首肩の激しい痛みへの鍼灸症例|鎌ケ谷市在住40代女性
首肩の重いような痛みへの鍼灸症例
首や肩の痛みは多くの方が経験される症状でしょう。
今回の症例を通して、首肩の痛みに対して鍼灸がどのように有効かをご理解いただければ幸いです。
患者さまについて
年齢性別:
40代女性・鎌ケ谷市在住
鍼灸院に来るまでの経緯:
来院されるおよそ3週間前、この患者さまは「滝行」体験をされました。
その時はとくに体の異変を感じることはなく、無事に終えることができたそうです。
しかし、滝行から4日ほど経過した頃から、右の首の周囲に痛みを感じ始めました。
最初のうちは、温めたり軽いストレッチをしたりすると一時的に楽になることもあり、「少し無理をしたかな」程度に考えていらっしゃったようです。
ところが、今から5日前、急に、右の首に重いような痛みが現れました。
この痛みは時間とともに増し、最初首だけだったつらい範囲が、徐々に肩の方へと広がっていったと感じていらっしゃいました。
痛みの特徴としては、安静にしていても痛む。
何もしていなくても、常に首から肩にかけて重く、つらい痛みを感じていました。
動かすとさらに痛む。
首を回したり、腕を上げたりといった日常的な動作が、痛みを増強させてしまいました。恐る恐る動かしている状態でした。
寝る姿勢で痛みが悪化します。
横になったり、仰向けになったりすると、痛みがさらに強くなり、まともに眠ることができませんでした。
これらの痛みに市販の鎮痛薬を試されたそうですが、「全く効かなくて…できれば薬に頼り続けるのは嫌なんです」と仰っていました。
また、病院を受診することも考えたそうですが、「どうせ痛み止めを処方されるくらいだろう」と考え、東洋医学的なアプローチである鍼灸に希望を託して当院にご連絡くださいました。
首肩の痛み以外の症状。
・顎関節症
・メンタルの変調
・寝つきが悪く眠りも浅い不眠
…などです。
これらの情報は、後述する東洋医学的な診断において、非常に重要なヒントとなりました。
単に首や肩だけを診るのではなく、患者さまの全身の状態を把握し、それらを関連付けて考えることが、当院の鍼灸治療では不可欠だからです。
東洋医学的考察
東洋医学では、人間の体は「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」という三つの要素がバランスを取りながら巡ることで健康が維持されていると考えます。
これらのいずれか、あるいは複数のバランスが崩れたり、巡りが滞ったりすることで、様々な病気や不調が現れると捉えます。
今回の患者さまの首肩の痛み、特に「重いような痛み」という表現、そして痛む場所が局所的であること、さらに滝行という「外的な衝撃」という体験後に発症したという経緯は、東洋医学的に見るといくつかの重要なポイントを示唆しています。
まず、「重いような痛み」は、多くの場合、「湿(しつ)」や「痰湿(たんしつ)」といった余分な水分や濁りが体内に停滞している状態、あるいは「血瘀(けつお)」と呼ばれる血液の循環が滞っている状態と関連が深いと考えられます。
特に、今回の患者さまの痛みは特定の場所に集中しており、動かすと悪化するという特徴があったことから、局所における「血瘀」が非常に強く関わっていると判断しました。
血は体を巡って組織に栄養を与え、老廃物を運び去る重要な働きをしていますが、何らかの原因でその流れが滞ると、痛みやしこりといった症状が現れます。
では、なぜ血瘀が生じたのでしょうか。
滝行という行為で首に衝撃を浴び、気血の巡りを滞らせたからではないでしょうか。
患者さまの首肩周辺の経絡(けいらく:気血の通り道)の流れを著しく妨げた結果、強い血瘀を引き起こした可能性が考えられました。
また、患者さまが抱えていらっしゃった他の症状も、東洋医学的な診断の重要な手掛かりとなりました。
元々の不眠傾向や最近のメンタルの変調は、「心(しん)」や「肝(かん)」といった五臓の働きの乱れと関連があることが多いです。
例えば、心の機能が低下すると血を十分に巡らせることができず血瘀を招く可能性がありますし、肝の気の巡りが滞ると全身の気血の巡りにも影響を与え、局所の痛みを悪化させることがあります。
さらに、顎関節症も気や血の滞り、あるいは筋を司る「肝」の機能と関連付けて考えることがあります。
これらの情報を総合的に判断し、今回の患者さまの首肩の痛みは、「局所的な血瘀」を主軸とし、そこに「気滞(きたい:気の巡りの滞り)」や全身的な気血の不足、あるいは五臓の機能失調が複合的に関与している状態であると考察しました。
単なる筋肉痛ではなく、もっと根深い、体の内側のバランスの乱れが引き起こした症状であると捉えたのです。
治療方針
