つわり(吐き気・ゲップ)への鍼灸症例

つわりへの鍼灸治療

つわり

妊娠は女性にとって人生における大きな喜びの一つですが、同時に様々な体調の変化をもたらす時期でもあります。
その中でも特に多くの方が経験するのが「つわり」です。

吐き気、嘔吐、食欲不振、倦怠感など、その症状は人それぞれで、日常生活に支障をきたすほどツラい場合もあります。

当院には、これまで多くの「つわり」に悩む妊婦さんが来院され、鍼灸治療を通して症状の緩和、そして妊娠生活の質の向上をサポートしてまいりました。

今回は、当院の鍼灸治療が「つわり」にどのように効果を発揮するのかをご紹介いたします

この記事を通して、一人でも多くの「つわり」に苦しむ妊婦さんが、鍼灸治療に希望を見出し、健やかなマタニティライフを送られることを心から願っております。

患者さまについて

年齢・性別:
30代女性。

鍼灸院に来るまでの経緯:
来院時は、妊娠13週目を迎えられた頃でした。

妊娠8週頃から「つわり」の症状が現れ始め、とくに吐き気とゲップがひどく、日常生活を送るのも困難なほどでした。
来院される2週間前が最も症状が重く、ご自身の言葉で「10段階で10」と表現されるほどのツラさだったそうです。

その後、多少症状は落ち着いてきたものの、来院時でも「3~4/10」程度のツラが続いており、横になっていると少し楽になるものの、冷えや疲れ、ストレスによって症状が悪化する傾向がありました。

また、「つわり」の症状に加えて、倦怠感、頭痛、冷えのぼせなども併発しており、全身的なケアを希望されていました。

東洋医学的考察

東洋医学では、「つわり」は気の巡りの乱れや、胃腸の機能低下が原因と考えます。
とくに、妊娠中は胎児を育むために母体に多くの血液が集まるため、胃腸の働きが滞りやすくなります。

患者さまの場合、元々疲れやすい体質(脾虚)があり、妊娠によってさらに胃腸の機能が低下したことが、「つわり」の症状を悪化させた要因の一つと考えられました。

また、精神的なストレス(肝うつ)も気の巡りを悪くし、胃腸の不調につながっている可能性も考慮しました。

東洋医学の五行論でいう「木克土」の関係、すなわち肝(木)の機能失調が脾(土)の機能低下を招いている状態です。

そこで、中焦(胃腸)の気の巡りを改善することで、全身の気の流れを整え、冷えのぼせなどの症状にも対応する治療方針を立てました。

治療方針

まず弱っている胃腸の機能を高め、気の巡りを改善することを目標としました。

具体的には、以下の点を重視しました。

脾胃の機能回復:
弱った胃腸の働きを高め、消化吸収機能を改善することで、吐き気やゲップなどの症状を緩和します。

気の巡りの改善:
全身の気の流れをスムーズにし、特に中焦の滞りを解消することで、冷えのぼせや頭痛などの症状を改善します。

心身のリラックス:
鍼灸治療によるリラックス効果で、精神的なストレスを軽減し、自律神経のバランスを整えます。

これらの点を考慮し、患者様の体質や症状に合わせたオーダーメイドの治療を行いました。

治療経過

1回目:
初回は、身体の状態を把握するために簡易的な施術を行いました。
うつ伏せで、背部にある「心兪」「脾兪」「肝兪」といったツボに鍼を浅く刺し、「肝兪」にはお灸も行いました。
これらのツボは、心臓、脾臓、肝臓と密接な関係があり、それぞれの機能を調整する効果があります。

2回目(3日後):
前回の治療に加えて、手足のツボにも鍼を追加しました。
仰向けで、「内関」「陰陵泉」「足三里」「太谿」といったツボに鍼を浅く刺し、「三陰交」には棒温灸を行いました。うつ伏せで、肩こりの緩和を目的にローラー鍼を使用し、「隔兪」「肝兪」「脾兪」には胃の六つ灸、「胸椎4番辺りの圧痛部」には棒温灸を行いました。

2回目の治療後、「つわり」の症状は大幅に改善し、ご自身の評価で「1/10」まで軽減しました。

3回目(2日後):
良い状態が持続していました。
基本的な施術内容は前回と同様とし、さらに「督脈上の圧痛部(胸椎4~9番辺り)」に円皮鍼(0.3ミリ)を貼りました。

症状が安定していたため、この日で鍼灸治療を終了としました。

わずか3回の治療で「つわり」の症状がほぼ消失するという効果が現れました。

使用した主なツボとその代表的な効果

治療で使用した主なツボとその代表的な効果をご紹介します。

心兪(しんゆ):
心臓の機能を調整し、精神的な安定をもたらします。

脾兪(ひゆ):
脾臓の機能を高め、消化吸収を促進します。

肝兪(かんゆ):
肝臓の機能を調整し、気の巡りを改善します。

内関(ないかん):
吐き気、嘔吐、胸のつかえなどに効果があります。

陰陵泉(いんりょうせん):
胃腸の機能を整え、水分代謝を改善します。

足三里(あしさんり):
胃腸の働きを整え、全身の活力を高めます。

太谿(たいけい):
腎臓の機能を高め、体全体の水分バランスを整えます。

三陰交(さんいんこう):
女性特有の症状に効果があり、冷えや生理不順などを改善します。

隔兪(かくゆ):
横隔膜の緊張を緩和し、呼吸を楽にします。

督脈(とくみゃく):
全身の陽気を巡らせ、免疫力を高めます。

これらのツボを組み合わせることで、「つわり」の症状に効果的にアプローチすることができました。

まとめ

今回の症例では、3回の鍼灸治療で「つわり」の症状が劇的に改善しました

たまたま「つわり」が終息する時期と重なった可能性もありますが、鍼灸治療が症状の緩和に貢献したことは間違いありません。

当院では、不妊治療から継続して通院されている患者様が多く、妊娠前から体質改善を行うことで、「つわり」の症状を軽減、あるいは予防することにも力を入れています。

しかし、それでも「つわり」の症状が出てしまう場合は、症状が重い方が多い印象です。
逆に、今回のように「つわり」を主訴として初めて来院された方の場合、比較的症状が重くても鍼灸治療の効果が出やすい傾向があります。

これは、鍼灸治療が身体本来の自然治癒力を高めることで、症状の根本原因にアプローチするためだと考えられます。

当院では、一人ひとりの患者様の症状や体質に合わせた丁寧なカウンセリングと施術を心がけております。
「つわり」でお悩みの方はもちろん、その他にも様々な体調不良でお困りの方は、ぜひ一度当院にご相談ください。

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