突然の背中激痛発作に対する鍼灸症例
背中の激痛発作への鍼灸治療
突然、呼吸も困難になるほどの背中への激痛。
想像を絶するその痛みは、日常生活を脅かし、精神的な不安をも増幅させます。
今回は、長年この激痛発作に悩まされてきた40代男性への鍼灸症例です。
鍼灸治療を通して、発作からの解放だけでなく、心身全体の健康を取り戻していく過程を、詳細にご紹介いたします。
鍼灸治療という選択肢を知っていただくとともに、当院の治療に対する理解を深めていただければ幸いです。
患者さまについて
年齢・性別:
40代男性
鍼灸院に来るまでの経緯:
15年ほど前から、年に2回程度、冬から春にかけて、まるで発作のように背中に激痛が走るようになりました。
その痛みは呼吸すら困難にするほどで、10~15分ほど続きます。
とくに、仕事で長時間車を運転することが多いため、運転中に発作が起こるのではないかという強い不安を抱えていました。
発作時は、体を後ろに反らせたり、深呼吸をすることで多少楽になることがあったようですが、根本的な解決には至っていません。
また、花粉症がひどく、鼻詰まりが多い時期に発作が起きやすいという傾向もありました。
これまで病院を受診したことはありませんでした。
体格は水太り型の肥満体型でした。
東洋医学的考察
東洋医学では、身体の状態を「気・血・水(き・けつ・すい)」のバランスで捉えます。
この患者さまの場合、肥満体型であることから「水湿(すいしつ)」、つまり体内の水分代謝が滞っている状態が根本にあると考えられました。
さらに、長時間の運転という仕事柄、「疲労」と「運動不足」が重なり、「痰飲(たんいん)」と「瘀血(おけつ)」、つまり体内の不要な水分や血の滞りが背部の筋肉に蓄積していると判断しました。
これらの滞りが、「冷え」や「花粉症」、「運動不足」などの要因によって悪化し、許容量を超えた時に発作的な激痛として現れると考えられます。
とくに、背部は五臓六腑と密接に関わる重要な経穴(ツボ)が多く集まる部位であり、これらの機能低下も痛みを引き起こす要因となります。
治療方針
今回の治療では、以下の3点を柱としました。
水湿・痰飲・瘀血の除去:
体内の余分な水分や血の滞りを解消し、気の巡りを改善することで、痛みの根本原因にアプローチします。
脾腎(ひじん)の補強:
東洋医学では、脾は水分の代謝、腎は生命エネルギーの源を司ると考えます。
これらの機能を高めることで、体全体のバランスを整え、発作が起こりにくい体質へと改善していきます。
根本原因へのアプローチ:
日常生活における疲労や運動不足といった根本原因にも着目し、生活習慣の見直しも視野に入れたアドバイスを行いました。
発作時以外は激痛がないため、肩こりや背中のこり、腰痛など、背部の慢性的な症状を治療の指標としました。
治療経過
1回目:
仰向けで、「中脘」に棒温灸。「天枢」「足三里」「合谷」「陰陵泉」に響かせて置鍼。「足三里」には台座灸を追加。足先にはホットパック。
うつ伏せで、「肩こりの部位」「心兪~脾兪間の虚反応穴」に置鍼。「腰のコリ痛みの部位」に点灸+円皮鍼。
2回目の治療(1週間後):
腰痛の軽減が見られましたが、首から肩にかけてのこりが残っていました。
基本的には1回目と同様の治療を行い、首肩のこりに対してはパルス鍼を使用しました。
3回目から15回目(1~2週間に1回ペース):
肩こりや膝の痛み、寝違えなど、その時々の症状に丁寧に対応しながら、脾腎を補う施術を継続しました。
患者さまは仕事が多忙で過労気味でしたが、幸いにも発作は起こりませんでした。
15回目の治療を終えた時点で6月下旬となり、冬から春の発作が起こりやすい時期を無事に乗り越えられたため、一旦鍼灸治療を終了としました。
使用した主なツボとその代表的な効果
中脘(ちゅうかん):
胃の不調を整え、消化機能を促進。気血の流れを改善。
天枢(てんすう):
大腸の働きを整え、便秘や下痢を改善。腹部の張りを緩和。
足三里(あしさんり):
胃腸の働きを整え、消化不良や食欲不振を改善。免疫力向上。
合谷(ごうこく):
全身の気の巡りを改善し、痛みや炎症を緩和。
陰陵泉(いんりょうせん):
水分代謝を促進し、むくみや関節痛を改善。
心兪(しんゆ):
心臓の機能を高め、精神安定作用。
脾兪(ひゆ):
脾臓の機能を高め、消化吸収を促進。
腰のコリ痛みの部位:
局所の血行を改善し、筋肉の緊張を緩和。
これらのツボは、単に痛みを和らげるだけでなく、体全体のバランスを整え、根本的な体質改善に繋がるよう選穴されています。
まとめ
半年間の治療期間中、患者さまは発作による激痛を経験することなく過ごすことができました。
腰痛などの慢性的な症状も改善され、体質的にも良い方向へ変化が見られました。
しかし、患者さまの仕事は多忙を極め、生活習慣の改善は容易ではありません。
生活習慣の改善は、発作の再発を防ぐ上で非常に重要であることをお伝えしましたが、最終的にはご本人の意識次第です。
今回の症例を通して、鍼灸治療が激痛発作の予防に有効である可能性を示すことができました。
当院では、単に症状を抑えるだけでなく、東洋医学に基づいた丁寧な診察と施術を通して、患者さま一人ひとりの体質に合わせた根本的な改善を目指しています。
肩こりの詳しいページつはこちら
腰痛の詳しいページつはこちら