鍼灸師が突発性難聴になった体験談

私(院長)自身の突発性難聴の体験談

突発性難聴体験談・写真1
私も突発性難聴の患者ですので、その体験談を話します。

この病気は40~60代に多いなどと言われます。
47歳の時に発症したので、まさに適齢期でした(苦笑)

まずは状況の背景から書きます。

この年は、冬から春に新型コロナがパンデミックを迎え、未知の病気でしたので全国的に学校は長期休校・飲食宿泊だけでなく多くの種類のお店も長期閉店となった年でした。
当鍼灸院も安全安心のために一時的に治療院をお休みにしました。
そんなこともあり経営への不安が色濃くあった時期です。

もちろん感染そのものへの恐れもありました。
自分だけでなく家族が感染することも怖かったです。

さらにちょうど同じころ、同居の母親の体調不良も重なり、自分への家事負担が一気に増した時期でもありました。

発症の前日

感染予防に神経を使う“新しい日常”、コロナ禍での経営不安、家事負担の増大…。
そんな状態が半年ほど続きました。
夏の暑さはここ数年通り異常な暑さでしたが、それがようやく峠を越え始めた頃です。

発症前日の午後、
生まれて初めて右耳に「耳鳴り」を感じました。
その時は、「これが耳鳴りというやつか?」という程度のかすかなもので、ちょっとした違和感でした。

今思えばそれは半日後に起こる「大爆発」の前兆だったのですが、カラダも普段通り動くし、食欲もあるし、夏の暑さからくる疲れで少し自律神経系が弱っているのかな!?くらいに思っていました。

夕飯も食べ入浴も済ませ、本当に普通に生活し、就寝しました。

その日

時間は不明だが深夜から明け方にふと目が覚めました。
その時点で「体がヘン!」と気づきました。

まず、猛烈なめまい。
仰向け状態から頭をどちらかに傾けるだけでグワーとめまい。
寝返りしようとすればそれがさらに増し、右耳が聞こえていないこともその時点で自覚しました。

寝ている状態から、頭を持ち上げるだけでグワングワン目が回り、吐き気がきて、脂汗ダラダラ、呼吸もバクバクしました。

とてもじゃないけど動けません。
寝る姿勢に戻って数分静かにしてると落ち着きます。

片耳が聞こえず、めまいがあり、でも他に体の違和感はないので「突発性難聴かメニエール病」だろうと想像はしました。
なので、命の危険はあまり感じませんでした。

朝になり家族に状況を知らせてから、半日様子を見ましたが状況は変わりません。
一回トイレに行った時は、めまいのせいで「洗濯機の中に放り込まれた」ようで、本当に這ってトイレに行き、ふとんに戻った時にはしばらく呼吸が落ち着くまで動けませんでした。

午後に救急車を呼び、総合病院へ搬送されました。
初の救急車でした…涙

そこから脳の検査・心臓の検査など経て、結局「突発性難聴しかも重度」と診断されました。
ステロイド大量投与が唯一の方法とのこと。

その時点で予後は厳しそうだ、と感じました。

超絶めまいがあった理由がこの突発的な右耳の自爆テロのような破壊からきているのだとしたら、聴力がほぼないのも合点がいきます。
逆にここまで破壊されなかった人はめまいも軽く、それゆえに改善の余地があるのだろうと思いました。

片耳難聴者??
この時点で、まだ自分事とは思えないのが正直なところでした。

この時感じたこと。

『今回のような突然的な事故(急性病)で死んでいたかもしれないと考えれば、少なくとも何とかまだこの世で生きていけそうではある。
それだけでもめっけものだとは感じている。
少なくともめまいは何とか完治してほしい。
耳鳴り難聴は、この状態で今後数十年生きるのはたしかにチト鬱陶しい気もするなぁ。
当たり前にまだ覚悟はできてはいない。
まだまだ不便は生活してるうちに起きるんだろうな、イヤハヤ。』

入院中

初日は頭を動かすこともできないので、ただひたすら寝ていました。
ここまでで体の消耗が激しかったせいか、ひたすら寝れました。

吐き気止めのような薬(点滴)もされていたせいか、少しずつ頭を動かせるようになる→上半身を起こせるようになる→立ち上がれるようになる→トイレくらいには行けるようになる…というプロセスを経ていきました。

