乳がん術前抗がん剤の副作用への鍼灸症例

乳がん術前抗がん剤の副作用への鍼灸治療

その他症例4:抗がん剤の副作用(吐き気・頭痛)

現代医療の進歩は目覚ましいものがありますが、その過程で生じる副作用は患者様にとって大きな負担となります。
とくに、がん治療における抗がん剤治療は、その効果と引き換えに様々な副作用を引き起こすことが少なくありません。

当院では、抗がん剤治療に伴うつらい副作用に対し、東洋医学の叡智に基づいた鍼灸治療で患者様の苦痛を和らげ、心身のバランスを整えるサポートを行っております。

今回は、乳がんの術前抗がん剤治療を受けられた50代女性の患者様です
治療の過程で葛藤を抱えながらも前向きに進んでいく患者様の姿と、鍼灸治療がどのように寄り添い、支えとなったのかをご報告いたします。

この記事を通して、当院の鍼灸治療が患者様の苦痛緩和とQOL(生活の質)向上に貢献できることをご理解いただければ幸いです。

患者さまについて

年齢・性別:
50代女性。

鍼灸院に来るまでの経緯:
管理職として多忙な日々を送るなか、1ヶ月前のある日、右脇のリンパ節の腫れに気づきました。
病院で検査を受けた結果、「乳がん」と診断されました。
リンパ節への転移は見られるものの、遠隔転移はなくステージ3と診断され、「術前抗がん剤治療後の切除手術」という治療方針が提案されました。

1週間前に初めての抗がん剤投与を受けた後、2~3日後から吐き気と頭痛といった副作用に悩まされるようになりました。

副作用のあまりのツラさに、「抗がん剤の使用を中止し、代替療法を活用したい」という強い思いから、当院での鍼灸治療を希望されました。

患者様は仕事で大きなストレスを抱えており、納得のいく治療を受けたいという強い意志をお持ちでした。
ご自身でも熱心に情報収集されており、西洋医学と東洋医学の両方の視点から治療法を模索されている様子が伺えました。

東洋医学的考察

東洋医学では、病気は身体全体のバランスの乱れによって引き起こされると考えます。
抗がん剤治療は、がん細胞を攻撃する一方で、正常な細胞にも影響を与え、身体のバランスを崩すことがあります。

とくに、吐き気や頭痛といった副作用は、胃腸の機能低下や気血の巡りの滞り、精神的なストレスなどが複合的に影響していると考えられます。

この患者様の場合、多忙な仕事によるストレスがもともと身体に負担をかけており、それが抗がん剤の副作用を増幅させている可能性がありました。
東洋医学的な視点から見ると、肝気鬱結(かんきうっけつ、ストレスによる気の滞り)、脾胃虚弱(ひいきょじゃく、胃腸の機能低下)、気血不足(きけつぶそく、エネルギーと栄養の不足)といった状態が考えられました。

治療方針

初診時の治療目的は、1週間前に投与された抗がん剤の副作用をできるだけ早く緩和することでした。
そのため、胃腸の働きを整え、吐き気や頭痛を軽減することに重点を置きました。

2回目以降は、副作用の緩和とともに、患者様の根本的な体質改善と心身のバランスを整えることを目指しました。
とくに、仕事によるストレス、肩こりや腰痛、更年期障害のような症状も見られたため、これらの改善も視野に入れた治療計画を立てました。

治療においては、患者様の体力を考慮し、気血の巡りをスムーズにするような施術を心がけました。
また、ストレスなどの精神的な要因も大きいため、心(しん、精神活動)や肝(かん、自律神経系)の働きを整えることも重視しました。
患者様の状況に合わせて柔軟に治療方針を調整していくことを心がけました。

治療経過

1回目:
仰向けで、「中脘」「内関」「足三里」「三陰交」「陰陵泉」などのツボに鍼治療を行いました。
うつ伏せで、「隔兪」「肝兪」「脾兪」「大腸兪」といった背部のツボや肩こりの局所には、鍼に加えて棒温灸と台座灸を併用しました。

