後の活動エネルギーを補い、心の負担を軽減することができます。
20分程度の浅い眠りが理想です。
■感情のコントロール
熱邪は「心」に影響し、イライラや焦燥感を引き起こしやすくなります。
ストレスを溜め込まず、趣味やリラックスできる時間を持つことで、精神の安定を図りましょう。
深呼吸や瞑想なども心を落ち着かせるのに有効です。
入浴法:汗をかき、心身を緩める
■ぬるめの入浴
熱いお湯ではなく、38~40℃程度のぬるめのお湯にゆっくり浸かることで、全身の血行を促進し、穏やかに発汗を促します。これにより、体内の余分な熱や湿を排出する助けとなります。
■香りの活用
アロマオイル(ラベンダー、ペパーミント、レモングラスなど)などを湯船に入れることで、リラックス効果を高め、気の巡りを良くする効果も期待できます。
薬草を使ったお風呂としては以下のようなものもあります。
・ハッカ湯:ハッカ油の清涼感が熱感やイライラを鎮めます。
・よもぎ湯:血行促進と湿の排出を助け、冷えやむくみ対策にも有効です。
・菖蒲湯:古来より邪気払いとしても用いられ、湿邪による関節痛の緩和に良いとされています。
これらの東洋医学的な養生法を日々の生活に取り入れることで、小暑の時期特有の不調を未然に防ぎ、健やかに過ごすことができるでしょう。
小暑の頃に効果的なツボ(経穴)
日々の養生法と合わせて、ご自宅で手軽に刺激できるツボを3つご紹介します。
これらのツボは、小暑の時期の不調改善に特に効果的です。
■太衝(たいしょう)
足の甲にあります。足の親指と人差し指の骨が交わる所です。
効果: 「肝」の気の滞りを疏通させ、全身の気の流れをスムーズにする作用があります。
夏の暑さによるイライラや精神的な不安定さは、東洋医学では「肝」の気の鬱滞(うったい)と関連が深いと考えられます。
太衝を刺激することで、心の熱を鎮め、精神を安定させる効果が期待できます。
また、熱邪による頭痛や目の充血、不眠などにも有効です。
■豊隆(ほうりゅう)
下腿(すね)の外側、膝と足首の中間あたりに位置しています。筋肉が盛り上がっている部分で、外くるぶしから親指8本分上の場所。
効果: 体内の「湿痰(しつたん)」を取り除く効果が高いとされています。
小暑の時期は湿邪が体に停滞しやすく、体の重だるさ、むくみ、食欲不振、痰の増加などの症状を引き起こします。
豊隆を刺激することで、脾胃の機能を高め、余分な湿気を排出する助けとなり、これらの不調の改善に寄与します。
■内関(ないかん)
手首の曲がりジワに薬指をおき指幅3本そろえて人さし指があたっているところ、腕の幅の真ん中が内関です。
効果: 「心」の動悸や胸苦しさ、吐き気、不眠、精神的な不安など、心と関連する症状に広く用いられます。
小暑の時期は熱邪が心に影響し、動悸や不眠、イライラが出やすくなります。
内関を刺激することで、心包の機能を整え、熱邪による心の負担を軽減し、精神を落ち着かせる効果が期待できます。
また、胃腸の不調(吐き気など)にも効果的です。
まとめ
小暑は本格的な夏の始まりを告げる節気であり、体は「熱」と「湿」という二つの外的な影響を受けやすくなります。
東洋医学ではこの時期に動悸・不眠・イライラ・むくみ・消化不良など、心身の不調が起こりやすいと考えます。
それを防ぐためには、「熱を冷ますこと」「湿を除くこと」「脾胃を養うこと」「心身を落ち着けること」が養生のキーポイントです。
日々の食事に涼性・利水性のある食材を取り入れ、適度な運動や入浴、冷房対策を行いながら、しっかりと心と体を休ませることが、小暑の健康管理に繋がります。
また、心身のバランスが乱れがちなこの時期には、鍼灸によるメンテナンスも効果的です。
当院では、お一人お一人の体質や現在の不調に合わせた鍼灸治療に加え、これらの養生法についても丁寧にご指導しております。
本格的な夏の不調を未然に防ぎ、健やかに過ごすためにも、ぜひお気軽にご相談ください。
皆様の健康を心よりサポートさせていただきます。
季節に合わせた暮らしと養生で、夏本番も元気に乗り切っていきましょう。
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