乳がんの抗がん剤の副作用への鍼灸症例

乳がん抗がん剤副作用に対する鍼灸治療

副作用

近年、乳がんは女性にとって罹患率の高い疾患の一つとなっています。
幸い、医療技術の進歩により、早期発見・早期治療が可能となり、多くの方が社会復帰を果たしています。

しかし、抗がん剤治療に伴う副作用は、患者様のQOL(生活の質)を著しく低下させる要因となります。

当院では、抗がん剤治療の副作用に苦しむ患者様に対し、東洋医学に基づく鍼灸治療を提供し、症状の緩和と治療の継続をサポートしています。

今回は、乳がんの抗がん剤治療中に副作用に苦しむ30代女性への鍼灸症例です

当院の鍼灸治療がどのように患者様の苦痛を和らげ、治療を支える力となったのかを報告いたします

この記事を通して、抗がん剤治療の副作用でお悩みの方々に、鍼灸治療という選択肢を知っていただき、少しでもお役に立てれば幸いです。

患者さまについて

年齢・性別:
30代女性

鍼灸院に来るまでの経緯:
主訴は「乳がん抗がん剤治療に伴う副作用(足のだるさ、むくみ、吐き気、便秘、肩から背中~腰にかけてのこり、痛み)」です。

7ヶ月前の健診エコー検査で要再検査となり、精査の結果、左乳房の乳がんと診断。リンパ節転移を伴うステージ3aと診断されました。

術前抗がん剤治療後の全摘出手術を提案され、同意しました。
3ヶ月前から抗がん剤治療を開始し、1種類目の抗がん剤治療を終え、次の治療に移行予定です。

副作用の緩和を目的として当院を受診。

東洋医学的考察

東洋医学では、抗がん剤治療は正気(生命力、免疫力)を消耗し、気血の巡りを阻害すると考えます。

患者様は、足のだるさ、むくみは脾の機能低下による水液代謝の異常、吐き気、便秘は胃腸の機能低下、肩から背中~腰にかけてのこり、痛みは気血の滞りによって引き起こされていると判断しました。

また、抗がん剤治療による身体への負担を考慮し、肝・脾・腎の機能を補うことが重要であると考えました。

具体的には、
「脾」は飲食物を消化吸収し、全身に栄養を運ぶ役割を担っていますが、抗がん剤の影響でその機能が低下すると、むくみや食欲不振、倦怠感などが現れやすくなります。
「肝」は気血の流れをスムーズにする役割を担っていますが、その機能が低下すると、イライラや情緒不安定、肩こりなどが現れやすくなります。
「腎」は生命の根本的なエネルギーを蓄える場所とされ、その機能が低下すると、全身の倦怠感や冷え、足腰の痛みなどが現れやすくなります。

これらの東洋医学的な観点から、患者様の症状を根本から改善していく治療方針を立てました。

治療方針

抗がん剤治療中であることを考慮し、身体への負担を最小限に抑えつつ、気血の巡りを整えることを基本方針としました。

具体的には、以下の点を重視しました。

補虚扶正(ほきょふせい):
抗がん剤治療で消耗した正気を補い、身体の抵抗力を高める。

疏肝理気(そかんりき):
肝の機能を整え、気血の巡りをスムーズにする。

健脾和胃(けんぴいわい):
脾胃の機能を高め、消化吸収を促進し、吐き気や便秘を改善する。

活血止痛(かっけつしつう):
血行を促進し、こりや痛みを緩和する。

これらの治療原則に基づき、患者様の体質や症状に合わせて、適切なツボ(経穴)を選択し、鍼灸治療を行いました。

治療経過

1回目:
仰向けで、「中脘」「天枢」に浅鍼とお灸をしました。「三陰交」「太衝」「合谷」「内関」に置鍼をしました。
うつ伏せで、「風池」「肩こりの部位」「心兪」「膈兪」「脾兪」「三焦兪」に鍼とお灸を行いました。

