妊活ストレスと不規則勤務の状況から自然妊娠した鍼灸症例
不妊ストレスや不規則勤務への鍼灸治療
近年、晩婚化や晩産化が進む中で、不妊に悩むご夫婦は増加傾向にあります。
不妊の原因は様々ですが、その背景には仕事や人間関係におけるストレス、不規則な生活習慣、食生活の乱れなどが複雑に絡み合っていることが少なくありません。
とくに、不規則勤務は体内時計を狂わせ、ホルモンバランスや自律神経の乱れを引き起こし、妊活に大きな影響を与える要因の一つと言えるでしょう。
当院ではこれまで多くのご夫婦の妊活をサポートしてまいりました。
私たちは、単に症状を緩和するだけでなく、東洋医学に基づいた丁寧な問診と脈診、腹診を通じて、患者様一人ひとりの体質や生活背景を深く理解し、根本原因にアプローチする鍼灸治療を提供しています。
今回は、不規則勤務によるストレスと疲労が妊活に影響していた30代女性のケースです。
鍼灸治療を通して心身の状態が改善し、自然な妊娠に至るまでの経過を詳細にご報告いたします。
この記事を通して、不妊でお悩みの方々、特に不規則勤務でストレスを抱えながら妊活に取り組んでいる方々に、鍼灸治療がもたらす可能性と希望を感じていただければ幸いです。
患者さまについて
年齢・性別:
30代前半・女性
鍼灸院に来るまでの経緯:
入籍と同時に妊活開始。
自分たちでタイミングを試みるもうまくいかずストレスを感じていました。
婦人科を受診し検査を受けるが「問題なし」と診断されます。
タイミング療法を勧められるも、性交渉を持つこと自体にストレスを感じ通院を中断してしまいます。
その後は排卵検査薬を使用しながら自己流タイミング法を継続。
この患者さまは、過去にPCOSと診断された経験があり、妊活開始後もなかなか妊娠に至らないことから、大きな不安と焦りを感じていました。
とくに、不規則な勤務形態は心身に大きな負担を与え、排卵期には精神的に不安定になることも多かったようです。
体質改善することで妊娠したいと考え、当鍼灸院に来院。
既往歴:
4年前にクラミジア感染歴あり。その際に多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と診断される。
1年前のブライダルチェックでは「婦人科系に問題なし」と言われる。
生活背景:
不規則勤務。仕事柄、腰痛あり。排卵期にイライラしやすい。
東洋医学的考察
東洋医学では、妊娠は「腎」の働きと密接に関係していると考えます。
「腎」は生命の根源的なエネルギーを貯蔵し、成長や発育、生殖機能を司るとされています。
また、「肝」は血を貯蔵し、気の巡りをスムーズにする働きがあり、ストレスの影響を受けやすい臓器です。
この患者様の場合、不規則勤務による疲労や精神的なストレスにより、「肝」の気の巡りが滞る「肝鬱気滞」の状態になっていると考えられました。
「肝鬱気滞」は、イライラや情緒不安定、月経不順などを引き起こしやすく、妊活にも悪影響を及ぼします。
また、腰痛があることから、腎の機能低下も考慮する必要がありました。
治療方針
上記の東洋医学的考察に基づき、以下の治療方針を立てました。
肝気の巡りを改善:
ストレスを緩和し、気の巡りをスムーズにする。
腎の機能を補強:
生殖機能を高め、妊娠しやすい体質へと導く。
心身のリラックスを促進:
自律神経のバランスを整え、心身の緊張を緩和する。
これらの目的を達成するために、鍼とお灸で治療をしました。
また、患者様の体質に合わせて、刺激量を調整しながら、無理のない治療を進めることを心がけました。
治療経過
初診~7回目(週1回のペース):
仰向けで、「中脘」「関元」に棒温灸。「肓兪」「曲池」「足三里」「陰陵泉」「太衝」に置鍼。
座ってもらい、肩こりの局所に単刺。
