白内障とうつ病の鍼灸症例
白内障と鬱病への鍼灸治療
当院では、単に症状を和らげるだけでなく、患者様一人ひとりの心身全体を捉え、その人が本来持つ自然治癒力を最大限に引き出す鍼灸治療を心がけております。
今回は、白内障と鬱病を併発されていた40代男性の症例です。
この方は、目の不調だけでなく、心身のバランスを崩し、様々な不調を抱えておられました。
当院の鍼灸治療を通して、症状の改善はもちろんのこと、心の変化、そして社会復帰という大きな一歩を踏み出すまでをご報告させていただきます。
この症例を通して、当院の鍼灸治療がどのように健康を取り戻すお手伝いをしているのかをご理解いただければ幸いです。
患者さまについて
年齢・性別:
40代男性。
鍼灸院に来るまでの経緯:
会社員。半年前に会社の健康診断で白内障と診断され、近所の眼科で処方された目薬を使用するも改善が見られず中断していました。
その後、漢方薬を処方する眼科にも通院しましたが、遠方のため継続を断念されました。
「他の方法でケアしたい」とのことで、当院へ鍼灸治療を希望され初来院されました。
初診時、白内障と疲れ目の他に、肩こり、全身の倦怠感、不眠なども訴えられました。
体格は肥満傾向で、舌には厚い舌苔が見られました。
問診中、ご自身の身体のことについて多くを語ろうとしない様子が窺え、心身両面に何らかの滞りがある可能性を感じました。
東洋医学的考察
東洋医学では、目は「肝」と密接な関係にあると考えます。
「肝は目に開竅(かいきょう)する」という言葉があるように、肝の機能が正常であれば、目はしっかりと栄養を受け、正常に機能します。
しかし、ストレスや不摂生などによって肝の機能が低下すると、目に栄養が十分に届かなくなり、視力低下や眼精疲労などの症状が現れると考えます。
この患者様の場合、40代という年齢から、加齢による目のエネルギー低下というよりは、肝の機能低下、特に「肝鬱気滞(かんうつきたい)」と呼ばれる、気の巡りが滞った状態が根本にあると判断しました。
また、肥満体型や厚い舌苔から、「脾胃虚弱(ひいきょじゃく)」による「湿邪(しつじゃ)」の蓄積も考慮しました。
脾胃は飲食物を消化吸収し、全身に栄養を運ぶ役割を担っていますが、その機能が低下すると、体内に余分な水分が溜まり、「湿邪」となります。
「湿邪」は気の巡りを阻害し、様々な不調を引き起こします。
この患者様の場合、「肝鬱気滞」と「湿邪」が複合的に影響し、目の不調だけでなく、肩こり、倦怠感、不眠などの症状を引き起こしていると考えました。
治療方針
上記の東洋医学的考察に基づき、以下の治療方針を立てました。
肝の疏泄(そせつ)を促す:
気の巡りを改善し、精神的な安定を促します。
脾胃の機能を高め、湿邪を取り除く:
消化吸収機能を高め、体内の余分な水分を排泄します。
首肩のコリを解消し、気血の巡りを改善する:
全身への栄養供給をスムーズにします。
これらの治療を通して、心身のバランスを整え、自然治癒力を高めることを目指しました。
治療経過
1回目:
仰向けで、「期門」「膻中」「中脘」に置鍼をし、右期門と中脘には棒温灸も追加しました。「合谷」「足三里」「太衝」「陽陵泉」に置鍼をしました。
うつ伏せで、「首肩のコリの部分」「肝兪」に鍼を施しました。
2回目~4回目(週1回ペース):
睡眠の質が改善し、下痢気味だった便通も正常になったとの報告を受けました。
しかし、胃の不調や雨の日に体が重く感じるなど、「湿邪」の影響が依然として見られました。
開始後1ヶ月後:
患者様から、実は鬱病で休職中であり、抗不安薬を複数服用していることを打ち明けられました。
これにより、気の滞りの背景に精神的な要因が大きく関わっていることが明確になりました。
5回目以降(週1回ペース継続):
肝系のツボを減らし、胃腸系(湿を取るため)のツボを重点的に使用しました。
気の滞りと湿の滞りの両方にアプローチする治療に切り替えました。
首や肩の辛さはほぼ改善し、下痢も解消、休職中ということもあり、目や全身の疲れも感じなくなったとのことでした。眼科での検査でも、白内障は進行しておらず、現状維持とのことでした。
開始より5ヶ月後:
体調が全般的に良好となり、職場復帰の予定が立ったため、白内障の手術を受けることを決意され、鍼灸治療は一旦終了となりました。
使用した主なツボとその代表的な効果
期門:
肝の疏泄を促し、気の巡りを改善します。
膻中:
気の集まる場所とされ、気の巡りを整え、精神的な安定をもたらします。
中脘:
胃の機能を高め、消化不良を改善します。温灸を併用することで、胃腸を温め、機能を活性化します。
合谷:
全身の気の巡りを整え、痛みを緩和します。
足三里:
胃腸の機能を高め、体力を増進します。
太衝:
肝の疏泄を促し、精神的な安定をもたらします。
陽陵泉:
肝胆の機能を調整し、筋肉の緊張を緩和します。
肝兪:
肝の機能を調整し、目の不調を改善します。
まとめ
この症例を通して、問診の重要性を改めて認識しました。
初診時、患者様はご自身の状態を十分に話そうとされませんでしたが、治療が進み、信頼関係が構築されるにつれて、鬱病で休職中であることを打ち明けてくださいました。
この経験から、患者様とのコミュニケーションを密にし、安心して本音を話せる環境を作ることが、治療効果を高める上で非常に重要であることを学びました。
また、白内障は鍼灸単独では完全に改善することはできませんでしたが、他の症状の改善、そして患者様の精神状態の安定に大きく貢献できたと考えております。
この患者様は、鍼灸治療を通して心身のバランスを取り戻し、前向きな気持ちで社会復帰という大きな一歩を踏み出すことができました。
当院では、このような患者様一人ひとりの心身の状態に合わせた丁寧な治療を心がけております。
「どこに行っても良くならない」「長年悩んでいる症状がある」という方は、ぜひ一度当院にご相談ください。
皆様の健康を心からサポートさせていただきます。
うつ病鍼灸の詳しくはこちら