でもめまい・フラつきはあるので、すぐ横にならないとダメな状態でした。

1週間後

(結構無理を言って(笑))退院して、在宅で療養とステロイド薬を開始しました。

この時点でめまいの具合は、最初よりは少しずつ改善してきました。

この頃は、
顔が揺れる行動をすると、必ずフラ~ときました。
頭の左右の動きよりも、上下の動きがとくにこたえました。

例をいくつか挙げます。

・うなずきながら話をしてると(気持ち悪くなって)不快になってくるので、「ウンウンそうだよね」的な話しを座って長くするのはツラかったです。

・お風呂で頭を洗うのが一番ツラかったです。頭をシェイクシェイクだからな~(苦笑)

・歯磨きは最初は頭が揺れるのでつらかったですがこの頃には大丈夫になってきました。

・自転車。
走行中の微振動で軽くふらつきました。
ゆっくり真っ直ぐ走る分は大丈夫なのですが、道を曲がるときに自転車を上手く制御できないから(フラつくから)予想より曲がりすぎたり・フラフラ~とした動きになってました。
傍目には、たぶん酔っぱらいが自転車運転してる感じと似てるのではないかと推察します。
※ちなみに、危なくないように近所だけ & 超ゆっくり & すいてる道を走行しました。

・リビングとキッチンをチョコチョコ行き来するような動作で、ふらつき(めまい)から気持ち悪くになりました。
細かい動きを連続するのが難しかったです。

・気持ち悪くなっても、ゴロンと横になればものの数分で落ち着きました。
ただし不快になった後だから、「よしもう一度動こう!」という気持ちなるには精神的に時間がかかりました(笑)

めまいに関して、発症から最初の数日は日ごとに大幅な改善がありましたが、1週間くらいたつとそれはなくなってきました。
地味な改善を期待していました。
活動時間30分が60分に、120分に…とね。

発症1週間での、めまいはこんな感じでした。

ところで、
「病気には無意識レベルの意味がある」「現れる症状には深層に意味がある」といいます。
たとえば婦人科疾患は「母性への拒否感や歪みがあるから」とか、眼科疾患なら「見たくないものを見ないようにしてきたから」や「心の目(視野)が狭いから」とかよくありますよね。

私の場合、耳なので「あなたが耳の病気になったのは、人からの意見に耳を貸してこなかったから」とでも言えるでしょうか。
自分勝手に生きてきたツケだろうよ、と。

こういう考え方があるのはわかります。
たしかに、一つの考え方だとも感じます。

でも今回、自分事としてリアルに感じたのは「うるせ~!!」。

この頃書いていた日記を引用します(笑)

『だからなんだって言うのか!?
生き方の歪みが発病原因だとしても、わざと歪んだわけじゃねぇし、一生懸命生きてるうちに出来てきた自分なりのクセが歪みだろ。
そしてそんな歪みを抱えていることなんか、自分ではちっとも感じちゃいねぇんだよ。実際。
だから、それを事前に把握して修正して…、なんてできるわけがない。

何が言いたいかというと、
どういう病気になっても、それは「その人のせいじゃない」ってこと。

少なくとも、普段の表層意識で生きてる自分のせいじゃない。
普段の「意識」では、そんな深い深層心理的な理由にはたどり着けない。

だから、
いつどこにどういう病気が起こるのか。
そんなのは知らん!分からん!
起こることを事前に防ぐことはできない。
そして、それは誰のせいでもない。

これはしっかり書いておきたい。

誰のせいでもない。
自分のせいでもない。
今までの心持ちやら生活習慣やら、そんな過去の自分のせいでもない。
オレのせいじゃないね。

ただし、
一旦ことが起きたら、今度はそれを引き受けるのはオレ自身の課題だ。
だから、耳が聞こえづらくなったことは、おれ自身の問題として抱えていこう。』

2週間後

仕事再開。
この頃は、下を向いてチョコチョコ動くとめまいがしていました。
なので、しっかり鍼灸できるかな、と若干不安でした。

実際に施術してみて、ゆっくりペースでやれば問題はなさそうなことが判明。
良かった。

また、
仕事できることへの安堵と喜びがあった。
やっぱり嬉しいなぁ。
やれなきゃ食うに困る、というのもあるけど、単純に鍼灸して楽しいのが大きい。
ありがたいと思いました。

