過敏性腸症候群で学校に行けなかった中学生への鍼灸症例
過敏性腸症候群への鍼灸治療
当院には、様々な症状でお悩みの方が来院されますが、近年多く見られるのが、ストレスや自律神経の乱れからくる不調です。
その中でも、学生の方で深刻な問題となっているのが、過敏性腸症候群(IBS)による腹痛や下痢などの消化器症状です。
学校に行きたくても、お腹の不調で通学できない、というお子様やご家族の切実な声を聞くにつけ、何か力になりたいと強く感じております。
今回は、2年前から過敏性腸症候群による下痢に悩まされ、学校生活にも支障が出ていた中学1年生の男の子です。
病院での治療では効果が見られなかったものの、当院の鍼灸治療によって症状が著しく改善し、再び学校に通えるようになった事例です。
この記事を通して、過敏性腸症候群でお悩みの方、薬以外の治療法を探している方々に、鍼灸治療の可能性を知っていただきたいと思います。
患者さまについて
年齢・性別:
中学1年生・男性
鍼灸院に来るまでの経緯:
主訴は過敏性腸症候群(下痢)です。
2年前から腹痛と下痢が出現しました。
徐々に症状が悪化し、学校がある日に症状が出やすく、休みの日には症状が出ない傾向が見られるように。
病院で過敏性腸症候群(IBS)と診断され、自律神経を整える薬を処方されるも効果を感じられず、学校を欠席する日が増加していきました。
薬以外の治療法を求めて、鍼灸を希望され当院を受診されました。
体格は長身痩せ型で、過敏な体質傾向が見られました。
この患者様は、真面目で几帳面な性格であることが伺え、ストレスを溜め込みやすいタイプであると考えられました。
思春期という心身ともに変化の大きい時期に、腹痛や下痢といった症状が重なったことで、精神的な負担も大きかったことでしょう。
東洋医学的考察
東洋医学では、身体の不調を臓腑(五臓六腑)の機能失調として捉えます。
今回の患者様の症状を東洋医学的に考察すると、主に「肝」「脾」「腎」の機能低下が関与していると考えられます。
肝(かん):
肝は、自律神経の働きや精神活動と深く関わっています。
ストレスや精神的な緊張は肝の機能を阻害し、気の流れを滞らせます。
気の流れが滞ると、身体の様々な部位に不調が現れます。
今回のケースでは、精神的なストレスが原因で肝の機能が失調し、それが消化器症状に繋がったと考えられます。
脾(ひ):
脾は、飲食物を消化吸収し、全身に栄養を運ぶ役割を担っています。
脾の機能が低下すると、消化不良や下痢、食欲不振などの症状が現れます。
この患者様の場合、ストレスによる肝の機能失調が脾の機能にも影響を与え、下痢を引き起こしていると考えられます。
腎(じん):
腎は、生命の根本的なエネルギーである「精(せい)」を貯蔵し、身体の成長や発育、生殖などを司っています。
腎の機能が低下すると、身体の抵抗力や免疫力が低下し、様々な不調が現れやすくなります。
この患者様は長身痩せ型であり、体質的に腎の機能が弱い傾向があったと考えられます。
これらのことから、この患者様の症状は、ストレスによる肝の機能失調が根本にあり、それが脾や腎の機能にも影響を与え、下痢を引き起こしていると判断しました。
治療方針
上記の東洋医学的考察に基づき、治療方針は以下の通りとしました。
肝の疏泄(そせつ)機能を高め、気の流れをスムーズにする。
脾の健運(けんうん)機能を高め、消化吸収を促進する。
腎の固摂(こせつ)機能を高め、下痢を止める。
全体的に過敏な傾向が見られるため、刺激は軽めに行う。
これらの目的を達成するために、鍼灸治療を選択しました。
鍼灸治療は、身体に点在するツボ(経穴)を刺激することで、気の流れを調整し、臓腑の機能を活性化する効果があります。
治療経過
1回目:
仰向けで、 「太衝」「太谿」「曲池」「上巨虚」に置鍼をしました。「天枢」に浅く鍼をした後に円皮鍼を貼りました。足先にホットパックを当て温めました。
うつ伏せで、「心兪」「隔兪」「脾兪」に置鍼をしました。
2~8回目(1週間に1回ペース):
新学期からゴールデンウィークにかけて、症状が悪化することなく、徐々に改善傾向が見られました。
治療内容は1回目とほぼ同様。
現在も継続治療中:
症状は著しく改善し、学校もほとんど欠席なく通えるようになりました。
今後は施術間隔を徐々に空けていき、月1回程度の施術で十分に状態を維持できると判断できれば、治療終了となる見込みです。
治療開始当初は、週に1回のペースで治療を行いました。
症状の改善に合わせて、徐々に治療間隔を空けていくことで、患者様の負担を軽減し、治療効果の定着を図っています。
使用した主なツボとその代表的な効果
太衝(たいしょう):
肝の疏泄機能を高め、気の流れをスムーズにする効果があります。ストレスやイライラ、目の疲れなどにも効果的です。
太谿(たいけい):
腎の機能を高め、身体の根本的なエネルギーを補う効果があります。冷え性や足腰の痛み、頻尿などにも効果的です。
曲池(きょくち):
熱を冷まし、炎症を抑える効果があります。皮膚疾患や便秘、下痢などにも効果的です。
上巨虚(じょうこきょ):
胃腸の機能を整え、消化不良や下痢などに効果があります。
天枢(てんすう):
腸の働きを整え、便秘や下痢、腹痛などに効果があります。
心兪(しんゆ):
精神安定、不眠、動悸などに効果があります。
隔兪(かくゆ):
消化器系の不調、食欲不振、吐き気などに効果があります。
脾兪(ひゆ):
脾の機能を高め、消化不良、食欲不振、下痢などに効果があります。
これらのツボを組み合わせて使用することで、患者様の症状に合わせた効果的な治療を行うことができました。
まとめ
過敏性腸症候群による下痢でお悩みの中学生が、鍼灸治療によって著しく改善した事例をご紹介しました。
先に問い合わせた別の鍼灸院からは「鍼灸では難しい」と言われたにもかかわらず、当院の鍼灸治療によって症状が改善したことは、諦めずに鍼灸治療を試す可能性を示す好例と言えるでしょう。
当院では、患者様一人ひとりの症状に合わせた丁寧な問診と東洋医学的な診断を行い、最適な治療を提供しています。
過敏性腸症候群でお悩みの方、薬以外の治療法を探している方は、ぜひ一度当院にご相談ください。
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