治療後、体が温まり、少し楽になったとのことでした。

2~10回目(1~2週間に1回ペース):
むくみ、便秘、味覚障害が強く出てきたため、脾胃の機能強化に重点を置いた治療を行いました。

仰向けで、「足三里」「陰陵泉」「曲池」「臍周辺の硬いところ」に鍼を行い、足にはパルス通電を追加しました。
うつ伏せで、「風池」「心兪」「脾兪」「志室」に鍼、「身柱」「神堂」「脊中」「命門」にはせんねん灸を行いました。

治療を重ねるごとに、むくみや便秘、吐き気の症状が徐々に緩和していきました。

抗がん剤治療を行うと一時的に体調が落ちるものの、その後は鍼灸治療によって回復していくというサイクルを繰り返しました。
食事はなんとか摂れており、睡眠も問題ないとのことでした。

鍼灸治療が10回を終了するころ、抗がん剤治療も終了したため、一旦鍼灸治療は終了としました。

手術に向けて、また手術後の体力回復にも鍼灸が有効であることをお伝えしましたが、患者様のご希望により、抗がん剤対策としての鍼灸ということで終了となりました。

使用した主なツボとその代表的な効果

中脘(ちゅうかん):
胃の中央に位置し、胃腸の機能を整え、吐き気、嘔吐、食欲不振などに効果があります。

天枢(てんすう):
おへその両側に位置し、大腸の働きを整え、便秘、下痢、腹痛などに効果があります。

三陰交(さんいんこう):
内くるぶしの上部に位置し、肝・脾・腎の機能を整え、むくみ、冷え、生理不順などに効果があります。

太衝(たいしょう):
足の甲に位置し、肝の機能を整え、イライラ、頭痛、めまいなどに効果があります。

合谷(ごうこく):
手の甲に位置し、全身の気血の流れを整え、痛み、便秘、免疫力向上などに効果があります。

内関(ないかん):
腕の内側に位置し、胸部の不快感を和らげ、吐き気、動悸、不眠などに効果があります。

風池(ふうち):
首の後ろに位置し、首や肩のこり、頭痛、めまいなどに効果があります。

心兪(しんゆ):
背部に位置し、精神的な安定を促し、動悸、不安、不眠などに効果があります。

脾兪(ひゆ):
背部に位置し、脾の機能を整え、消化不良、食欲不振、むくみなどに効果があります。

三焦兪(さんしょうゆ):
背部に位置し、水液代謝を調整し、むくみ、排尿異常などに効果があります。

足三里(あしさんり):
膝の下に位置し、胃腸の機能を整え、食欲不振、消化不良、足の疲れなどに効果があります。

陰陵泉(いんりょうせん):
膝の内側に位置し、水液代謝を調整し、むくみ、下痢、排尿異常などに効果があります。

曲池(きょくち):
肘の外側に位置し、炎症を抑え、皮膚疾患、関節痛などに効果があります。

志室(ししつ):
背部に位置し、腎の機能を高め、腰痛、精力減退などに効果があります。

身柱(しんちゅう):
背部に位置し、免疫力を高め、風邪予防、虚弱体質改善などに効果があります。

神堂(しんどう):
背部に位置し、精神的な安定を促し、不安、不眠などに効果があります。

脊中(せきちゅう):
背部に位置し、消化器系の機能を整え、食欲不振、消化不良などに効果があります。

命門(めいもん):
腰部に位置し、生命エネルギーを高め、腰痛、冷え、精力減退などに効果があります。

まとめ

本症例では、乳がん抗がん剤治療に伴う副作用に対し、東洋医学に基づいた鍼灸治療を行うことで、患者様の苦痛を緩和し、治療の継続をサポートすることができました
鍼灸治療は、副作用を根本的に解消するために、ひとつ有効な手段だと考えます。

西洋医学でできることを最大限に行いつつ、そのデメリット(副作用や体力低下)を東洋医学で補うのは、とても有効な方法だと思います。

これをお読みの方で、ガンそのもののお悩みや手術や薬の副作用などでお悩みの方は、病院以外の方法として鍼灸治療も検討してみてください。

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