3週間後

めまいは、まだもちろん残っています。
ただし、毎日少しずつはよくなっているようでした。

屋内での動きでは、さほどこたえることはなくなってきました。

ただバランスが悪いというか、右耳が聞こえていないので空間把握能力にブレがあるようで、左右によくぶつかっていました。
右側にぶつかることが多かった印象です。
これが空間把握のせいなのか?フラつくせいなのか?その辺は不明でした。

この頃にめまいを一番感じたのは、外を歩いているとき。

歩く動作で頭が微振動するせいか、フワフワする。
気持ち悪くなったりはしないので、フワフワ状態のまま歩けるのですが、気持ち良いものではなかったです。

自転車も同様。
万事ゆっくり目に行う必要がありました。
ついつい以前と同じようなスピードやキレで動きたいけど、やっぱり無理でしたね。
本当にゆっくりゆっくり走っていました。

1ヶ月後

ちょうどステロイドが終わった頃です。

このころ、右耳がちょっと聞こえることに気づきました。

まぁ、
正確に言えば「全く聞こえないけど、音によっては耳で何かを微かに感知できる」というレベル。
信号の青色時のBGMのピーピーなるような電子音が、そのまま聞こえるじゃないけどヘンで微かだけど、何か鳴ってる感がでてきていました。

右耳も頑張っているなぁと思いました。

1ヶ月半後

定期的な聴力検査を3週間ぶりに受けました。

結果は、検査データ上は前回より少し改善。

でも、数値は70前後なので体感的には聞こえていないことには変わりなかったです。
医師からは「数値で40くらいになると聴こえている感も出るんだけどね…」と。

右耳の聞こえに関して。
これまた医師から「右もじつは聞こえていないわけではない。かなり大きな音だと聞こえるはず。右耳にイヤホンして大音量で流せば聞こえるはず」とのこと。

右耳のイヤホンで音楽聞いてみたけど、たしかに「聞こえる」。
ただし、全ての周波数で均等に聞こえるわけではないので、大音量にするからと言ってきれいに聞こえるわけではなかった。
聞きやすい音は聞こえるし、聞こえづらい音は音を大きくしても聞こえないので、音楽としては聞こえないけど少なくとも「大きな音なら右耳も何か“音”は聞こえている」のは分かりました。

それ以降

突発性難聴体験談・写真2
3ヶ月くらいで通院も終了しました。
聴力検査自体は毎回少しは改善しましたが、「体感的には聞こえない」のは不変でした。
※その後3年たった今に至るもそのままです。

頭を高速でブンブン振るとフラ~っと目が泳ぐような状態(数秒で消える)は1年くらいはゆっくり減りながら続いたと思います。
同様に寝返りも、素早く180度反対向きに寝返るとフワ~っとした感覚になりました。

ただしこれは日常生活ではほとんどしない動作なので、日常生活では大きく困ることはなくなっていました。

それ以降は「疲れている時にそういうのが出やすい」ようになり、ふらっと目が泳ぐようになるのが疲れのバロメーターみたいになっていた時期がありました。

2年から3年過ぎさすがにそういうこともほぼなくなりました。
今では右耳が聞こえないことを除けば前と同じように生活しています。

片耳が聞こえないことで起こる不便はありますが、日常生活では大きなトラブルにはなりません。
この「不便」については、またいずれ機会があれば書きたいです。

セルフケアの内容

セルフケアは、
・耳へ気血を巡らせるための耳と耳周囲のツボ押し
・全身の自律神経系の活性化のための爪もみ
・そしてストレス緩和(気滞解消)のための腕や胸のツボ押し
・リラックス作用を企図した呼吸法
…です。

