30年以上ある腰痛への鍼灸症例|船橋市在住60代男性

30年以上ある腰痛への鍼灸症例

慢性腰痛の鍼灸症例・写真1

今回は、30年以上続く腰痛にお悩みだった60代男性の症例をもとに、当院の鍼灸治療がどのように慢性的な痛みと向き合うのかをご紹介します

患者さまについて

年齢性別:
60代男性・船橋市在住

鍼灸院に来るまでの経緯:
30年以上の長きにわたり腰痛に悩まされてこられました。
整形外科では「椎間板が薄くなっている」と診断されており、これは加齢や長年の負担による構造的な変化を示しています。

患者さまの腰痛は、常に腰からお尻にかけての慢性的な張り感や締め付け感があり、時にはズキッとする激しい痛みに襲われることもあるとのことでした。

症状がひどくなると、痛みは腰だけでなく、背中の上の方や太ももの裏側まで広がることもあるとのことです。

過去には、50代の頃にジョギングをされていた時期があり、その際は腰痛が比較的落ち着いていたそうです。
しかし、1年ほど前にジョギングをやめてから、徐々に腰痛が悪化してきたと感じていらっしゃいました。
これは、適度な運動による血行促進や筋力維持が、腰痛の緩和に繋がっていた可能性を示唆しています。

仕事などに集中している時は腰痛を忘れることもあるそうで、痛みが精神的な状態にも影響される一面もうかがえました。
一日のうちでは、夕方から夜にかけて症状が強くなる傾向があり、これは日中の活動による疲労の蓄積が関係していると考えられます。

現在も、整形外科でのリハビリに週3回通われるなど、様々な治療やケアを継続されています。

これまでにも多くの治療法を試されてきたそうですが、「治ることは無かった」とのこと。

当院の鍼灸治療を「試してみたい」というお気持ちでご来院くださいました。

腰痛以外の症状:
・不眠
10年以上前から不眠に悩まされており、心療内科から睡眠導入剤を処方されています。

・白内障、慢性鼻炎、前立腺肥大、膝痛など、複数の慢性的な不調をお持ちでした。

これらの症状は一見、腰痛とは直接関係ないように思えるかもしれません。
しかし、東洋医学では、これらの症状も身体全体のバランスの乱れとして捉え、腰痛と関連付けて考えていきます。

東洋医学的考察

東洋医学では、人間の身体は「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」という3つの要素がバランスを取りながら循環することで健康が保たれていると考えます。
病気や不調は、これらの要素の量や流れの異常、あるいはバランスの崩れによって引き起こされると捉えます。

この患者さまの場合は以下のように判断いたしました。

■腎虚(じんきょ)
30年以上の慢性的な腰痛、そして膝痛や前立腺肥大といった泌尿生殖器系の症状を併せ持っている点から、東洋医学における「腎(じん)」の機能低下、すなわち「腎虚(じんきょ)」が深く関わっていると判断しました。

「腎」は生命エネルギーや成長・発育、生殖、水分代謝、骨や足腰の健康などを司る臓器(概念)であり、その機能が衰えると、腰や膝の無力感、痛み、泌尿器系のトラブル、さらには老化現象全般に関わると考えられています。
長年の腰痛は、「腎」のエネルギー不足が腰部に影響を及ぼしている結果と言えます。

■瘀血(おけつ)
長年続く痛みが慢性的な張り感や締め付け感として現れ、時に刺すような激痛(ズキッとする痛み)を伴う点、そして痛みの場所が比較的固定している点から、「血(けつ)」の巡りが滞っている状態、すなわち「瘀血(おけつ)」が存在すると考えました。

「瘀血」は、血行不良によって痛みやしこり、腫れなどを引き起こす原因となります。
慢性的な痛みや、過去の怪我、冷えなどが関係して生じやすいとされます。

■肝うつ気滞(かんうつきたい)
10年以上続く不眠、白内障(目に現れる症状)、慢性鼻炎、そして仕事に集中すると痛みを忘れるという精神的な側面も踏まえると、「気(き)」の巡りの悪さや、「肝(かん)」の変調も見逃せません。

