顔面神経麻痺(ベル麻痺)に対する鍼灸治療の著効例

顔面神経麻痺(ベル麻痺)に対する鍼灸治療

顔面神経麻痺(ベル麻痺)の鍼灸|鎌ケ谷・船橋・松戸

顔面神経麻痺(ベル麻痺)は、顔面神経の麻痺によって顔の片側に運動麻痺が生じる疾患です。
突然の発症と顔貌の変化は、患者様にとって大きな不安とストレスをもたらします。

当院では、顔面神経麻痺に対し、東洋医学に基づいた鍼灸治療を積極的に行っており、多くの患者様から改善のご報告をいただいております。

今回は、当院における顔面神経麻痺の治療例を通して、鍼灸治療の有効性とその詳細についてご紹介いたします

患者さまについて

年齢・性別:
40代女性

主訴:
右顔面神経麻痺(ベル麻痺)、首肩こり

現病歴:
8日前より右眼瞼閉鎖不全、眼瞼下垂、口角下垂が出現。
翌日、耳鼻科を受診し、ベル麻痺と診断。
ステロイド、抗ウイルス薬、ビタミン剤を処方される。
1週間後再診し、ビタミン剤のみの処方となる。

「鍼灸で少しでも改善すれば」との思いで当院を受診。

背景:
中学3年生の受験生を持つ母親であり、子供の受験に伴う精神的ストレスを感じている。

その他の症状:
首肩こり、精神的ストレス、睡眠の質の低下(眠りが浅い)。

この患者様は、受験生の母親という立場からくる精神的ストレスに加え、突然の顔面神経麻痺の発症という二重の苦しみを抱えていました。
当院では、単に顔の麻痺を改善するだけでなく、これらの背景にある要因にも着目し、心身両面からのアプローチを行い
ました。

東洋医学的考察

東洋医学では、顔面神経麻痺は経絡の気血の流れの滞りによって引き起こされると考えます。
とくに、顔面部を走行する陽明経と少陽経の気血の流れが重要です。
今回の患者様の場合、以下の要因が複合的に関与していると判断しました。

肝気鬱結:
受験という環境要因からくる精神的ストレスは、肝気の流れを滞らせ、気鬱を引き起こします。
肝は気の巡りを主り、メンタル面の調整もしており、ストレスによって気の流れが滞ると、全身の気血の巡りに影響を及ぼします。

風寒の侵襲:
冬の寒さは、体表から風寒の邪が侵入しやすく、経絡の気血の流れを阻害します。

気滞血瘀:
上記の要因が複合的に作用し、気血の流れが滞り、瘀血を生じさせます。
これが首肩こりの原因となり、顔面部の血流にも悪影響を及ぼします。

これらの東洋医学的な病理観に基づき、気の巡りを改善し、血流を促進する治療を行うことが重要となります。

治療方針

上記の東洋医学的考察に基づき、以下の治療方針を立てました。

肝気の流れをスムーズにし、精神的なストレスを緩和します。
体表に侵入した風寒の邪を取り除きます。
滞った血流を改善し、瘀血を取り除きます。
顔面部および全身の経絡の流れを整えます。

治療経過

1回目:
天枢の棒温灸。
右合谷と手三里、右足三里と陽陵泉にパルス鍼。
顔面神経麻痺局所(右陽白、四白、太陽周辺)に知熱灸。
肩こり局所に知熱灸、首こり局所、心兪、膈兪、肝兪に置鍼。

2回目(5日後):
麻痺に変化なし。
首肩こりに改善が見られる。

天枢の棒温灸、右足三里-陽陵泉にパルス鍼。
側頭部~前頭部の緊張部位に置鍼。
顔面麻痺局所に知熱灸。
首肩こり局所に知熱灸。
百会付近の緊張部位、首こり局所、心兪、膈兪、肝兪に置鍼。首こりに円皮鍼。

3回目(3日後):
麻痺にわずかな改善が見られる。
睡眠も改善傾向。
肩甲骨周りのこりも軽減傾向。
2回目に準じた施術を行う。

4~6回目(4日ごと):
徐々に麻痺が改善し、6回目の段階でほぼ消失。
3回目に準じて治療を行い、この回で鍼灸治療を終了とする。

治療期間中、患者様の精神状態にも配慮し、傾聴と共感に努めました。
治療を重ねるごとに、顔の麻痺だけでなく、首肩こり、睡眠の質、精神状態も改善していく様子が見られました。

使用した主なツボとその代表的な効果

・天枢(てんすう): 脾胃の機能を整え、気の巡りを改善する。温灸で用いることで、身体を温め、気血の巡りを促進する。
・合谷(ごうこく): 顔面部の症状に効果を発揮する代表的なツボ。
・手三里(てさんり): 肩こり、腕の痛みなどに効果的。
・足三里(あしさんり): 胃腸の働きを整え、全身の機能を高める。免疫力向上作用も期待できる。
・陽陵泉(ようりょうせん): 筋肉や腱の疾患、神経痛などに効果的。特に下肢の症状に用いられることが多い。
・陽白(ようはく): 前頭部の痛みや目の疾患に効果的。
・四白(しはく): 目の疾患や顔面部の症状に効果的。
・太陽(たいよう): 頭痛、目の疾患、顔面部の症状に効果的。
・心兪(しんゆ): 精神的な安定をもたらし、不眠や動悸などに効果的。
・膈兪(かくゆ): 血液循環を改善し、様々な症状に効果を発揮する。
・肝兪(かんゆ): 肝機能を整え、精神的なストレスや目の疾患などに効果的。
・百会(ひゃくえ): 精神的な安定や頭痛、めまいなどに効果的。

これらのツボを組み合わせることで、患者様の症状に合わせた最適な治療を行うことができました。
特に、顔面部の局所には知熱灸を用いることで、温熱刺激による血行促進と、灸の持つ鎮静作用により、麻痺の改善を促しました。

まとめ

顔面神経麻痺は、適切な治療を受けることで改善が期待できる疾患です

顔面神経麻痺の治療においては、西洋医学的な検査・治療(ステロイド投与など)をいち早く受けてください。
その後に鍼灸治療を併用することでより高い効果が期待できます。

本症例では、顔面神経麻痺(ベル麻痺)に対して、西洋医学の治療と併用する形で、東洋医学的なアプローチで改善効果を得ることができました

鍼灸治療は、単に症状を抑えるだけでなく、身体全体のバランスを整え、自然治癒力を高める効果があります。
今回の治療を通して、顔の麻痺だけでなく、首肩こり、睡眠の質、精神状態といった、患者様が抱えていた複合的な症状が同時に改善されたことは、鍼灸治療が心身全体に及ぼす効果を示す好例と言えるでしょう。

当院では、患者様一人ひとりの状態を丁寧に把握し、最適な治療を提供することを心がけております。

症状別のページも参照ください。

顔面神経麻痺