道具を使わず、最小限の動きだけでできるような内容にしました。
入院初日か2日目から、セルフケアを始めていました。

少なくとも3ヶ月間は確実に毎日2~3回、これらを行っていました。

爪もみ

爪もみ手写真
両手足の、各指の爪の生え際から2ミリ程下を左右から挟むようにイタ気持ちよいくらいにつまみます。
基本はゆっくり10秒間で、とくに痛く感じた指は20秒つまんでください。ホカホカ温かくなるのも目安です。
めまいのあった頃は足にはできなかったので手のみでした。
1日に3回。

耳ツボもみ

突発性難聴体験談・写真3
耳には体全体のツボがあります。
まんべんなく耳全体をもみます。2~3分間。耳がホカホカ温かくなるのも目安です。

耳に良い耳周囲のツボは耳を囲むようにあります。
そこも一緒に押したりもんだりします。

1日に3回。

リラックスのツボ押し

この時は「合谷」「内関」「膻中」を使いました。
ゆっくり圧を加えるように押し、5秒数えて、ゆっくり離す。
それを10回程度繰り返します。
膻中穴は指の腹でこするようにさするように刺激しました。
1日3回。

「合谷」
突発性難聴体験談・写真5
「内関」
突発性難聴体験談・写真6
「膻中」
突発性難聴体験談・写真7

呼吸法(腹式呼吸)

ツボ押しをしながら呼吸法を併用するとより効果的です。
色々な呼吸法がありますので、知っている呼吸法があればそれで構いません。
ここでは一例をご案内します。
まず口から完全に息を吐き切った後に、鼻から4秒間、息を吸います。この時、お腹を膨らませます。
そこから7秒間、息を止めます。
その後、8秒間かけてゆっくりと口から息を吐き出しましょう。この時お腹をへこませます。
これを5回~10回繰り返す。 1日に3回。
(※秒数はあくまで目安ですので、自分に合わせて行ってください。)

突発性難聴を経て考えたこと

突発性難聴の写真・5
発症から3年以上が経ちました。

(お店など)周りから色々な音がする場所では聞こえづらい・前後左右どちらからの音かが分かりづらい・そもそも普通に聞こえる音量が大きくないと聞こえづらい…など、片耳難聴ならではの「不便」はあります。

でも、
あの強烈なめまいは去り、難聴以外の後遺症はなく…、大病したという意味では最小限の被害で済んだのかなと思います。

(私のこの病気はさほど大きくないですが)「大きな病気」は「人生の危機」です
そんなことが起こらず平穏に過ごせれば一番ですが、病気に限らずそういう危機は起こるものです。

その時に危機から何を得るかが大事だろうと思います。

目指すレベルが「前と同じに戻る」だけでは、しんどい思いをした分だけもったいないです。

その危機から学んで成長して、
危機が起こる前よりももっと幸せにならないといけないと考えます。

私は、自分の人生で大事にしたいヒト・モノ・コトを再確認しました。
・家族と一緒に過ごす時間は大事。
・イヤなことをしている時間はもったいない。
・過剰な欲やプライドやエゴを捨ててシンプルな生活の維持に基準を設定しよう。
・死んでもあの世に持っていけるモノを大事にしよう。
…などなど。

それまでも考えてきたことですが、頭でなくより心で腑に落ちるきっかけになりました。
これは私の人生にとって転換点のひとつになりました。
なので、自分を成長させてくれた、決して不幸な出来事ではなかったと感じています。
(もちろんこういう経験をしないで、その境地になれたらそれが一番です(笑))

まとめ

いち鍼灸師としては、病や人生の危機に苦しむ人を鍼灸という方法で少しでも和らげたい思いが増しました。
突発性難聴ひとつとっても、そのツラさや不快さは実体験で分かるつもりです。

鍼灸(東洋医学)は、耳鼻科の病院(西洋医学)と同時並行で使うことでより効果を発揮すると感じます。

突発性難聴は時間勝負なところもあります。
早い段階からの鍼灸活用をお勧めします。

当院でも突発性難聴への施術はしております。
少しでも改善するためのお手伝いをさせてください。

詳細はこちら『突発性難聴の鍼灸ページ』をご覧ください。