うつ伏せで、「風池」「心兪」「隔兪」「肝兪」「志室」「次髎」に鍼+円皮鍼。「神道」「命門」に棒温灸。
※足三里にせんねん灸をしたら「熱い」とのことで途中でとる(一番ぬるいタイプのもの)。
肝気の巡りを改善するツボを中心に、全身の調整を行いました。
初回の治療後、若干の倦怠感が出現したため、2回目以降は刺激量を控えめに調整しました。
5回目以降は、腹部へのお灸を追加し、子宮や卵巣の血流改善を促しました。
この期間中に、患者様は長年勤めていた不規則勤務の仕事を退職されました。
8~12回目(週1回ペース):
新しい職場での勤務が開始。
引き続き週1回のペースで治療を継続。
この間、婦人科への通院はせず、自己流のタイミング法を継続。
鍼灸治療12回目の後、生理予定日を過ぎても生理が来なかったため、妊娠検査薬を使用したところ陽性反応が出ました。
13回目:
妊娠8週目で産婦人科を受診後、つわりの症状緩和を目的に来院。
つわりに対する鍼灸治療を行い、症状の軽減を図りました。
その後は、経過が順調だったため、鍼灸治療は終了となりました。
使用した主なツボとその代表的な効果
中脘(ちゅうかん):
胃の不調を整え、消化機能を促進。気の巡りを改善する効果も期待できます。
関元(かんげん):
下腹部の血行を促進し、生殖機能を高める。冷え性や生理不順にも効果的です。
肓兪(こうゆ):
大腸の働きを整え、便秘や下痢などの消化器症状を改善。
曲池(きょくち):
上肢の血行を促進し、肩こりや首こりの緩和に効果的。
足三里(あしさんり):
全身の機能を調整し、免疫力向上や疲労回復に効果的。
陰陵泉(いんりょうせん):
水分の代謝を改善し、むくみや冷えの改善に効果的。
太衝(たいしょう):
肝気の巡りを改善し、ストレスやイライラの緩和に効果的。
風池(ふうち):
首や肩のコリを緩和し、頭痛や眼精疲労にも効果的。
心兪(しんゆ):
心の安定を促し、不眠や動悸などの精神神経症状に効果的。
隔兪(かくゆ):
横隔膜の緊張を緩め、呼吸を楽にする効果が期待できます。
肝兪(かんゆ):
肝臓の機能を整え、気の巡りを改善。
志室(ししつ):
腎の機能を補強し、生殖機能を高める。
次髎(じりょう):
下腹部の血行を促進し、腰痛や生理痛の緩和に効果的。
神道(しんどう):
背骨の歪みを整え、自律神経のバランスを調整。
命門(めいもん):
腎の機能を補強し、全身の活力を高める。
裏内庭(うらないてい):
つわりの吐き気を緩和する効果が期待できます。
胃六つ灸(いのむつきゅう):
胃の不調を整え、つわりの消化器症状を緩和。
至陽(しよう):
背中の痛みを緩和し、呼吸を楽にする効果も期待できます。
筋縮(きんしゅく):
背中の筋肉の緊張を緩め、腰痛の緩和に効果的。
不容(ふよう):
胃の不調を整え、消化不良や食欲不振に効果的。
内関(ないかん):
胸部の不快感を緩和し、つわりや動悸に効果的。
三陰交(さんいんこう):
女性特有の症状に効果的で、生理不順や冷え性、更年期障害などにも用いられます。
まとめ
この症例を通して、不規則勤務によるストレスと疲労が妊活に与える影響、そして鍼灸治療がその改善に貢献できる可能性を示すことができました。
患者さまは、鍼灸治療と並行して転職されたことも、心身の状態改善に大きく寄与したと考えられます。
当院では、不妊でお悩みの方々に対して、東洋医学に基づいた丁寧な診察と、一人ひとりの体質や状態に合わせたオーダーメイドの治療を提供しています。
もしあなたが、ストレスで妊活がうまくいかないと感じているなら、ぜひ一度当院にご相談ください。
私たちは、あなたの妊娠を心から応援し、最善のサポートをさせていただきます。
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