耳鳴りに鍼治療が有効との研究
耳鳴りに鍼治療が有効との研究
耳鳴りは「拍動性耳鳴り」と「非拍動性耳鳴り」に大別することができます。
拍動性耳鳴りとは心臓の鼓動のように一定のリズムで脈打つタイプの耳鳴りで、非拍動性耳鳴りとは一本調子な音色でリズムのない耳鳴りのことをいいます。
拍動性耳鳴りは、動脈硬化・高血圧・片頭痛・不整脈・薬の副作用などが原因で起こります。
非拍動性耳鳴りでもっとも多い原因は「難聴」です。
耳鳴りにかかわる難聴には、大きく2つの原因があります。
1つ目は加齢による難聴、2つ目はストレスによる難聴と言われています。
非脈動性耳鳴りはほとんど主観的なもので、程度も軽度から重度まで様々です。
軽度の耳鳴りはさほど耳障りではなく生活できるし、重度の耳鳴りは非常に厄介で患者さんの「生活の質」を妨げます。
今回はこの「慢性の非拍動性の耳鳴りに鍼灸が効果あるのか?」を調べた研究を紹介します。
『慢性非拍動性耳鳴りのための鍼治療』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5771359/
【概要】
耳鳴りに対する鍼治療の効果についてはほとんど研究されていない。
本研究では、慢性非拍動性耳鳴に対する鍼治療の効果を評価した。
慢性非拍動性耳鳴りを患っている患者を無作為に2つの「鍼治療群」と「ニセ鍼治療群」に分けた。
彼らは15回治療を受け、耳鳴り重症度指数(TSI)の検査と視覚アナログスケール(VAS)のアンケートを報告した。
結果。
「鍼治療群」は男性26人・女性18人であり、「ニセ鍼治療群」は男性27人・女性17人で、平均年齢はそれぞれ49.11±1.07歳と55.20±8.33歳であった。
治療5回目、10回目および15回目の治療終了時、および治療期間終了後3週間目に、変化を確認した。
結果、両方の群で治療前より改善したが「鍼治療群」の方がより大きく改善した。
結論。
鍼治療は耳鳴りの自覚および程度を低減するのに有効であり、非拍動性慢性耳鳴りの有用な治療法となり得る。
「治療方法」
・使用したツボは、聴会GB2、風池GB20、耳門SJ21、聴宮SI19、翳風SJ17、中渚SJ3、外関SJ5、合谷LI4、および養老SI6など、耳鳴り治療に適したツボを選択。
週3回で15回の鍼治療を行った。
熟練した鍼灸師によって行われた。
使用された鍼は0.3×0.25mmであった。
・ニセ鍼治療群では、真のツボに隣接する(耳鳴りに影響を及ぼさない)場所を選び、偽の鍼を用いて治療された。
偽の鍼とは、皮膚に刺さらず、完全に無痛で無害なものである。
治療頻度や回数などは鍼治療群に同じ。
※研究に当たり除外した耳鳴りの基準は、「拍動性耳鳴り」「メニエール病および他のタイプのめまい」「前庭神経鞘腫、耳硬化症」「妊娠中」「質問票に応答することが困難な精神障害」でした。
当院の考察
加齢やストレス原因ではないかと推察される「非拍動性耳鳴り」に鍼灸が効く、という結果でした。
ちなみにこの論文はイランでの研究。珍しいですね(笑)
鍼灸が世界規模で広まってきていることを感じます。
話を戻して。
あくまで「鍼灸は効果あり」という結果でしたが、実際日々治療をしていて「高齢による耳鳴り・難聴」は難しいというのが実感です。
私の“ウデ”の問題かもしれませんが、加齢による症状は大きな改善が厳しい印象は持っています。
一般的には加齢による耳鳴りは「腎虚」(生命力の低下)が原因とみられるので、それが逆転して向上していくのは難しいというのが理由です。
一方、ストレス関連の耳鳴りなどは改善が期待できます。
これは、鍼灸の持つ「ストレス緩和作用」が期待できるからです。
ストレスによる自律神経の乱れは、一般的に鍼灸の得意症状です。
もちろん、程度や状況次第ですので「何でもかんでも治ります!」などとは絶対に言えません。
論文での治療頻度は「週3回で5週間(合計15回)」でした。
高頻度でいいですね。
大事なのは、ある程度の頻度である程度の期間治療を継続することです。
当院では、「週1回を3ヶ月(計12回程度)」というのがオーソドックスな提案になります。
「週2回で2ヶ月(計16回程度)」でもよいかもしれません。
論文での治療場所(使用したツボ)も、「耳の周辺(局所)」だけでなく、「腕(遠隔部)」もあり、経絡なども意識していることがうかがえます。
このように、全身から必要なツボをセレクトしていくのが改善には必要と考えます。
当院でも「全身鍼灸」というスタイルで治療に当たっています。
今回のケースなら、足にも大事なツボがあると考えます。
耳鳴りも軽度なら忘れていられる程度でしょうが、気になる・不快であるということなら鍼灸も検討手段になると考えます。
まずは病院で耳鳴りの原因などを調べ、病院でできる治療は受けられるのが良いと思います。
その後(もしくは併用しても可)、病院以外の何か治療はないだろうか、と考えた際は、鍼灸を活用してみてください。
お待ちしています。