不妊、排卵障害と内膜症のある鍼灸症例
排卵障害と子宮内膜症への不妊鍼灸治療
近年、晩婚化やライフスタイルの変化に伴い、不妊に悩むご夫婦が増加傾向にあります。
不妊治療の方法も多様化する中で、西洋医学的なアプローチに加えて、東洋医学の鍼灸治療が注目を集めています。
鍼灸治療は、身体が本来持つ自然治癒力を高め、心身のバランスを整えることで妊娠しやすい体づくりをサポートします。
今回は、排卵障害と子宮内膜症を抱えながら体外受精に臨まれた患者様の症例です。
当院で行った鍼灸治療とその効果について紹介し、この記事を通して、不妊でお悩みの方々に、鍼灸治療がもたらす可能性と、当院の治療に対する理解を深めていただければ幸いです。
患者さまについて
年齢・性別:
30代女性
鍼灸院に来るまでの経緯:
一人目不妊でお悩みでした。
生理痛がひどく婦人科を受診したところ、子宮内膜症と診断され2年間ピルを服用しました。
3年前から妊活を開始し、病院で検査を受けた結果、排卵しづらいなどのホルモンバランスの乱れを指摘され、排卵誘発剤を使用したタイミング療法を6回試みるも結果に至りませんでした。
その後、仕事の都合で妊活は一時中断します。
再開後は人工授精を試みましたが、やはり結果は得られませんでした。
4ヶ月前に体外受精へのステップアップを決意します。
西洋医学的な治療と並行して、東洋医学の力も借りて妊娠の可能性を高めたいと考え、当院にご来院されました。
婦人科系の症状以外には、首や肩のこりからくる頭痛もお持ちでした。
東洋医学的考察
東洋医学では、妊娠は気・血・水のバランスが整っていることが重要と考えます。
この患者さまの場合、生理痛や子宮内膜症の既往、排卵障害といった症状から、「気滞血瘀(きたいけつお)」の状態であると判断しました。
「気滞」とは、気の流れが滞っている状態を指し、イライラやストレス、情緒不安定などを引き起こしやすく、「血瘀」とは、血の流れが滞っている状態を指し、生理痛や子宮内膜症などの原因となります。
また、首肩こりや頭痛といった症状も、気血の巡りが滞っていることと関連しています。
とくに、精神的なストレスは「肝」の機能に影響を与え、「肝気うつ」という状態を引き起こし、気の巡りを悪くします。
この患者さまは、ストレスの影響を受けやすく、それが気血の巡りを悪くしていると考え、心と肝の気血を巡らせることを治療の根本としました。
治療方針
上記の東洋医学的考察に基づき、当院では以下の治療方針を立てました。
気滞血瘀の解消:
気の巡りを改善し、血の滞りを解消することで、子宮や卵巣への血流を促進し、機能を高めます。
心と肝の気血を巡らせる:
精神的な安定を促し、ストレスを軽減することで、ホルモンバランスの改善を目指します。
瘀血体質の改善:
子宮内膜症の原因となる瘀血を改善し、子宮環境を整えます。
局所のコリの緩和:
首肩こりや頭痛を緩和することで、全身の血行を促進し、リラックス効果を高めます。
これらの治療方針に基づき、鍼とお灸を組み合わせて行い、身体の内側から妊娠しやすい状態へと導くことを目指しました。
治療経過
1回目:
仰向けで、「関元」への棒温灸と、「合谷」「三陰交」「陽陵泉」「太衝」への鍼治療を行いました。足先にはホットパックを使用して温めました。
うつ伏せで、首から肩甲骨にかけてのコリ、および「膏肓」「隔兪」「肝兪」「次髎」に鍼と円皮鍼を施しました。
2回目から10回目(週1回ペース):
その時の体調やコリの状態に合わせて、使用するツボを若干変更しながら、同様の施術を基本としました。
必要に応じて円皮鍼やパルス鍼も併用しました。
治療を重ねるごとに、生理痛の改善がみられるようになりました。
7回目の治療後、採卵を行い、4個の卵子が採取され、そのうち1個の受精卵を2日後に移植。
残りの受精卵のうち1個は胚盤胞まで成長し凍結保存となりました。
11回目(移植後の判定日翌日):
無事、陽性反応が出たとのことでした。
妊娠初期も引き続き鍼灸治療を希望されたため、肝・脾・腎の働きを補うようなツボを選び、全体的にソフトな刺激の治療に切り替えました。
12回目から15回目(2週間に1回ペース):
妊娠6週頃から現れたつわりの症状に対しては、「内関」「足三里」「胃の六つ灸」を中心に鍼・灸・円皮鍼などで症状の緩和を図りました。
その後、妊娠初期の経過も順調に進み、妊娠11週で近所の産婦人科へ転院されるまで、当院での鍼灸治療を継続されました。
使用した主なツボとその代表的な効果
関元(かんげん):
下腹部にあるツボで、生殖機能を高め、冷えを改善する効果があります。温灸と併用することで、子宮の血流を促進し、着床を助けます。
合谷(ごうこく):
手の甲にあるツボで、気の巡りを改善し、ストレスを緩和する効果があります。
三陰交(さんいんこう):
内くるぶしの上にあるツボで、婦人科系の疾患に効果があり、ホルモンバランスを整える作用があります。
陽陵泉(ようりょうせん):
ひざ下外側にあるツボで、肝の機能を整え、気の巡りを改善する効果があります。
太衝(たいしょう):
足の甲にあるツボで、肝の気を鎮め、精神的な安定をもたらす効果があります。
膏肓(こうこう):
背中にあるツボで、免疫力を高め、体力を増強する効果があります。
隔兪(かくゆ):
背中にあるツボで、横隔膜の緊張を緩め、呼吸を楽にする効果があります。
肝兪(かんゆ):
背中にあるツボで、肝の機能を整え、気の巡りを改善する効果があります。
次髎(じりょう):
仙骨部にあるツボで、骨盤内の血流を改善し、婦人科系の疾患に効果があります。
内関(ないかん):
手首内側にあるツボで、つわりに効果があり、吐き気や胃の不快感を和らげます。
足三里(あしさんり):
ひざ下にあるツボで、胃腸の働きを整え、つわりによる消化不良を改善します。
胃の六つ灸(いのむつきゅう): 背中のツボのセットで、胃腸の機能を高め、食欲不振や消化不良を改善します。
まとめ
この患者さまの場合、陽性反応が出るまで約3ヶ月の治療期間でした。
もともと気血の状態は良好でしたが、その巡りが滞っていたため、鍼灸治療によって気血の巡りをスムーズにすることを重視しました。
ツボの選択においては、経絡や臓腑の理論に基づきながら、実際の身体のコリの状態も考慮し、全身の巡りを促進するように心がけました。
体質改善と並行して結果を出すための最短単位は3ヶ月と考えており、今回の症例もそのセオリーに沿った結果となりました。
体外受精と鍼灸治療を併用することで、1回の移植で無事に妊娠に至ったことは、当院としても大変喜ばしい結果です。
当院では、不妊でお悩みの方一人ひとりの体質や症状に合わせた丁寧なカウンセリングと鍼灸治療を行っております。
西洋医学と東洋医学の融合により、妊娠を希望される皆様の力強いサポートができればと考えております。
これをお読みの方で、あなたが不妊でお悩みでしたら、ぜひ一度当院にご相談ください。
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