最も重要な目標は、滞っている局所の気血の巡りを力強く改善し、痛みの根本原因である「血瘀」を解消することです。
■急性期の強い痛みの緩和
最優先は、患者さまを苦しめている激しい痛みを少しでも早く和らげることです。
急性期は炎症や組織の過敏性が高まっているため、過度な刺激は避けつつ、局所の気血の巡りを速やかに改善するための施術を行います。
■局所の血瘀の解消
滝行による気血の滞りによって生じた首肩周辺の血瘀に対し、鍼やお灸を用いて集中的にアプローチし、滞りを解消して痛みを根本から取り除きます。
■全身の気血の巡りの促進とバランス調整
局所の問題だけでなく、患者さまの全身的な状態(不眠、メンタル変調など)にも目を向け、気・血・水のバランスを整え、体全体の巡りをスムーズにすることで、痛みが再発しにくい体作りを目指します。
五臓(特に心、肝)の働きを調整し、自律神経のバランスも整えることで、不眠やメンタルの不調にもアプローチします。
■自然治癒力の向上
鍼灸刺激によって、患者さま自身の体が持つ自然治癒力を高め、内側から不調を改善していく力を引き出します。
治療経過
1回目(ご来院日):
この日は、患者さまの痛みがピークであり、安静にしていても、動かしても、寝ても痛むという非常に厳しい状態でした。
そのため、まずは患者さまに楽な姿勢(座位)を取っていただき、痛む部位を中心に最小限の刺激でアプローチすることにしました。
右の首から肩にかけての最も痛みが強い場所に、非常に細い鍼を浅く刺入しました。
鍼を刺した状態で、患者さまに痛みが悪化しない範囲でゆっくりと首や肩を動かしていただく「運動鍼」を行いました。
これは、鍼刺激と体の動きを組み合わせることで、局所の気血の巡りを効率的に改善し、滞りを打破することを目的としています。
患者さまは恐る恐るでしたが、少しずつ動かしてくださいました。
運動鍼の後、同じ部位に小さく切ったもぐさを燃やす「点灸」を行いました。
これは、お灸の温熱効果で局所を温め、血行を促進し、痛みを和らげる効果が期待できます。
最後に、治療効果の持続を目的として、痛む部位の周囲に小さな円皮鍼を貼付しました。
2回目治療(3日後):
「痛みが7割くらい楽になりました」とのこと。
痛みの範囲も、肩全体から首の方に縮小してきたとのことで、治療の効果が出ていることを確認できました。
痛みが軽減したため、この回はうつ伏せでの施術が可能になりました。
まず、首から肩にかけてのまだ痛みが残る局所に、細い鍼を浅く刺す置鍼(ちしん:一定時間鍼を置く手技)を行いました。局所の気血の巡りをさらに改善し、残存する血瘀の解消を目指しました。
それに加え、東洋医学的な全身調整の観点から、背中にある「心兪(しんゆ)」「膈兪(かくゆ)」「肝兪(かんゆ)」といったツボにも置鍼を行いました。
心兪は心の働きを整えて精神を安定させ不眠に、膈兪は血に関する要穴で血瘀の改善に、肝兪は肝の働きを整えて気の巡りをスムーズにし筋緊張を和らげる効果が期待できます。
これらのツボを刺激することで、局所の痛みだけでなく、患者さまの全身的な不調(不眠、メンタル変調)にもアプローチしました。
さらに、棒温灸を右の「肩外兪(けんがいゆ)」と「至陽(しよう)」というツボに当ててじっくり温めました。
これは、広範囲を温めることで血行を促進し、残っている痛みを和らげる目的で行いました。
仰向けになってからは、手足にある全身調整によく用いられるツボを選んで置鍼を行いました。
右の「外関(がいかん)」「曲池(きょくち)」、そして両側の「陽陵泉(ようりょうせん)」「足三里(あしさんり)」です。
外関と曲池は上半身、特に腕や肩の痛みに効果があり、気血の巡りを良くします。
陽陵泉は筋や腱の病に効果があり、首肩の筋緊張緩和に有効です。
足三里は胃腸の働きを整えるとともに全身の気力を高めるツボであり、体の内側から回復力をサポートします。
3回目治療(2回目から10日後)
2回目の治療から10日後、患者さまは痛みは少し違和感が残る程度になっていました。
この回の治療では、痛みが残る首の局所に対し、鎮痛効果や筋緊張緩和に優れたパルス鍼(低周波電気を流す鍼)を行いました。
これにより、残存するわずかな痛みやこりのような感覚を解消することを目指しました。
その後、効果の持続とセルフケアの意味も込めて、再び円皮鍼を貼付しました。
その他の施術内容は、2回目の治療に準じ、うつ伏せと仰向けで全身のバランスを整えるツボに置鍼を行い、棒温灸で温めるといった流れで進めました。
この3回目の治療後、日常生活に支障がないレベルまで改善したことから、これにて鍼灸治療は一旦終了と判断しました。
使用した主なツボとその代表的な効果
今回の患者さまの治療では、東洋医学的な診断に基づき、患者さまの症状や体質に合わせて様々なツボを組み合わせて使用しました。
