肥満の鍼治療

そもそも私たちが生きていくためには「エネルギー」が必要です。
体の中では「脂肪」はたいへん優秀なエネルギー源です。
歴史的な背景から、人間のカラダは飢餓状態に備えて、脂肪をたくわえておく仕組みを備えるようになりました。
肥満とは、その体脂肪が過剰に蓄積された状態です。

ではどうして体脂肪が過剰に蓄積されてしまうのでしょう。
一般的に、毎日の食事からとったエネルギーが、その日一日の活動（呼吸をしたり、胃腸を動かしたり、仕事をしたり）するエネルギーとして使われます。
その摂取エネルギーと、消費エネルギーの収支が合っていれば、太ることもやせることもありません。
しかし、使いきれなかったエネルギーがあると、飢餓に備えて体脂肪としてためこむことになります。
その収支バランスが過剰に「蓄積」の方に傾いている状態が肥満です。

ただし、このエネルギーの収支は人によって異なります。
「太りにくい体質」や「太りやすい体質」などと言わることがありますが、「脂肪をどのくらいまでためられるか（限度）」には個人差があるようです。
太りにくい人とは、ある一定量以上の脂肪をためたくてもためられない人ということです。
このような人は「体質的に太りにくい」と言えるでしょう。
基礎代謝が低い人（＝消費エネルギーが少ない人）は、同じ量を食べても太りやすくなるかもしれません。
このように体質が関係していることからも、肥満の一因には「遺伝の影響」があります。

その他、病気や薬の影響で肥満になるというケースもあります。

肥満を「病気」とみたとき、それに鍼灸がお役に立てることを教えてくれる研究がありますので、ご紹介します。

『肥満の鍼治療』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6022277/

【概要】
鍼治療は、肥満のコントロールに効率的な方法であることを調査した。

「鍼治療群」と「ニセ鍼治療群」「無治療群」「食事および運動群」「従来の薬剤による治療群」で比較した。
指標は、BMI・体重減少・心血管疾患（CVD）の発生率・ウエスト/ヒップ比（WHR）・体脂肪率・総コレステロールなどである。

主な結果。
1389人の参加者を含む21の研究を調査した。
なお鍼治療に関しては、様々な鍼治療スタイルでの研究を集めた。
古典的な鍼治療・電気鍼（EA）・レーザー鍼・腸管埋め込み・耳介鍼などである。
鍼治療と薬、灸、メッセージなど、他の治療法と組み合わせた研究は除外した。

「鍼治療群」は「ニセ鍼治療群」と比較して、BMI・体重・体脂肪率での優位な改善が見出された。
「治療群無し群」と比較した場合は、BMI・ウエスト/ヒップ比（WHR）・総コレステロールなどで優位に改善が認められた。
「食事と運動群」と比較した場合は、BMIおよび体重の有意な改善が見出された。
副作用は5件の研究で報告された。

結論。
鍼治療は、肥満に苦しむ人々のための合理的かつ効果的な治療法である。
鍼治療により、神経やホルモン（内分泌）が調節されることで効果を出しているだろうと結論付けた。
しかし、軽度の肥満に対する鍼治療の有効性は薄いことを指摘する文献もあった。

当院の考察

肥満の治療に鍼が有効、という結論でした。
そのメカニズムとして、鍼治療による神経－内分泌の調節と考えられました。

肥満には中枢神経系や自律神経系を含む非常に複雑なプロセスが関わっていることが予想されます。
そして、鍼灸は自律神経やホルモンの調節を得意とした治療法であることから、肥満にも有効と考えられる訳です。

たとえば、脳の視床下部（弓状核（ARH））は、食欲中枢です。
ラットの実験で、電気鍼治療がこの部位に働きかけ、食事量を有意に減少させ体重を減少させるという研究があります。
また満腹中枢を活性化することも肥満に有効な方法のひとつです。
これまた動物実験ですが、鍼治療が視床下部（腹側内側核（VMH））に働きかけ、この部位をより活発にできるを示している研究があります。
実際に人間への鍼治療でも減量効果があることから、ある程度同じようなメカニズムが想像されます。

ただしこれらの研究では、8週間（2ヶ月）程度の治療期間を設けて調べることが少なくないように、ある程度の継続治療が必要です。

また通常の病気の治療でもそうですが、鍼灸「だけ」していればどんどん良くなるわけではありません。
「鍼灸院での施術」と「日常生活」の両輪で改善していきます。
ですので、肥満治療においても、日常生活改善はどうしても必須になります。
両方の作用が相まって、より健康的に効果的に痩せていくのだろうと考えます。

ダイエットをいろいろ試す際には、鍼灸もチームの一員に入れていただけるとお役に立てるかと存じます。
よければお試しください。