首から後頭部の違和感への鍼灸症例
首から後頭部の違和感への鍼灸治療
現代社会において、長時間のデスクワーク、スマートフォンの使用、ストレスなど、様々な要因が複雑に絡み合い、首肩のコリなどの不調をもたらし、お悩みを抱える人が少なくありません。
今回は、40代男性の首こりと後頭部の違和感に対する鍼灸治療の症例を通して、東洋医学の視点からの原因分析、そして鍼灸治療がもたらす効果について詳しく解説いたします。
この記事を通して、首コリや後頭部の違和感にお悩みの方々に、鍼灸治療という選択肢を知っていただければ幸いです。
患者さまについて
年齢・性別:
40代の男性
鍼灸院に来るまでの経緯:
4週間前から「左首のこり」と「後頭部の違和感」を感じ始めました。
後頭部に力を入れると、耳から鼻にかけて空気が詰まったような感覚を覚えるとのことでした。
以前にも同様の症状を経験したことがあったものの、通常は1~2日で自然に治まっていたそうです。
しかし、今回は1ヶ月経っても症状が改善せず、鍼灸での改善を期待して当院を受診されました。
患者様の生活背景を詳しく伺うと、寝起きは比較的良いものの、夕方から夜にかけて症状が悪化する傾向があり、仕事中にとくに辛さを感じるとのことでした。
逆に、休日になると症状は幾分楽になるという状況でした。
また、以前からメニエール病(難聴・めまい)を患っており、仕事の疲れやストレスを強く感じていることも分かりました。
これらの情報から、今回の症状は単なる筋肉の凝りだけでなく、疲労やストレス、そして既存の疾患も複合的に影響している可能性が考えられました。
東洋医学的考察
東洋医学では、身体の不調を「気・血・水(き・けつ・すい)」のバランスの乱れとして捉えます。
今回の患者様の症状を東洋医学的に考察すると、まず「気血両虚(きけつりょうきょ)」、つまりエネルギーと栄養の不足状態が根本にあると考えられます。
これは、仕事の疲れやストレスによって「気」が消耗し、「血」の生成も滞っている状態です。
さらに、ストレスは「気滞(きたい)」、つまり気の流れの滞りを引き起こします。
気がスムーズに流れなくなると、身体の様々な部位に不調が現れます。
今回の患者様の場合、首や後頭部に気の滞りが生じ、凝りや違和感として現れたと考えられます。
また、患者様はメニエール病を患っており、これは東洋医学的には「水滞(すいたい)」、つまり体内の水分の代謝異常と関連付けられることがあります。
脾胃(ひい)の機能低下によって水分の代謝がうまくいかず、「湿(しつ)」という余分な水分が体内に溜まりやすくなります。
この「湿」が気の流れを阻害し、症状を悪化させている可能性も考慮しました。
治療方針
上記の東洋医学的考察に基づき、今回の治療方針は、根本原因である「気血両虚」を改善し、気の巡りを良くすること、そして体内の余分な水分を取り除くことの3点を柱としました。
具体的には、以下の点を重視しました。
滋養強壮:
不足しているエネルギーと栄養を補い、身体の根本的な活力を高める。
疏肝理気(そかんりき):
ストレスによる気の滞りを解消し、気の流れをスムーズにする。
健脾利湿(けんぴりしつ):
脾胃の機能を高め、体内の水分代謝を改善し、余分な水分を取り除く。
これらの治療方針に基づき、鍼灸治療を行うことで、患者様の自然治癒力を高め、症状の改善を目指しました。
治療経過
1回目:
仰向けで、「膻中(だんちゅう)」「関元(かんげん)」といったツボに鍼と棒温灸を行い、全身のエネルギーを高めることを意識しました。
また「合谷(ごうこく)-外関(がいかん)」「行間(こうかん)-陽陵泉(ようりょうせん)」にはパルス鍼(電気を流す鍼)を用いて、気の巡りを促進しました。
うつ伏せで、「首から後頭部のコリの部位」「心兪(しんゆ)」「脾兪(ひゆ)」「腎兪(じんゆ)」といったツボに鍼とお灸を行い、局所の血行改善と全身のバランス調整を図りました。
2回目の治療(2週間後):
首から後頭部の違和感が少し改善したとのことでした。
引き続き、初回と同様の治療を行い、効果の持続と更なる改善を目指しました。
その後、2週間に1回のペースで計5回の治療を行いました。
5回目の治療時には、ほぼ全ての症状が消失しているとのことで、一旦治療を終了としました。
患者様は、仕事中も以前ほど辛さを感じなくなり、休日もより活動的に過ごせるようになったと喜んでおられました。
使用した主なツボとその代表的な効果
今回の治療で使用した主なツボとその代表的な効果をご紹介します。
膻中(だんちゅう):
胸の中央に位置し、気の集まる場所とされています。気の巡りを整え、呼吸器系の不調や精神的なストレスを緩和する効果があります。
関元(かんげん):
下腹部に位置し、全身のエネルギーの源となるツボです。滋養強壮、冷え性の改善、婦人科系の疾患などに効果があります。
合谷(ごうこく):
手の甲に位置し、万能のツボとも呼ばれています。鎮痛作用、血行促進、消化器系の不調などに効果があります。
外関(がいかん):
手首の外側に位置し、気の流れを整える効果があります。肩こり、頭痛、耳鳴りなどに効果があります。
行間(こうかん):
足の甲に位置し、肝経の流れを整える効果があります。イライラ、目の疲れ、足のむくみなどに効果があります。
陽陵泉(ようりょうせん):
足の外側に位置し、筋肉や関節の痛みを緩和する効果があります。膝の痛み、坐骨神経痛などに効果があります。
心兪(しんゆ):
背部に位置し、心臓の機能を調整する効果があります。動悸、不眠、精神的な不安などに効果があります。
脾兪(ひゆ):
背部に位置し、消化器系の機能を調整する効果があります。食欲不振、胃もたれ、便秘などに効果があります。
腎兪(じんゆ):
背部に位置し、腎臓の機能を調整する効果があります。腰痛、冷え性、頻尿などに効果があります。
まとめ
今回の症例を通して、疲れやストレスからくる症状は、心身両面に影響を及ぼすことが改めて示されました。
通常であれば、身体の自然治癒力によって一時的な不調は自然に改善されますが、症状が長引く場合や重い場合は、鍼灸治療のような外部からの刺激が有効な手段となり得ます。
今回の患者様の場合、鍼灸治療によって気の滞りと体内の余分な水分(湿邪)の巡りを改善することができ、早期に症状の改善が見られました。
当院では、患者様一人ひとりの症状や体質に合わせた丁寧な問診と東洋医学的な診断を行い、最適な治療を提供しております。
これをお読みの方で、首や後頭部の不調でお悩みの方は、ぜひ一度当院にご相談ください。
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