代替療法と疑似科学と鍼灸
代替療法と疑似科学と鍼灸
代替療法と疑似科学(ニセ科学)と鍼灸は、それぞれ重なり合いながら出てきます。
私が「鍼灸はニセじゃない!」「鍼灸は正統派!」と言っても、しょせん鍼灸師の言葉です。
身内びいきじゃないの?ということです。
・・・というわけで、少し掘り下げてみました。
そんな話です。
代替療法とは
代替療法とは「西洋医学的なスタンダードな治療法ではない療法」のことを言う、わりと大きなくくりの言葉です。
たとえば、癌の治療であれば「手術・放射線・抗がん剤」ではない治療法です。
具体例でよく聞くのは、ハーブ・ビタミン・ミネラルなどサプリメント、鍼灸、マッサージ、瞑想、運動療法、心理療法などです。
鍼灸はたしかに代替医療のひとつです。
また西洋医学と代替療法を組み合わせて行うスタイルを「統合医療」と呼んだりします。
現状の主流の医学が西洋医学だからと言って、それ以外の療法を無用と切り捨てるのはもったいない、と考えます。
逆に、代替療法だけを信奉して西洋医学的恩恵を拒絶するのも違うかな、と考えます。
私自身は、西洋医学と代替療法をうまく活用する統合医療の考え方に共感します。
疑似科学(ニセ科学)とは
代替療法は「疑似科学(ニセ科学)に基づく療法」などと言われたりします。
疑似科学(ニセ科学)という言葉には正確な定義はありませんが、「科学性をうたっているが実際には非科学的であるもの」を言ったり、「だますために科学を装っているもの」を指したりします。
さらに言うと、その療法への無理解や多少の感情論も入っている気もします。
たしかに代替療法に入っている多様な療法は、正直言って玉石混交です。
キチンとした療法もあれば、怪しい療法もあるのは事実です。
アメリカで補完的健康アプローチ(補完医療・代替医療)の研究を行う政府機関である「アメリカ国立補完統合衛生センター(NCCIH)」では、以下のような注意書きをしています。
【補完療法の提供者や製造会社は治療についてどのように説明しているでしょうか?】
・「科学的なブレイクスルー」、「奇跡的な治癒」、「秘密の成分」、「古代の治療法」などの文句を今一度考えてみましょう。
・過去の研究からかけ離れた「即効性のある療法」という宣伝文句を見つけたら、科学は時間をかけて少しずつ進歩するものであり、根拠の基盤がゆっくりと築かれてゆくものであることを、常に思い出してください。
・留意すること:あまりにも話がうま過ぎる宣伝文句、例えば「ある治療で病気を完治できる」、「あらゆる病気に効く」などというのは、実際にはありえません。
代替医療としての鍼治療
代替医療のひとつとして鍼灸がどのような評価を受けているか、いくつかの機関が公表しているものからご紹介します。
アメリカ国立補完統合衛生センター(NCCIH)
アメリカ国立補完統合衛生センター(NCCIH)では鍼治療について以下のように言っています。
http://www.ejim.ncgg.go.jp/public/overseas/c02/01.html
鍼治療の有効性について多くの研究結果から、慢性的な痛みに効果があることが分かっています。
腰痛・くび肩の痛み・変形性の関節症・膝痛などです。
また、頭痛(緊張型頭痛・片頭痛)の改善・予防に役立ちます。
ただし鍼灸施術そのものとは無関係なプラセボ効果(期待や信念など)が重要な役割を果たす可能性があるとも考えられています。
鍼治療による合併症はほとんどありません。
適ただし切な施術がなされない場合には、感染症、臓器穿刺、肺の虚脱、中枢神経系損傷などの重大な副作用を引き起こす可能性があります。
『ガンの補完代替医療ガイドブック』
『ガンの補完代替医療ガイドブック』は「がんの代替療法の科学的検証と臨床応用に関する研究」班が作った冊子です。
医療機関で 「がん」 の治療を受けながら民間療法をはじめとする補完代替医療とどのように向き合い、利用したらよいのかを考えるためのガイドラインです。
