適応障害と頑固な頭痛からの解放:鍼灸治療の症例

適応障害と頑固な頭痛への鍼灸治療

頭痛と適応障害の鍼灸症例

現代社会において、パソコンやスマートフォンの普及は私たちの生活を大きく変えましたが、同時に眼精疲労やそれに伴う頭痛、さらには精神的なストレスを抱える人々が増加しています。

とくに、仕事や人間関係などで過剰なストレスを受け続けると、適応障害といった心身の不調をきたすことがあります。

今回は、長年眼精疲労による頭痛に悩まされ、適応障害の診断も受けていた40代男性の鍼灸治療の経過です

鎮痛薬も効かないほどの頭痛に苦しんでいた患者さまが、当院の鍼灸治療を通してどのように変化していったのか、詳細にご報告いたします。

患者さまについて

患者さま:40代 男性

主訴:
頭痛、眼精疲労、適応障害

既往歴:
10年前から目の疲れ、5年前から適応障害(電車に乗車時のめまい、気分の悪さ)、頭痛

現病歴:
眼精疲労からくる頭痛がひどく、時には仕事に行けないほど。
週1~2回の頭痛、月1回程度の激しい痛みの波。
鎮痛薬も無効。
精神科で抗うつ薬、睡眠薬を服用中。

その他の症状:
全身倦怠感、不眠、首肩こり

この患者さまは、10年前から目の疲れを感じ始め、徐々に悪化。
5年前には電車に乗る際にめまいや気分が悪くなるようになり、適応障害と診断されました。

その頃から頭痛も出現し、日常生活に大きな支障をきたしていました。
とくに頭痛は鎮痛薬が効かず、月に一度は激しい痛みに襲われ、仕事を休まざるを得ない状況でした。

心身ともに疲弊し、藁にもすがる思いで当鍼灸院にいらっしゃいました。

東洋医学的考察

東洋医学では、心身の不調は「気・血・水」のバランスの乱れによって引き起こされると考えます。

この患者さまの場合、長年の眼精疲労は「肝」の機能低下と捉えられます。
「肝」は血を貯蔵し、目と密接な関係があるため、肝の機能が低下すると目の疲れや視力低下、頭痛などを引き起こしやすくなります。

また、適応障害は「心」の機能と関連が深く、精神的なストレスによって気の流れが滞る「気滞」の状態を引き起こします。

さらに、不眠や倦怠感は「気虚」の状態、つまりエネルギー不足を示しています。
これらの状態を総合的に判断し、「心肝気滞」と「気虚」が根本的な原因であると考察しました。

治療方針

上記の東洋医学的考察に基づき、治療方針は「疏肝理気(そかんりき)」と「益気健脾(えっきけんぴ)」を柱としました。

「疏肝理気」は、肝の気を巡らせ、気の滞りを解消することで、精神的な安定と頭痛の緩和を図ります。

「益気健脾」は、脾胃の機能を高めて気を補い、全身の倦怠感や不眠の改善を目指します。

具体的な治療としては、気の巡りを活発にするツボとリラックス効果の高いツボを重点的に使用し、同時にエネルギーを補うツボも組み合わせて治療を行いました。

治療経過

1~2回目:
「膻中」「神門」「足三里」「太衝」などのツボに鍼を施し、「中脘」「関元」に棒温灸を行いました。

初回後、頭痛と倦怠感に若干の改善が見られました。

3~9回目:
週1回のペースで治療を継続。

当初の主訴であった頭痛は徐々に軽減し、会社を休むほどの痛みはなくなりました。

代わりに、不眠、首肩こり、目の疲れなどが主な訴えとなりました。
治療では、上記のツボに加え、「太陽」「天柱」「風池」「心兪」「肝兪」などを追加し、症状に合わせて円皮鍼やせんねん灸も併用しました。

10~15回目:
頭痛が改善したため、治療間隔を2週間に1回に変更。

不眠と首肩こりが主な症状として残存していましたが、著しい改善は見られませんでした。
患者さまと相談の上、一旦治療を終了することとなりました。

この経過からわかるように、当初の目的であった頭痛の改善には大きな効果が見られました。
しかし、不眠や首肩こりといった根本的な原因に対するアプローチは、十分な効果を発揮するに至りませんでした。

使用した主なツボとその代表的な効果

膻中(だんちゅう):
気の巡りを整え、精神的な安定をもたらす効果があります。

神門(しんもん):
精神安定作用があり、不眠や不安感の緩和に効果的です。

足三里(あしさんり):
胃腸の働きを整え、全身のエネルギーを高める効果があります。

太衝(たいしょう):
肝の気を巡らせ、精神的な緊張やイライラの緩和に効果があります。

中脘(ちゅうかん):
胃腸の働きを整え、消化不良や食欲不振の改善に効果があります。

関元(かんげん):
全身のエネルギーを高め、冷えや倦怠感の改善に効果があります。

天柱(てんちゅう):
首や肩のこりを和らげ、頭痛や眼精疲労の改善に効果があります。

風池(ふうち):
首の後ろ、耳の後ろの骨の下のくぼみに位置します。頭痛、めまい、眼精疲労などに効果があります。

心兪(しんゆ):
精神安定作用があり、動悸、不安感、不眠などに効果があります。

肝兪(かんゆ):
肝機能を整え、目の疲れ、イライラ、頭痛などに効果があります。

これらのツボを組み合わせることで、患者さまの症状に合わせた最適な治療を提供しています。

まとめ

今回の症例では、長年の眼精疲労と適応障害による頭痛に対して、鍼灸治療が一定の効果を発揮したことを示しました
とくに、鎮痛薬が効かないほどの頭痛が大幅に改善されたことは、鍼灸治療の有効性を示すと言えるでしょう。

しかし、不眠や首肩こりといった根本的な原因に対するアプローチは、十分な成果を上げることができませんでした。
これは、慢性的な症状や精神的な要因が深く関与している場合、より長期的な治療が必要となることを示唆しています。

当鍼灸院では、患者様一人ひとりの症状に合わせた丁寧な問診と東洋医学的な診断に基づき、最適な治療を提供することを心がけています。
今回の症例を通して、鍼灸治療が様々な心身の不調に有効であることをご理解いただけたかと思います。
もし、長年お悩みのお体の不調がありましたら、ぜひ一度当院にご相談ください。

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