得気(響き感)は本当に必要なの?

鍼の得気(響き感)は本当に必要なの?

鍼の響き(得気)

身体に鍼を刺した時に、痛みとは違った感覚を感じます。
このような感覚を「得気(とっき)」と呼びます。

通常「得気」と言えば、これは主に患者さん側が感じる感覚です。
ツボに鍼を刺された時に感じる感覚で、中国では「酸・腫・重・麻(重い・だるい・電気が走るなどの感覚)」と表現され、日本では「鍼の響き」とも言われます。
これらの刺激感は、中国より日本では特に「快感」であり、不快感ではないとされています。

また施術者側が感じる感覚を「得気」とする場合もあります。
・押し手に水が流れるような感覚
・押し手に脈を打つような感覚
・鍼先に硬い抵抗感・軟らかい餅に刺しているような粘っこい抵抗感・豆腐にでも刺しているような無感覚・あるいはゴムのような弾力のある硬さの抵抗感
・自然に鍼先が吸い込まれるような感覚
…などがあり、これは患者さんが同様に感じるか否かは問いません。
患者さんは無感覚の場合が多いです。
これらも、得気や響きと称します。

このように「得気の定義」すら定かではないのですが「得気は重要である」と教えられ、実際に臨床でもそれは有効の目安となる印象があります。

今回は、(患者さんが感じる方の)「得気」が臨床上どこまで効果と関連しているか、を調べた研究をご紹介します。

『得気感覚は(痛みの)治療結果に影響を及ぼすか?』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20964256

【概要】
鍼をツボに刺すと「得気」という典型的な感覚が生じる。
痛みのある患者を治療する際に、ほとんどの鍼灸師は得気を感じるように刺すことが重要であると教えられている。
しかしその得気感は、患者にとっては不快なことがある。
本研究では、得気が変形性関節症の痛みにおいて重要なのかを調べた。
股関節および膝の関節変形の患者の治療に際し、痛みの軽減が得気の強さに相関しているかどうかが比較された。
患者は4週間・週2回治療された。
治療期間終了後に痛みの変化を患者にアンケートして測定した。
結果として、得気の強さと疼痛改善との間に有意な関係性はなかった。
また、気を感じていた人と、そうでない人の間でも、痛みの軽減に有意差はなかった。
結論。
これらのデータは、得気の存在および強度が、変形性関節症患者の疼痛緩和に影響を与えないことを示唆している。

当院の考察

鍼灸は多様

患者さんが感じる得気感と鎮痛効果には関連性がない、という結果でした。
中国鍼灸では重要視している得気感ですが、日本鍼灸ではさほど絶対条件視されていないことの両方がこれで正しいことが分かります。
得気はあっても良いがなくても良い、ってことです。
多様な施術方法が併存できる証しになる研究結果です。

得気の有無は、おそらく施術のシステム全体と連動していることなので、得気だけを切り取ってもあまり意味のない事かとは思います。
得気をひとつのセンサーにして全体の刺激量を調整するシステムを持っているのであれば、「治すためにベストな施術をするには得気が大事」となるでしょう。
ここで得気は不要と省いてしまうと、システム全体のバランスが狂ってしまいます。

施術者の感覚を頼りに刺激量をコントロールするシステムを持っている場合は、「患者さんの得気は不要」で良いでしょう。

施術家ごとに「よかれ」な施術体系を作っていくしかないわけです。
そしてそれが正解なのです。
※もちろん常に修正・改善していくことは重要でしょう。一生勉強です、はい。

当院では患者さんの感じる得気(響き)感を活用しています。
ツボの効果発現をはかる指標としています。
ただし、絶対視してはいません。
刺激に過敏な人や響きを嫌がる人には無感覚で終えます。
この場合は施術者側で「刺激量」を調整します。
また円皮鍼のような継続的に使う道具は「極力刺激の弱いもの」を意識します。

「鍼灸は多様で良い」という結論なので、いろいろな鍼灸施術の仕方を学ぶことが自分の引き出しを増やすうえで大事になると考えます。
流派に属している人は、流派をこえて取り入れるのが嫌なら、同じ流派内の色々な先生のやり方の多様性を学ぶとよいと思います。

くれぐれも混乱しないように迷わないように(笑)
自分を高めていきたいものです。
頑張りましょう(^^)/