「肝」は気の巡りをスムーズにしたり、血を貯蔵・調整したり、精神状態を安定させたりする働きがあります。
ストレスや過労によって「肝」の機能が乱れると、気の流れが滞り(気滞)、イライラや落ち込み、不眠、身体各部の痛みや凝り(特に移動性の痛み)、さらには目や鼻といった関連する臓器(五官)にも影響が出やすいと考えられています。

患者さまの場合、多忙な仕事や長年の不眠、慢性的な疲労などが複合的に影響し、「肝」のバランスが崩れ、気の滞りが生じていると考えられます。

治療方針

上記の東洋医学的な考察に基づき、この患者さまに対する治療方針を立てました。

具体的には、以下の3つの柱を中心に治療を行います。

■腎を補い、足腰の強化を図る:
30年以上の腰痛と加齢による変化の根本にある「腎虚」を改善するため、腎の働きを助け、生命エネルギーを補うツボを使用します。
これにより、腰や足の衰えを緩和し、身体の内側から立て直す力を高めます。

■瘀血を解消し、痛みの緩和を目指す:
慢性的な張り感や激痛の原因である「瘀血」を取り除くため、血行を促進し、滞りを流すツボや手技を用います。
局所の痛みに直接アプローチするだけでなく、全身の血の巡りを改善することで、痛みの軽減を図ります。

■気を巡らせ、全身のバランス調整:
不眠やその他の慢性症状、仕事によるストレスなどに関わる「肝の変調」と「気の滞り」を改善するため、気の流れをスムーズにするツボを使用します。
全身の気のバランスが整うことで、自律神経の安定や精神的なリラックス効果も得られ、不眠の改善や、痛みを和らげる効果も期待できます。

治療経過

患者さまは「試しに」というお気持ちでご来院されました。
長年の腰痛に多くの治療を試されてきた経緯を考えると、当院の鍼灸に対しても期待半分・どうだろうかというお気持ち半分だったかと推察いたします。

1回目:
うつ伏せで、まず背中にある心兪(しんゆ)、肝兪(かんゆ)といった、内臓の働きや精神状態にも関わる重要なツボに置鍼(鍼を刺したまま置いておくこと)を行いました。
腰からお尻にかけての痛む箇所に対して、パルス鍼(電気鍼)を行い、点灸(てんきゅう:小さなお灸をツボに直接すえる方法)を追加しました。

パルス鍼は局所の血行促進と鎮痛に効果が期待でき、点灸は温熱効果とツボへの刺激で痛みを和らげ、瘀血の改善を促します。

仰向けになり、手足にある重要なツボである合谷(ごうこく)、太衝(たいしょう)、太谿(たいけい)、足三里(あしさんり)に置鍼を行いました。
これらのツボは、全身の気の流れや血行を調整し、特に「腎虚」や「肝の変調」、「瘀血」といった根本原因に働きかける目的で選択しました。

お腹にあるエネルギーの源泉とも言われる関元(かんげん)に、温かい棒温灸(ぼうおんきゅう:棒状のお灸でツボを温める方法)を当てました。
関元への温灸は、「腎」の陽気を補い、身体を芯から温めて活力を高める効果が期待できます。

2回目治療(3週後):
1回目の治療から約3週間後に、患者さまは再びご来院くださいました。
ご本人から「1回だけ試すつもりだったが、もう少し効果があるか見てみたくて、もう1回きてみた」というお言葉をいただきました。

1回目の施術内容を基本に、その日の患者さまの身体の状態に合わせて微調整を加えながら行いました。

2回目の治療後、患者さまは鍼灸治療を一旦お休みして、様子を見られることになりました。

鍼灸の効果をさらに高め、慢性疾患の改善を目指すためには、継続的な治療が有効であることが多いのも事実です。
しかし、患者さまには通院の手間や治療費、そして現在通われている整形外科でのリハビリとの兼ね合いなど、様々なご事情があります。

