抗がん剤の副作用(吐き気・食欲不振)の鍼灸症例
抗がん剤の副作用(吐き気・食欲不振)への鍼灸治療
近年、医療技術の進歩により、がんの治療成績は著しく向上していますが、それに伴い、抗がん剤治療に伴う副作用に苦しむ患者様も少なくありません。
吐き気、食欲不振、倦怠感、手足のしびれなど、その症状は多岐にわたり、患者様のQOL(生活の質)を著しく低下させる要因となっています。
当院では、西洋医学と東洋医学の融合を重視し、鍼灸治療を通じて抗がん剤の副作用軽減に力を注いでおります。
今回は、大腸がん術後の抗がん剤治療による吐き気・食欲不振に悩まされていた20代男性の症例を通して、当院の鍼灸治療がどのように患者様の心身をサポートし、QOL向上に貢献できたのかをご紹介いたします。
この症例が、同じような症状でお悩みの方々が、鍼灸を試そうと感じていただける一助になれば幸いです。
患者さまについて
年齢・性別:
20代男性。
鍼灸院に来るまでの経緯:
半年前に下血をきっかけに病院を受診したところ、「大腸がん」と診断されました。
リンパ節への転移も見られ、病期はステージ3でした。
同年11月に手術を受け、病巣の摘出は無事成功しましたが、1ヶ月前から抗がん剤治療が開始されました。
抗がん剤治療開始後、患者様は手足のしびれ、味覚障害、吐き気、食欲不振といった副作用に苦しむようになりました。
とくに、食べることを楽しんでいた患者様にとって、食欲不振は大きなストレスとなっていました。
便秘や倦怠感も伴い、医師からも「副作用が出やすいタイプ」と指摘されていたとのことです。
患者様は心身ともに疲弊しており、精神的にも大きな負担を抱えている様子でした。
当院では、患者様の身体的な症状だけでなく、精神的なケアも重要視しており、じっくりとお話をお伺いすることで、患者様の抱える不安や苦痛を共有することから始めました。
東洋医学的考察
東洋医学では、病気は身体全体のバランスの崩れによって起こると考えます。
今回の患者様の場合、手術や抗がん剤治療の影響に加え、仕事による疲労も重なり、「気血両虚(きけつりょうきょ)」の状態にあると判断しました。
「気」は生命エネルギー、「血」は血液とそれを運搬する機能を指し、これらが不足することで、倦怠感、食欲不振、手足のしびれなどの症状が現れます。
また、患者様は元々ストレスを抱えやすいタイプであり、腹部の張り(硬直)も強く見られたことから、「肝うつ(かんうつ)」の傾向も認められました。
「肝」は精神活動を司ると考えられており、ストレスによってその機能が滞ると、精神的な不安定さや消化器系の不調を引き起こします。
これらの東洋医学的な考察に基づき、当院では患者様の身体全体のバランスを整え、「気血」を補い、「肝」の機能を正常に戻すことを治療の大きな柱としました。
治療方針
上記の東洋医学的考察を踏まえ、当院では以下の点を重視した治療方針を立てました。
胃腸機能の調整:
吐き気・食欲不振の改善のため、胃の働きを整えることを最優先としました。
気血の巡りの改善:
手足のしびれ、倦怠感の改善のため、全身の気血の巡りをスムーズにすることを目的としました。
精神的なリラックス:
ストレスの緩和、精神的な安定のため、リラックス効果の高い施術を行いました。
これらの治療方針に基づき、鍼灸治療を中心に、必要に応じて温灸や円皮鍼を併用することで、患者様の症状に合わせたきめ細かい治療を行いました。
治療経過
1回目:
仰向けで、「合谷」「内関」「足三里」「太衝」「期門」「天枢」に置鍼をしました。「内関」には台座灸も追加。
うつ伏せで、「膏肓」「心兪」「肝兪」「腎兪」に置鍼をし、必要なツボには棒温灸を当てたり、円皮鍼を貼ったりしました。
2回目~10回目(週1回のペース):
鍼灸治療の効果を最大限に引き出すため、週1回のペースで施術を行いました。
抗がん剤治療の周期に合わせて体調の波がありましたが、鍼灸治療後は体調が楽になることを実感していただきました。
11回目〜17回目(2週間~4週間ごと):
患者様の体調が安定してきたため、施術間隔を徐々に延ばしていきました。
この時期に抗がん剤治療も終了し、体調はさらに改善しました。
治療期間全体を通して:
当初、全身の倦怠感、手指の皮膚荒れ、味覚障害などの症状も見られましたが、食事に関しては早い段階で改善が見られました。
食欲に対する不満がなくなり、以前のように食事を楽しめるようになったことは、患者様のQOL向上に大きく貢献しました。
治療開始から約5ヶ月後、病院でのCT検査などの結果、「問題なし」と診断され、経過観察に移行することになりました。
この時点で鍼灸治療は一旦終了となりました。
使用した主なツボとその代表的な効果
当院で使用した主なツボとその代表的な効果は以下の通りです。
合谷(ごうこく):
手の甲にあるツボで、鎮痛作用、消化器系の調整作用があります。
内関(ないかん):
手首の内側にあるツボで、吐き気、胸の不快感、精神安定に効果があります。
足三里(あしさんり):
足のすねにあるツボで、胃腸機能の調整、全身の倦怠感の改善に効果があります。
太衝(たいしょう):
足の甲にあるツボで、精神安定、肝機能の調整に効果があります。
期門(きもん):
胸部にあるツボで、肝機能の調整、精神安定に効果があります。
天枢(てんすう):
お腹にあるツボで、胃腸機能の調整、便秘の改善に効果があります。
膏肓(こうこう):
背部にあるツボで、全身の虚弱体質の改善、免疫力向上に効果があります。
心兪(しんゆ)、肝兪(かんゆ)、腎兪(じんゆ):
背部にあるツボで、それぞれ心、肝、腎の機能を調整し、精神安定、疲労回復に効果があります。
これらのツボを組み合わせることで、患者様の症状に合わせた効果的な治療を行うことができました。
背部の兪穴への施術は、精神的なリラックス効果を高め、患者様の心身の回復を大きく後押ししました。
まとめ
今回の症例を通して、抗がん剤治療の副作用に対する鍼灸治療の有効性を示すことができました。
当院では、患者様の身体的な症状だけでなく、精神的なケアも重視し、心身両面からのサポートを行っております。
今回の患者様は、若い年齢で大きな病気を経験されたことで、心身ともに大きな負担を抱えていました。
当院の鍼灸治療を通して、少しでも患者様の苦痛を和らげ、QOLの向上に貢献できたことを大変嬉しく思っております。
当院は、患者様一人ひとりの症状に合わせた丁寧な施術を心がけております。
抗がん剤治療の副作用でお悩みの方は、ぜひ一度当院にご相談ください。
抗がん剤の副作用鍼灸の詳しくはこちら