唾液づわりへの鍼灸症例
唾液づわりへの鍼灸治療
妊娠中のつわりは、多くの妊婦さんが経験するツラい症状の一つです。
吐き気や嘔吐、食欲不振などが一般的ですが、中には唾液が過剰に分泌される「唾液づわり」に悩まされる方もいらっしゃいます。
常に口の中に唾液が溜まり、吐き出さなければならない不快感は、日常生活に大きな支障をきたし、精神的にもツラいものです。
病院では有効な治療法が少ないとされる唾液づわりですが、東洋医学の鍼灸治療は、その症状緩和に大きな効果を発揮する可能性があります。
今回は、当院で実際に唾液づわりで苦しんでいた患者様の症例を通して、鍼灸治療がどのように症状を改善していくのかを解説いたします。
患者さまについて
年齢・性別:
30代女性。
鍼灸院に来るまでの経緯:
妊娠初期の頃からつわりがひどく、食べられず吐き気が続く(実際に嘔吐する)タイプのつわりで入院も経験されていました。
それが落ち着いたかと思えた3週間ほど前、妊娠15週目頃から今度は唾液づわりに悩まされるようになったとのことでした。
常にタオルやペットボトルに唾液を吐き出さなければならず、日常生活を送るのも困難な状況でした。
疲れると症状が悪化し、リラックスしていると少しは楽になるものの、夜間も何度も起きてしまうため不眠にも悩んでいました。
また、冷え症と強い疲労感も訴えていました。
東洋医学的考察
東洋医学では、唾液は「水(すい)」や「津液(しんえき)」という体内の潤いを保つ大切な体液の一つと考えます。
唾液の過剰分泌は、この水・津液の代謝がうまくいっていない状態、つまり体内の水分の巡りが悪くなっている状態と捉えます。
今回の患者様の場合、初期のつわりで体力を消耗し、気(生命エネルギー)と血(血液)が不足している「気血両虚(きけつりょうきょ)」の状態に加え、精神的なストレスや情緒の不安定さを示す「肝気鬱結(かんきうっけつ)」の状態が強く見られました。
とくに「肝」は、気の巡りを司るとされ、ストレスの影響を受けやすい臓腑です。
肝気の滞りが水分の代謝にも影響を及ぼし、唾液の過剰分泌を引き起こしていると考えました。
また、脾胃(消化器系)の機能低下も水分の代謝異常に関与していると考えられます。
治療方針
上記の東洋医学的考察に基づき、今回の患者様に対しては、以下の治療方針を立てました。
気血を補い、体全体の機能を高める。
肝気の巡りを改善し、精神的な安定を促す。
脾胃の機能を整え、水分の代謝を正常化する。
鍼灸治療に対して不安もあったため、できる限りソフトな刺激で、リラックスできる施術を心がけることにしました。
治療経過
1回目:
通常の仰向けでの施術がツラいため、上半身を少し起こした状態で行いました。
ななめ仰向けで、「不容(ふよう)」「中脘(ちゅうかん)」「内関(ないかん)」に棒温灸を施し、「三陰交(さんいんこう)」にはお灸、「足三里(あしさんり)」には台座灸を行いました。
うつ伏せも困難だったため、横向きで、「心兪(しんゆ)」から「脾兪(ひゆ)」にかけて、反応のあるツボに浅く鍼を刺し、棒温灸とお灸を併用しました。
2回目(10日後):
治療後、唾液づわりが改善傾向にあるとのことでした。
つわりが楽になったことで食欲も出てきたとのことでしたが、「お腹が大きくなり始めてまだ慣れない」という訴えもありました。
前回と同様の治療を行いました。
3~5回目(10日~2週間ごと):
唾液づわりはだいぶ良くなってきたとのことでした。
同様の治療を継続し、妊娠27週頃にはつわりもほぼ改善したため、鍼灸治療も終了としました。
使用した主なツボとその代表的な効果
不容(ふよう):
胃の不調や吐き気に効果があります。
中脘(ちゅうかん):
胃腸の働きを整え、消化不良や吐き気、胃もたれなどに効果があります。
内関(ないかん):
吐き気、胸のつかえ、精神安定などに効果があります。つわりによく使われるツボです。
三陰交(さんいんこう):
脾経・肝経・腎経の交わるツボで、婦人科系の疾患、冷え、むくみなどに効果があります。
足三里(あしさんり):
胃腸の働きを整え、全身の倦怠感や足の疲れなどにも効果があります。
心兪(しんゆ):
精神安定、動悸、不眠などに効果があります。
脾兪(ひゆ):
消化器系の不調、食欲不振、下痢などに効果があります。
これらのツボは、単に症状を抑えるだけでなく、体全体のバランスを整え、根本的な体質改善を促す効果があります。
まとめ
今回の症例を通して、唾液づわりに対する鍼灸治療の有効性を改めて実感しました。
病院では有効な治療法が少ないとされる唾液づわりですが、東洋医学的な視点からアプローチすることで、症状の緩和だけでなく、体全体の調子を整えることができるのです。
当院では、患者様一人ひとりの体質や症状に合わせた丁寧なカウンセリングと施術を心がけております。
もしあなたが唾液づわりでお悩みなら、ぜひ一度当院にご相談ください。
きっとお力になれると信じております。
つらい症状から解放され、穏やかなマタニティライフを送れるよう、心を込めてサポートさせていただきます。
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