当院では、患者さまの状況やご希望を最優先に考えています。
週3回整形外科に通われている状況を踏まえると、基本的にはそちらで全身の状態を整えることをメインとし、鍼灸治療は時々「試し」たり、現在の治療に「プラスアルファ」したりするために利用されているのだろうと理解しています。

治療院の使い方は、最終的に患者さまご自身が決めることです。

患者さまがご自身の体の状態と向き合い、より良いケア方法を見つけいただければ幸いです。
鍼灸師としては、鍼灸がその一助となれることを願っています。

使用した主なツボとその代表的な効果

今回の症例で、患者さまの状態に合わせて使用した主なツボと、東洋医学におけるその代表的な効果をご紹介します。

心兪(しんゆ)・肝兪(かんゆ):
背中にあり、それぞれ心と肝の機能に関わるツボです。
精神的な安定、自律神経の調整、血液の循環改善(肝兪)、ストレス緩和などに用いられ、全身のバランスを整える上で非常に重要なツボです。
患者さまの不眠や気の滞り、精神的な側面にもアプローチしました。

合谷(ごうこく):
手の甲にある万能のツボとも呼ばれ、気の流れをスムーズにし、特に上半身の痛みや熱、精神的な緊張を和らげる効果があります。
鎮痛作用に優れ、頭痛や肩こり、歯痛などにも広く使われますが、全身の気の巡りを整えるためにも重要です。

太衝(たいしょう):
足の甲にあるツボで、肝の経絡上の重要なツボです。
気の滞りを解消し、特にストレスやイライラによる身体の不調、生理痛、頭痛、めまいなどに効果的です。
合谷と組み合わせて使用されることも多く、全身の気の巡りを強力に調整します。患者さまの肝の変調や気の滞りに対応しました。

太谿(たいけい):
足の内くるぶしの後ろにあるツボで、腎の経絡上の重要なツボです。
「腎」の機能を高め、生命エネルギーを補う効果があります。
腰や膝の痛み、耳鳴り、めまい、頻尿など、腎虚に関わる症状全般に用いられます。
長年の腰痛の根本である腎虚を補うために使用しました。

足三里(あしさんり):
膝の下にあるツボで、胃腸の働きを助け、消化吸収を高めることで全身のエネルギー(気血)を生み出す力を高めます。
また、足腰に力を与え、全身の疲労回復や免疫力向上にも効果があり、「長寿のツボ」とも呼ばれます。
全身の活力を高めるために使用しました。

関元(かんげん):
お腹の下にあるツボで、生命のエネルギーが宿る場所とも言われます。
「腎」の陽気を補い、身体を温め、生殖器系や泌尿器系の機能を整える効果があります。
特に冷えや慢性的な疲労、気力不足に用いられます。患者さまの腎虚を補い、身体を内側から温めるために温灸を併用しました。

腰から臀部の痛む場所:
東洋医学では阿是穴(あぜけつ)とも呼ばれ、痛む場所そのものが治療点となります。
パルス鍼や点灸を用いて、局所の「瘀血」を解消し、痛みを緩和する目的で使用しました。

これらのツボを患者さまの状態や反応を見ながら使い分けました。

まとめ

今回は、30年以上にわたる慢性腰痛にお悩みの患者さまの症例を通して、当院の鍼灸治療のアプローチをご紹介しました

今回の患者さまは「試しに」というお気持ちでご来院され、2回の治療で鍼灸治療を一旦終了されました。
当院の鍼灸でたしかな改善を実感して頂けるほどには施術の機会がありませんでした。
そこが残念な思いです。

長年のお悩みを抱え、「何とかしたい」というお気持ちをお持ちの方は、ぜひ一度当院にご相談ください。
鍼灸治療という選択肢を考えてみませんか?

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