2回目:
副作用が徐々に軽減してきたものの、元々あった肩こりや腰痛、更年期様ののぼせといった症状が気になるようになりました。
そこで、治療の重点を胃腸の働きから、日常生活からくる不調(コリ、疲れ、ストレス、更年期症状など)の改善に移しました。

3回目~16回目(週に1回ペース):
患者様は抗がん剤治療を中止する意向でしたが、主治医と相談の結果、継続することになりました。
この間、患者様はご自身の治療方針について迷い、模索されていましたが、鍼灸治療は継続して受けていただきました。

治療開始から4ヶ月後の7月に行われたCT検査で、「がんは見えない」という結果が出ました。
しかし、抗がん剤の種類を変更して継続することを提案され、患者様も了承されました。

この間、「めまい」の症状が出た時期もありましたが、その都度、使用するツボを変えて対応し、症状の改善を図りました。

17回目~28回目(週に1回ペー):
新しい抗がん剤治療が始まりました。
副作用はあまり出ませんでしたが、仕事の疲労が増し、手足のしびれが悪化し始めました。
そこで、通常の施術に加えて、「合谷-内関」のパルス通電療法と「行間~太衝」周辺への鍼と台座灸を追加し、しびれに対する対策を行いました。

鍼灸治療開始から8ヶ月後、28回の施術を終えた段階で、CT、MRI、エコー検査などの結果、「がんは見えない」という状態になりました。
当初の予定通り、腫瘍近辺の切除手術を行う方針となり、入院が予定されたため、鍼灸治療は一旦終了となりました。

使用した主なツボとその代表的な効果

中脘(ちゅうかん):
胃の不調、吐き気、消化不良などに効果があります。

内関(ないかん):
吐き気、胸の不快感、精神安定などに効果があります。

足三里(あしさんり):
胃腸の働きを整え、全身の倦怠感、足のむくみなどに効果があります。

三陰交(さんいんこう):
冷え性、生理不順、更年期症状などに効果があります。

陰陵泉(いんりょうせん):
水分の代謝を整え、むくみ、下痢などに効果があります。

隔兪(かくゆ):
横隔膜の緊張を緩め、呼吸器系の不調などに効果があります。

肝兪(かんゆ):
肝臓の機能を整え、精神的なストレス、目の疲れなどに効果があります。

脾兪(ひゆ):
脾臓の機能を整え、消化不良、食欲不振などに効果があります。

大腸兪(だいちょうゆ):
大腸の機能を整え、便秘、下痢などに効果があります。

合谷(ごうこく):
手の痛み、頭痛、便秘などに効果があります。

行間(こうかん):
肝臓の機能を整え、目の充血、イライラなどに効果があります。

太衝(たいしょう):
肝臓の機能を整え、精神的なストレス、高血圧などに効果があります。

まとめ

この症例は、患者様が「代替療法のみ」でがんに対処しようと考えられた時期もありましたが、最終的には主治医の提案通り、「抗がん剤治療後に手術」という流れを選択されました。

治療方針を模索する中で、患者様は大きな葛藤を抱えていましたが、鍼灸治療はその時期を寄り添い、支える役割を果たしました。

当院の鍼灸治療は、患者様の「気のチカラ」をしっかりと保持し、「気の巡り」を促進することに重点を置いています。
その結果、吐き気、食欲不振、めまい、コリなど、身体のつらい症状を改善することができました。

何が正しい判断なのか分からない状況での決断は、患者様にとって大きな負担とストレスとなります。

当院では、そのような状況において、常に患者様に寄り添い、鍼灸でできることを愚直に続けていくことを大切にしています。

この症例を通して、当院の鍼灸治療が患者様の苦痛緩和とQOL向上に貢献できることを改めて実感いたしました。

つらい時期を少しでも楽に過ごせるよう、当院はこれからも患者様に寄り添い、サポートしてまいります。
もし、抗がん剤の副作用でお悩みの方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度当院にご相談ください

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