原因不明の黄斑変性症に対する鍼灸症例
黄斑変性症への鍼灸治療
パソコンやスマートフォンの普及は私たちの生活に欠かせないものとなりました。
しかし、その反面、目の疲れや不調を訴える人々も増加傾向にあります。
今回は、40代の働き盛りの男性が、パソコン作業中に左目の視界の歪みに気づき、眼科を受診したところ「黄斑変性」と診断されたケースです。
黄斑変性は加齢に伴う疾患として知られていますが、この患者様は比較的若年であり、原因不明と診断されました。
西洋医学的な治療法がないと言われ、不安を抱えていた患者様が当院の鍼灸治療を受け、症状の改善をみた経過をご報告いたします。
この記事を通して、原因不明の目の不調でお悩みの方々に、鍼灸治療という選択肢を知っていただくとともに、当院の治療に対する理解を深めていただければ幸いです。
患者さまについて
年齢・性別:
40代男性。
鍼灸院に来るまでの経緯:
IT企業にお勤めで、日常的にパソコン作業を行っています。
約1ヶ月前からパソコンで表作成をしている際に、左目で見た時に罫線がゆがんで見えることに気づきました。
眼科を受診したところ「黄斑が変性している」と診断されましたが、「治療法はないので通院は不要」と告げられ、途方に暮れていたとのことです。
仕事でのパソコン作業に不便を感じていましたが、日常生活には支障がない状態でした。
ご自身では、加齢とストレスが原因と考えており、老眼と慢性の肩こり、過去に数回のぎっくり腰の経験がありました。
健康診断ではメタボリックシンドロームを指摘されています。体格はポチャッとした肥満体型でした。
東洋医学的考察
東洋医学では、目は「肝」の支配を受けると考えられています。
「肝」は血を貯蔵し、全身に血を巡らせる働きを担っており、その機能低下は目の不調に繋がりやすいとされています。
しかし、この患者様は40代と比較的若年であり、加齢による肝機能の低下とは考えにくい点がありました。
そこで、体格や他の症状を考慮し、東洋医学独自の視点から考察を進めました。
注目したのは、肥満体型とメタボリックシンドロームの指摘です。
東洋医学では、過剰な水分や脂肪の蓄積を「湿邪(しつじゃ)」と捉え、「脾(ひ)」の機能低下によって引き起こされると考えます。
「脾」は飲食物を消化吸収し、全身に必要な栄養やエネルギー(気血)を作り出す臓腑です。
「脾」の機能が低下すると、体内に余分な水分が溜まりやすくなり、それが様々な不調を引き起こします。
今回のケースでは、目の症状に加え、肩こりや過去のぎっくり腰の経験からも、気血の巡りが滞っている「気滞血瘀(きたいけつお)」の状態も併せ持っていると判断しました。
これらのことから、今回の目の症状は「脾虚湿盛(ひきょしつせい)」を根本原因とし、それが「気滞血瘀」を招き、目の周囲の血流が悪化した結果、黄斑の変性を引き起こしたと考えました。
治療方針
上記の東洋医学的考察に基づき、以下の治療方針を立てました。
脾胃の機能回復:
「脾」の機能を高め、体内の余分な水分(湿邪)を取り除くことで、根本原因にアプローチします。
気血の巡りの改善:
全身の気血の流れをスムーズにし、特に目の周囲の血流を改善することで、黄斑への栄養供給を促します。
肩こりの緩和:
肩周辺の筋肉の緊張を緩和し、首から目への血流を改善します。
これらの目的を達成するために、鍼灸治療を中心に施術を行いました。
治療経過
1回目:
仰向けで、「合谷」「外関」「足三里」「陰陵泉」「側頭(胆経)のコリ部分」に置鍼をしました。「中脘」「上脘」に棒温灸をしました。足先にホットパックを当て温めました。
うつ伏せで、「肩こりの部分」に単刺をしました。「風池」「天柱」「心兪~脾兪辺りの反応穴」に置鍼をしました。「脾兪」には棒温灸を行いました。
2~4回目(週1回ペース):
肩こりは少しずつ改善が見られましたが、目の歪みはまだ残っていました。
この期間に患者様は健康診断を受け、眼底検査で再検査となり、大学病院の眼科を受診します。
「黄斑部に変性があるものの珍しい原因不明のもの」と診断され、1ヶ月後に再度検査を予定されました。
鍼灸施術は、基本的には1回目と同様の内容を継続し、首肩のコリに対してパルス通電を追加しました。
5~9回目(週1回ペース):
鍼灸施術4回目以降、患者様から「少し目の歪みが良くなってきたようだ」との嬉しい報告がありました。
肩こりも引き続き改善傾向にありました。
施術内容は継続しました。
10回目:
鍼灸開始から2ヶ月半後、大学病院での再検査を受けました。
前回は眼底に出血が多く状態がよく分からなかったようですが、今回は状態が把握でき、「毛細血管が新生しているのでそれを薬で処置しよう」という診断に至りました。
1ヶ月後から薬物治療が開始されることになり、患者様からは「だいぶ歪みは良くなったんだけどね…」という言葉がありました。
病院での治療を受けて様子を見るということで、一旦鍼灸治療は終了としました。
使用した主なツボとその代表的な効果
合谷(ごうこく):
手の甲にあるツボで、鎮痛作用や血行促進作用があります。肩こりや目の疲れに効果的です。
外関(がいかん):
手首にあるツボで、気の巡りを整え、肩こりや目の疲れ、耳鳴りなどに効果があります。
足三里(あしさんり):
足にあるツボで、胃腸の働きを整え、全身の活力を高める効果があります。
陰陵泉(いんりょうせん):
足にあるツボで、体内の余分な水分を取り除く効果があります。
中脘(ちゅうかん):
お腹にあるツボで、胃腸の働きを整え、消化不良や食欲不振などに効果があります。
風池(ふうち)・天柱(てんちゅう):
首の後ろにあるツボで、首や肩のコリ、目の疲れなどに効果があります。
心兪(しんゆ)・脾兪(ひゆ):
背中にあるツボで、それぞれ心と脾の働きを整える効果があります。
これらのツボを組み合わせることで、脾胃の機能回復、気血の巡りの改善、肩こりの緩和といった効果を最大限に引き出しました。
まとめ
今回の症例は、西洋医学的に治療法がないとされた原因不明の黄斑変性に対し、東洋医学的なアプローチ、特に脾虚湿盛という視点から鍼灸治療を行うことで、症状の改善が見られたケースです。
患者様自身は脾胃の不調を特に自覚していませんでしたが、体格や他の症状から脾虚湿盛と判断し、施術を行った結果、目の歪みの改善だけでなく、肩こりの改善にも繋がりました。
このことから、臓腑と経絡の両方からアプローチする鍼灸治療の有効性を示すことができたと言えます。
当院では、患者様一人ひとりの症状を丁寧に問診し、東洋医学的な視点から原因を突き止め、最適な治療を提供しています。
原因不明の目の不調でお悩みの方、西洋医学的な治療で効果を感じられない方は、ぜひ一度当院にご相談ください。
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