放射線治療の副作用(食道炎)の鍼灸症例

放射線治療による食道炎への鍼灸治療

その他症例5:放射線の副作用(食道炎)

近年、がん治療は目覚ましい進歩を遂げていますが、放射線治療や抗がん剤治療に伴う副作用は、患者様にとって大きな負担となっています。
とくに、放射線治療による食道炎は、食事を摂ることさえ困難にするほどの激しい痛みを伴い、患者様のQOL(生活の質)を著しく低下させます。

当院では、このようなつらい症状に対し、東洋医学の鍼灸治療を用いて症状の緩和と全身状態の改善に取り組んでおります。
今回は、放射線治療後の食道炎に苦しむ患者様に対し、当院で行った鍼灸治療の症例についてご紹介いたします

この症例を通して、鍼灸治療が癌治療の副作用に苦しむがん患者様の選択肢のひとつとなり得ることを、皆様にご理解いただければ幸いです。

患者さまについて

年齢・性別:
60代男性。

鍼灸院に来るまでの経緯:
4ヶ月前に人間ドックで「肺がん」が発見され、リンパ節への転移はあるものの、遠隔転移はないと診断されました。

その後、放射線治療と抗がん剤治療を受けることになり、治療開始から1ヶ月半ほど経過した頃に当院を受診されました。

患者様の一番の悩みは、放射線治療によって引き起こされた食道炎による食事時の痛みでした。
食事を摂るたびに強い痛みを感じるため、食欲不振となり、体力も低下していました。

また、以前から中途覚醒型の不眠症で睡眠薬を服用しており、十二指腸潰瘍の既往歴もあるなど、ストレスが体に現れやすいタイプでした。

さらに、がんの発症という大きな出来事に加え、入院による環境の変化も重なり、不安感が増し、抗不安薬や精神安定剤も服用していました。

抗がん剤や放射線治療による身体へのダメージに加え、精神的な負担も大きく、強い疲労感と手足の冷えも訴えていました。
肺がんそのものによる痛みや不快感は特にありませんでした。

東洋医学的考察

東洋医学では、病気は身体全体のバランスの乱れと捉えます。

今回の患者様の場合、食道炎は放射線治療という外部からの刺激によって引き起こされたものですが、その背景には患者様がもともと持っていた体質的な弱さ、つまり「気血両虚」(きけつりょうきょ)があると捉えました。
「気」は生命エネルギー、「血」は血液とそれを介して運ばれる栄養物質を意味し、これらの不足は疲労感、冷え、免疫力低下などを引き起こします。

また、患者様はストレスを受けやすいタイプであり、精神的な緊張は「肝」の機能低下を招き、「気」の流れを滞らせます。

さらに、消化器系の弱さ(脾胃虚弱)も認められ、栄養の吸収や運搬がスムーズに行われていない状態でした。

これらの要因が複合的に作用し、放射線治療による食道へのダメージを増幅させ、食道炎の症状を悪化させていると考えました。

治療方針

今回の治療では、食道炎の症状緩和を最優先としながらも、その根本原因である「気血の虚」を改善し、全身のバランスを整えることを目指しました。

具体的には、以下の点を重視しました。

胃腸の巡りを良くする:
食道の炎症を鎮め、消化機能を高めることで、食事時の痛みを軽減します。

脾・肝・腎の虚を補う:
「気血」を補い、身体の抵抗力と回復力を高めます。

精神的な安定を図る:
ストレスを緩和し、「気」の流れをスムーズにします。

全身の血行を促進する:
手足の冷えを改善し、全身への栄養供給を促します。

治療経過

1回目:
仰向けで、「不容」「期門」「内関」「足三里」「中封」に鍼を施し、足にはホットパックを当てて温めました。
うつ伏せで、「肺兪」「隔兪」「肝兪」「脾兪」「腎兪」には鍼と棒温灸を併用しました。

2回目から5回目(2週間に1回ペース):
食道炎のツラさは2回の治療で著しく改善しました。
その後は、「疲れ」と「冷え」が主な訴えとなったため、「不容」「期門」「中脘(棒温灸)」「合谷」「足三里」「復溜」に鍼を施し、足のホットパックと背部の温灸は継続しました。

5回の鍼灸治療を終えた時点で、肺がんの腫瘍は22mmから8mmに縮小しており、経過は良好でした。
抗がん剤治療も終了したため、患者様と相談の上、鍼灸治療も一旦終了としました。

使用した主なツボとその代表的な効果

不容(ふよう):
胃の不調を整える効果があります。食道炎による胃の不快感や吐き気を緩和します。

期門(きもん):
肝の機能を整え、気の流れをスムーズにします。ストレスによる症状の緩和に役立ちます。

内関(ないかん):
胸部の不快感や吐き気を和らげます。精神安定作用もあります。

足三里(あしさんり):
胃腸の働きを整え、全身の活力を高めます。

中封(ちゅうほう):
肝の機能を調整し、精神的な緊張を和らげます。

中脘(ちゅうかん):
胃腸の働きを整え、消化不良や食欲不振を改善します。温灸との相性が良いツボです。

合谷(ごうこく):
全身の気の流れを整え、痛みを緩和します。

復溜(ふくりゅう):
腎の機能を高め、冷えを改善します。

肺兪(はいゆ)、隔兪(かくゆ)、肝兪(かんゆ)、脾兪(ひゆ)、腎兪(じんゆ):
背部にあるツボで、それぞれ肺、横隔膜、肝臓、脾臓、腎臓と関連し、各臓器の機能を高めます。
棒温灸を併用することで、身体の深部から温め、気血の巡りを改善します。

まとめ

今回の症例を通して、鍼灸治療が放射線治療後の食道炎に対して有効であることが示されました

鍼灸治療は、食道炎の症状を緩和するだけでなく、患者様が抱えていた疲労感、冷え、不眠といった全身的な不調も同時に改善しました。
これは、東洋医学が身体全体を包括的に捉え、根本原因にアプローチする治療法であることの強みと言えるでしょう。

当院では、患者様一人ひとりの状態に合わせた丁寧な問診と東洋医学的な診断に基づき、最適な治療を提供しております。

副作用に苦しむがん患者様はもちろん、様々な症状でお悩みの方も、ぜひ一度当院にご相談ください。

抗がん剤の副作用鍼灸の詳しくはこちら

抗がん剤の副作用

がん鍼灸の詳しくはこちら

がん