自律神経失調症(不眠、情緒不安定)への鍼灸症例
自律神経失調症(不眠、情緒不安定)への鍼灸治療
現代社会において、ストレスは避けて通れないものとなり、心身のバランスを崩し、様々な不調を引き起こす要因となっています。
とくに、不眠、情緒不安定、疲労感といった症状は、自律神経の乱れと深く関わっており、日常生活に大きな支障をきたすことも少なくありません。
今回は、自律神経失調症による不調を抱える患者様の症例を通して、鍼灸治療が心身のバランスを整え、本来の健康を取り戻すための有効な手段であることをご紹介いたします。
この記事を通して、鍼灸治療の可能性を感じていただることを願っております。
患者さまについて
年齢・性別:
40代女性。
鍼灸院に来るまでの経緯:
患者様は妊活中で、体外受精を数回試みていましたが、なかなかうまくいかず、精神的にも肉体的にも疲弊していました。
しばらく妊活を休んでいましたが、凍結卵があるため、体調を万全にして移植に臨みたいと考えていました。
しかし、3~4ヶ月前から情緒が不安定になり、2ヶ月前には身内の不幸が重なり、移植への焦りも加わって、不眠の症状が現れ始めました。
眠りについても、夜中に目が覚めてしまう中途覚醒のタイプでした。
不眠以外にも、首筋が冷える、肩から背中にかけての凝り、食欲不振、全身の倦怠感など、様々な不調を抱えていました。
生理周期も22日から27日と不安定になっていました。
メンタル系の薬を服用することには抵抗があり、心療内科などの病院には通院していませんでした。
鍼灸治療で体調を整え、体外受精の移植に繋げたいという強い希望を持って当院を受診されました。
初診時の患者様は、声も小さく、全体的に元気がなく、以前の記憶も曖昧な部分があるなど、心身ともに著しく消耗している様子が伺えました。
東洋医学的考察
東洋医学では、心身の不調は「気・血・水(き・けつ・すい)」のバランスの乱れによって引き起こされると考えます。
今回の患者様の場合、問診や脈診、舌診などから、「気血両虚(きけつりょうきょ)」、つまり、体を動かすエネルギーである「気」と、全身に栄養を運ぶ「血」の両方が不足している状態が顕著でした。
「気血両虚」は、倦怠感、疲労感、不眠、食欲不振、顔色不良などの症状を引き起こします。
また、精神的なストレスや悲しみなどの感情は、肝の気の流れを滞らせる「肝うつ(かんうつ)」を引き起こし、情緒不安定、イライラ、抑うつなどの症状を招きます。
今回の患者様の場合、「気血両虚」をベースに、「虚(きょ)」からくる「肝うつ」の状態も併発していると考えられました。
さらに、東洋医学では、心(しん)、肝(かん)、脾(ひ)、腎(じん)、肺(はい)という五臓が互いに影響し合い、心身の健康を維持していると考えます。
今回の患者様は、ほぼすべての臓腑に「虚」が見られ、心身全体のバランスが大きく崩れている状態でした。
治療方針
上記の東洋医学的な考察を踏まえ、以下の治療方針を立てました。
「気血」を補い、心身のエネルギーを高める。
「肝」の気の流れを整え、精神的な安定を促す。
五臓全体のバランスを調整し、心身の調和を取り戻す。
患者様の体力が著しく低下していたため、お灸を多用し、全体的な刺激量を抑えた優しい治療を心がけました。
補気補血作用の高いツボと、リラックス効果の高いツボを中心に、軽めの刺激を行うようにしました。
治療経過
1回目:
仰向けで、「太衝(たいしょう)」「内関(ないかん)」にお灸と円皮鍼をしました。「期門(きもん)」「三陰交(さんいんこう)」に浅く置鍼を行いました。足にはホットパックで温めました。
うつ伏せで、肩の凝りに散鍼を施し、頭部と背部には浅く置鍼を行いました。
その後、2~4回目までは、当初は週1回のペースでの来院を勧めましたが、実際には2週間に1回のペースでの来院となりました。
治療を重ねるごとに、患者様の気分は徐々に上向きになり、眠りの状態も少しずつ改善が見られました。
症状は「疲れ」「肩こり」「足の冷え」に集約されていきました。
数回後の治療は以下の通り。
仰向けで、「曲池(きょくち)」「太衝」「足三里(あしさんり)」「天枢(てんすう)」に浅く置鍼、「関元(かんげん)」に棒温灸をしたのちに「おへそ周り」にお灸をしました。足のホットパックは継続します。
うつ伏せで、「肩凝りの局所」への単刺をして、「背部兪穴」への置鍼と棒温灸などを行いました。
現在も治療は継続中です。
使用した主なツボとその代表的な効果
太衝(たいしょう):
気の流れを整え、精神的な安定を促します。
内関(ないかん):
精神安定作用や吐き気、動悸などに効果があります。
期門(きもん):
肝の機能を調整し、気の流れをスムーズにします。
三陰交(さんいんこう):
脾・肝・腎の経絡が交わるツボで、婦人科疾患や冷え症などに効果があります。
曲池(きょくち):
肩や腕の痛み、皮膚疾患などに効果があります。
足三里(あしさんり):
胃腸の働きを整え、全身の倦怠感や足の冷えなどに効果があります。
天枢(てんすう):
胃腸の働きを整え、便秘や下痢などに効果があります。
関元(かんげん):
体の根本的なエネルギーを高め、冷え症や婦人科疾患などに効果があります。
これらのツボを組み合わせることで、患者様の症状に合わせた効果的な治療を行うことができました。
まとめ
この症例は、自律神経を介した心身症の典型的なケースと言えます。
患者様は心身ともに著しく消耗しており、その原因を明確に聞き取ることはできませんでしたが、「気血両虚」が明らかであったため、そこへの施術に集中しました。
治療を行うごとに改善が見られましたが、「虚」を補うには時間がかかるため、焦らずにゆっくりと治療を続けることが重要です。
今回のケースでは、精神的な要素も大きく関与していると考えられました。
精神面が活性化されることで、肉体面の「虚」も早期に改善する可能性があり、今後の経過が注目されます。
当院では、患者様の心身全体を捉え、丁寧な問診と東洋医学に基づいた的確な診断を行い、一人ひとりに合わせた最適な治療を提供しています。
心身の不調でお悩みの方は、ぜひ一度当院にご相談ください。
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