生理の不快な症状(月経随伴症状)への鍼灸の研究
生理時の不快症状への鍼灸
毎月訪れる生理は、体調や気分にさまざまな変化をもたらす時期です。
生理痛はもちろんのこと、腰痛、頭痛、気分の落ち込み、イライラなど、人によって現れる症状は多岐にわたり、日常生活に支障をきたしてしまう方も少なくありません。
これらの症状は「月経随伴症状」と呼ばれ、ホルモンバランスや血流、自律神経の働きと深く関係しています。
とくに婦人科系の疾患がある方は、こうした症状がより強く出やすい傾向があります。
「生理痛は仕方がないもの」「市販薬でなんとかやり過ごすしかない」と諦めている方も多いかもしれません。
しかし、鍼灸治療によってこうした症状を軽減し、毎月快適に過ごせるようになる可能性があります。
今回は、生理に伴う不快な症状に対する鍼灸の効果について、研究データも交えながら詳しく解説いたします。
この記事を読むことで、あなたが抱える生理の悩みが軽くなるヒントが見つかるかもしれません。
ぜひ最後までお読みください。
研究の内容と解説
生理前から生理中に現れるさまざまな不快な症状は、「月経随伴症状」と呼ばれています。
具体的には、下腹部痛や腰痛といった代表的な症状のほか、乳房の張り、眠気、気分の不安定さ(イライラや憂うつ)、倦怠感、肌荒れ、便秘や下痢など、実に多様な症状が現れることがあります。
とくに、子宮内膜症や子宮筋腫などの婦人科疾患をお持ちの方は、これらの症状がより強く出やすい傾向があると言われています。
では、このような生理にまつわる不快な症状に対して、鍼灸は本当に効果があるのでしょうか?
その疑問に答えるべく、過去に行われた研究の中から、信頼性の高いものを一つご紹介いたします。
『月経随伴症状に対する鍼灸治療の効果』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsam/63/4/63_252/_article/-char/ja
出典: 全日本鍼灸学会雑誌 第63巻 第4号 p.252-259
■月経に伴う何らかの症状を抱えた、初診の203名の女性に鍼灸治療を施します。
■鍼灸の施術方法
・中医弁証論治(体質に応じた治療)と局所的なアプローチを組み合わせて行った。
・共通のツボは、次髎(BL32)、会陽(BL35)、腰兪(GV2)、関元(CV4)、三陰交(SP6)を使用。
・40ミリ・16号のステンレス鍼を次髎に20㎜、三陰交に10㎜刺入し、10分間置鍼し、その他のツボには9分灸を3壮実施。
・施術頻度: 約2週間に1回(1月経周期で平均2.2回)
■研究結果
1ヶ月間の施術では、「婦人科疾患のない患者」の方が「婦人科疾患のある患者」よりも不快な症状の改善が早かった。
「婦人科疾患のある患者」に、3ヶ月間の継続治療を行ったところ、症状の有意な改善が確認された。
■研究の結論
この研究結果から、鍼灸治療は、短期的に見ると婦人科疾患のない方の月経随伴症状に対して特に効果的であり、婦人科疾患のある方でも継続的な治療によって症状の改善が期待できることが示唆されました。
東洋医学的な考察
東洋医学では、生理に伴う不快な症状は、単にホルモンバランスの乱れだけでなく、もっと深い部分に原因があると考えます。
東洋医学において、月経は「天癸(てんき)」という生命エネルギーの成熟と、全身を巡る「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」の円滑な流れによって起こると考えられています。
とくに、「血(けつ)」は女性の生理を語る上で非常に重要な要素であり、その不足や滞りが様々な婦人科系のトラブルを引き起こすとされています。
月経随伴症状は、これらの「気」「血」「水」のバランスが崩れたり、流れが滞ったりすることで起こると考えられます。
月経随伴症状の東洋医学的原因