ここでは、その中でも特に重要な役割を果たした主なツボと、その代表的な効果をご紹介します。
阿是穴(あぜけつ):
場所: 痛む場所、押すと響く場所など、患者さまの不調がある局所。
効果: 東洋医学では、痛みがある場所には「邪(じゃ)」が滞っていると考えます。
阿是穴に鍼やお灸をすることで、局所の気血の巡りを直接的に改善し、滞りを解消して痛みを和らげます。
今回の症例では、特に右の首から肩にかけての痛みが強い場所にアプローチしました。
心兪(しんゆ):
場所: 背骨の5番目の棘突起の下、外側にあるツボ。
効果: 「心」は精神活動や血の巡りを司る五臓です。
心兪は心の働きを整え、精神を安定させる効果があります。
不眠や動悸、不安感など、心の不調に関連する症状に用いられます。
今回の患者さまの不眠やメンタルの変調に対し、全身調整の一環として使用しました。
膈兪(かくゆ):
場所: 背骨の7番目の棘突起の下、外側にあるツボ。
効果: 「血会(けつえ)」とも呼ばれ、全身の血が集まる重要なツボとされています。
血の巡りを改善し、血瘀(血の滞り)を解消する効果に優れています。
今回の症例の主たる原因と考えられた血瘀に対し、積極的に使用しました。
肝兪(かんゆ):
場所: 背骨の9番目の棘突起の下、外側にあるツボ。
効果: 「肝」は気の巡りをスムーズにしたり、血を貯蔵したり、筋や腱の働きを司る五臓です。
肝兪は肝の働きを整え、気の滞り(気滞)を改善し、全身の巡りを良くします。
ストレスによる筋緊張や、気の巡りの悪さからくる痛みに効果的です。
外関(がいかん):
場所: 手首の甲側、シワの中央から指3本分上のツボ。
効果: 経絡(三焦経)上のツボで、上半身、特に肩から腕にかけての痛みやしびれに効果的です。
気血の巡りを良くし、滞りを解消します。
曲池(きょくち):
場所: 肘を曲げたときにできるシワの端にあるツボ。
効果: 大腸経に属し、全身の気血の巡りを改善する効果があります。
炎症を抑えたり、熱を冷ましたりする作用もあり、首や肩の炎症性の痛みにも用いられます。
陽陵泉(ようりょうせん):
場所: 膝下の外側、腓骨の出っ張りの前下にあるツボ。
効果: 「筋会(きんえ)」とも呼ばれ、全身の筋や腱の病に効果がある重要なツボです。
首や肩の筋緊張を和らげ、動きをスムーズにするために使用しました。
足三里(あしさんり):
場所: 膝のお皿の下の外側、指4本分下にあるツボ。
効果: 胃経のツボで、胃腸の働きを整え、全身の気力や体力を高める効果があります。
「元気のツボ」とも呼ばれ、体力を底上げし、回復をサポートします。
肩外兪(けんがいゆ):
場所: 肩甲骨の内側上角の少し上にあるツボ。
効果: 肩の局所の痛みに直接作用し、気血の巡りを改善して痛みを和らげます。
至陽(しよう):
場所: 背骨の7番目の棘突起の下にあるツボ。
効果: 背中にあるツボで、全身の血行を促進し、痛みを和らげる効果があります。
特に背中や肩の痛みに用いられます。
単に痛い場所だけでなく、全身のバランスを整えるツボを組み合わせることで、局所の痛みの改善を促しつつ、体全体の回復力を高め、症状の根本的な改善と再発予防を目指すのが当院の鍼灸治療の特徴です。
まとめ
今回の症例では、首肩の重く激しい痛みで、市販薬も効かず夜も眠れないほどのつらさが、3回の施術で痛みがほぼ消失する結果を得ることができました。
この症例から、以下の点が特に重要であることが分かります。
原因不明と思える痛みにも、東洋医学的なアプローチは有効です。
単なる筋肉の問題だけではない、血の滞りという原因にアプローチして改善を達成できました。
原因がはっきりしない、あるいは西洋医学的な検査で異常が見つからないような痛みであっても、東洋医学的な視点から体のバランスの乱れを読み解くことで、有効な治療法が見つかることがあります。
急性期の激しい痛みにも鍼灸は対応できます。
急性期の非常に強い痛みに対しても、適切なツボ選択と手技を用いることで、早期に痛みを緩和することが可能です。
全身を診ることの重要性。
患者さまの不眠やメンタルの変調といった既存の症状も考慮に入れ、全身の気血の巡りや五臓のバランスを整える治療を組み合わせることで、局所の痛みの改善だけでなく、体全体の調子を底上げし、根本的な治癒力を引き出すことができました。
もしあなたが、今回の患者さまと同じように、首や肩のつらい痛みに悩まされているなら、あるいは病院に行っても原因が分からず、どうすれば良いか途方に暮れているなら、ぜひ一度鍼灸を試してみてはいかがでしょうか。
お待ちしております。
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