抗がん剤の副作用(手足のしびれ)の鍼灸症例

抗がん剤の副作用(手足のしびれ)への鍼灸治療

その他症例7:抗がん剤の副作用(手足しびれ)

近年、医療技術の進歩により、がんは早期発見・早期治療が可能となり、生存率も向上しています。
しかし、その一方で、抗がん剤治療に伴う副作用は、患者様のQOL(生活の質)を著しく低下させる要因の一つとなっています。

とくに、手足のしびれ(末梢神経障害)は、日常生活に支障をきたすだけでなく、精神的な苦痛も伴います。

当院では、このような抗がん剤の副作用に対し、東洋医学に基づく鍼灸治療を提供し、多くの患者様の症状緩和に貢献してまいりました。

今回は、大腸がんの抗がん剤治療に伴う手足のしびれ、吐き気、不眠などの副作用に苦しむ50代男性の症例を通して、当院の鍼灸治療がどのように患者様の苦痛を和らげ、QOL向上に寄与したのかをご紹介いたします

この記事を通して、抗がん剤治療の副作用に苦しむ方々、そしてそのご家族に、鍼灸治療という選択肢を知っていただければ幸いです。

患者さまについて

年齢・性別:
50代男性。

鍼灸院に来るまでの経緯:
1年ほど前に、血便が出たものの放置していたところ、3ヶ月前に内視鏡検査で大腸がんと診断されました。

その後、腹腔鏡下横行結腸切除術を受けられましたが、リンパ節転移が認められました。

退院後2週間で抗がん剤治療が開始され、手足のしびれ、吐き気などの副作用が出現し始め、2回目の抗がん剤投与後、今後の副作用対策として鍼灸治療を希望され当院を受診されました。

手術の頃から不安感が強く、不眠傾向も見られました。
多忙な毎日を送る中で、ご自身の身体を労わる時間も少なかったとのことです。

東洋医学的考察

東洋医学では、抗がん剤治療は体内の「気」「血」の流れを乱し、「脾胃」(消化器系)の機能低下を引き起こすと捉えます。

「気」は生命エネルギー、「血」は血液とそれを運搬する栄養分を意味し、これらが滞ることで様々な不調が現れます。
とくに、抗がん剤の副作用である手足のしびれは、「気血」が末端まで十分に巡らなくなることで生じると考えます。

また、吐き気は「胃気」の不調、不眠は「心」の不調と関連付けられます。

本症例では、手術や病気そのものによる精神的なストレスも加わり、「肝気」の鬱滞も考慮する必要がありました。

これらの東洋医学的な視点から、患者様の症状を「気血」の巡りの改善、「脾胃」機能の回復、「心神」の安定を目的とした治療を行うことが重要であると判断しました。

治療方針

本症例に対する治療方針は、抗がん剤によって乱れた「気血」の巡りを整え、特に「脾胃」の働きを正常化することに重点を置きました。

手足のしびれに対しては、末端まで「気血」を巡らせるために、手足の末端部への刺激を重視しました。

また、大病による不安感に対しては、心身のリラックスを促すため、背部の兪穴(ゆけつ)を多用することとしました。

具体的な治療は、鍼治療と灸治療を併用し、患者様の体質や症状に合わせてツボ(経穴)を選択しました。

治療経過

1回目:
仰向けで、「曲池」「内関」「足三里」「太谿」に置鍼をし、内関には円皮鍼を貼り、足三里には台座灸をしました。「中脘」に棒温灸をしました。
うつ伏せで、「風池」「心兪」「肝兪」「脾兪」「腎兪」に鍼と棒温灸をしました。「足指先端」にお灸を行いました。

その後、週1~2回のペースで治療を継続しました。
治療経過中、足のしびれよりも湿疹様の水疱が多くでき、それが破れて痛むこと。
また不眠、全身の冷えなどを訴えるようになりました。

そのため、「気」「水」の巡りを強めることを目的に、「膻中」「不容」「合谷」「足三里」「太谿」への置鍼、足へのホットパック、「風池」「心兪」「肝兪」「胆兪」「腎兪」への鍼と必要なツボに円皮鍼添付を行いました。

疲れ、胸やけ、腰痛、吐き気などの症状に合わせて、その都度、配穴を調整しました。

抗がん剤治療の終盤には、めまい、ふらつき感を強く訴えるようになり、「気」が上焦に巡っていない状態と考え、治療を行いました。

14回の鍼灸治療を終える頃には、抗がん剤治療が終了しました。

その後も、2~3週間に1回のペースで治療を継続しました。
めまい、ふらつきは改善しましたが、代わりに息苦しさを訴えるようになり、病院でCT検査を受けた結果、「間質性肺炎」と診断されました。

気管支拡張薬の使用を開始すると同時に、鍼灸治療も継続し、手足のしびれ、息苦しさともに徐々に改善していきました。

鍼灸治療開始から約1年後には、咳は出るものの苦しい状態ではなくなり、病院での経過観察でも、がん、呼吸器ともに安定した状態が維持されるようになりました。

その後は、再発予防と健康増進を目的として、鍼灸治療を継続されています。

使用した主なツボとその代表的な効果

曲池(きょくち):
熱を冷まし、血行を促進する作用があります。

内関(ないかん):
胸部の不快感、吐き気、精神安定に効果があります。

足三里(あしさんり):
胃腸の機能を整え、全身の活力を高めます。

太谿(たいけい):
腎の機能を高め、水分代謝を改善します。

中脘(ちゅうかん):
胃腸の機能を整え、消化不良、吐き気などに効果があります。

風池(ふうち):
頭痛、めまい、首こりなどに効果があります。

心兪(しんゆ):
精神安定、不眠などに効果があります。

肝兪(かんゆ):
肝機能を整え、精神的なストレスを緩和します。

脾兪(ひゆ):
脾胃の機能を高め、消化吸収を促進します。

腎兪(じんゆ):
腎機能を高め、全身の機能を活性化します。

膻中(だんちゅう):
胸部の不快感、呼吸器系の症状に効果があります。

不容(ふよう):
胃の不調、吐き気などに効果があります。

合谷(ごうこく):
鎮痛作用、血行促進作用があります。

まとめ

本症例を通して、抗がん剤治療に伴う副作用に対し、鍼灸治療が有効であることが示されました
とくに、手足のしびれ、吐き気、不眠といった症状の緩和に効果を発揮し、患者様のQOL向上に大きく貢献できたと考えております。

当院では、患者様一人ひとりの症状に合わせた丁寧な問診と東洋医学的な診断に基づき、最適な治療を提供しております。

抗がん剤治療の副作用でお悩みの方は、是非一度当院にご相談ください。
患者様の苦しみを和らげ、より快適な生活を送れるよう、全力でサポートさせていただきます。

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