以下のようなタイプに分けられます。
■気滞血瘀(きたいけつお)
ストレスや精神的な緊張などにより「気」の流れが滞り、その影響で「血」の流れも悪くなる状態です。
これにより、生理痛やPMS(月経前症候群)のイライラ、腹部の張りなどが現れやすくなります。
■血虚(けっきょ)
「血」が不足している状態です。
出産や過多月経、栄養不足などが原因となることがあります。
これにより、生理痛の他に、めまい、動悸、倦怠感、肌荒れなどが起こりやすくなります。
■寒湿凝滞(かんしつぎょうたい)
冷えや湿気が体内に侵入し、子宮周辺の「気血」の流れを滞らせる状態です。
冷えによる生理痛や、重だるい感じなどが現れやすくなります。
■肝鬱気滞(かんうつきたい)
ストレスや感情の抑圧などにより、肝の機能が失調し、「気」の流れが滞る状態です。
PMSの精神的な症状(イライラ、憂うつ)や、乳房の張りなどが現れやすくなります。
鍼灸が月経随伴症状に効果的な理由
鍼灸治療は、これらの「気」「血」「水」の乱れを整え、流れをスムーズにすることで、月経随伴症状の改善を目指します。
■気血の巡りを改善
鍼やお灸の刺激は、滞った「気血」の流れを促進し、全身のバランスを整えます。
■自律神経の調整
鍼灸は、自律神経の働きを調整する効果があることが知られています。
ホルモンバランスの変動に大きく関わる自律神経を整えることで、PMSなどの精神的な症状の緩和が期待できます。
■痛みの緩和
鍼刺激は、痛みを伝える神経経路をブロックしたり、痛みを抑制する物質の分泌を促したりすることで、生理痛などの痛みを和らげます。
■冷えの改善
お灸は、体を温めることで血行を促進し、冷えによる症状を改善します。
当院としての考察
今回の研究結果は、私たちが日々の臨床で実感している鍼灸の効果を裏付けるものであり、大変心強く感じています。
当院では、患者さん一人ひとりの状態を丁寧に把握するために、時間をかけた問診を重視しています。
脈、舌、お腹の状態などを詳しく診る東洋医学的な検査を行い、その方の体質や症状の原因を特定します。
その上で、全身のツボ(経穴)を使い、鍼とお灸を組み合わせて全身からアプローチする施術を行います。
今回の研究でも示されているように、体質に合わせたツボの選択(本治法)と、月経症状に効果的なツボの選択(標治法)を組み合わせることは、症状改善のために非常に重要だと考えています。
当院で使用する鍼は、髪の毛ほどの細さで、ほとんど痛みを感じることはありません。
お灸も、じんわりと心地よい温かさで、リラックス効果も期待できます。
今回の研究結果で特に注目すべき点は、以下の2点です。
■婦人科疾患のない方への短期的な効果
月経随伴症状に対して、比較的短期間で鍼灸の効果を実感しやすいということです。
これは、ホルモンバランスの乱れや一時的な血行不良などが原因となっている場合に、鍼灸が速やかに対応できるためと考えられます。
■婦人科疾患のある方への継続治療の重要性
子宮内膜症や子宮筋腫などの婦人科疾患をお持ちの方の場合、症状の改善にはある程度の時間が必要であるということです。
これは、疾患そのものの改善には時間がかかるため、それに伴う月経随伴症状の緩和にも継続的な治療が必要となることを示唆しています。
この結果を踏まえ、当院では、婦人科疾患をお持ちの方には、治療の初期段階で「症状の改善には時間がかかる場合もありますが、諦めずに一緒に取り組んでいきましょう」ということを丁寧にお伝えするように心がけています。
「毎月の生理が憂鬱…」「市販薬に頼るしかない」と思っている方こそ、一度鍼灸を試してみてください。
当院では、患者様一人ひとりの症状や体質に合わせた施術を行い、快適な毎日をサポートします。
つらい症状でお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。