http://www.shikoku-cc.go.jp/hospital/guide/useful/newest/cam/dl/pdf/cam_guide(3rd)20120220_forWeb.pdf
・鍼灸治療について、数多くの臨床試験が行われた結果、抗がん剤治療の副作用(吐き気・しびれなど)を和らげる効果があると報告されています。
・また、痛みなどの症状を改善し、がん患者さんの生活の質(QOL)の向上が認められたとの報告もあります。
・鍼灸治療の注意点としては、鍼治療では、まれに出血あるいは内出血することがありますが、健康な人であれば問題となることはほとんどありません。
しかし、抗がん剤治療をして出血を止める細胞の血小板が少なくなっている場合や、がんが進行して出血しやすい状態の場合には、鍼治療を行う際に注意が必要です、と書かれています。
明治大学科学コミュニケーション研究所
明治大学科学コミュニケーション研究所の「疑似科学とされるものの科学性評定サイト」は、社会一般的に“疑似科学”と疑われるものについて、それらの“科学性”を推し測る試みを行い公表しているサイトです。
http://www.sciencecomlabo.jp/alternative_medicine/acupuncture.html
【鍼灸について】
まず総評で「鍼灸治療を疑似科学とする根拠はなく、また社会的な実用性という観点からも科学として評価されるべき」としています。
個別にみると以下の通りです。
・ツボとか経絡とかで成り立つ理屈は科学的に検証されていないので論理性は高いとは言えないが、神経科学的な基礎研究も進んでいることから論理性は中程度あると言える。
・鍼灸は施術者個々人のウデで効果が左右されるので普遍性を評価するのは難しいが、有効性があることからも普遍性は中程度ある。
・個人個人では効果に開きがあるものの、鍼灸を全体的に見ると有効性や再現性は十分あるので、再現性は高いと言える。
・研究データの客観性も高いものである。
・鍼灸を扱っている団体は全日本鍼灸学会や鍼灸師会などであり、海外の機関も参加していることから、公共性も高い。
・日本では一定水準の知識と技能があることが担保された国家資格であり、一部の疾患が保険適応でもあることからも、社会への応用性は高い。
まとめ
代替療法の正しい使い方は一概には言えません。
それは代替療法という大きな枠の中には、正当な療法と怪しい療法が混じっているからです。
「では鍼灸はどうか?」と言えば、これはもうれっきとした「正統派の医療」です。
(私が鍼灸師だからこそ、ここは強く言いたい!(笑))
代替療法の使い方の話に戻ると、まずは情報を集めることが大事だと思います。
もちろん、現在の科学で分かっていることだけがすべてではありません。
未知の領域もあります。
それを踏まえて情報を集めた結果、信じるに値する療法だと思ったら以下のようなことを参考にしてみてはいかがでしょうか。
・費用が過剰ではないか?
西洋医学で難しい症状は、やはり代替療法でも簡単ではないと思った方が無難です。
慢性の症状が短期間で劇手に変化する、ような魔法のごとき療法はありません。
何を選んでもやはり一定の継続が大事になるはずです。
その際に経済的に継続できるものが良い療法だと思います。
・始めてしまうと取り返しのつかないものではないか?
たとえば手術して切ってしまえば元には戻りません。
でもビタミン剤を飲んでみて「効かないな」と思ったら止めればいいだけの話です。
このように、始めてみて違うなと思った時に元に戻れるような療法が良いと思います。
・いろいろな選択肢を持つ
何か療法をひとつに絞って信じぬく、という考えもアリでしょう。
ただし、西洋医学も使い、東洋医学も使い、西洋の民間療法も使い、東洋の民間療法も使う、といったように複合技でいくのもアリです。
あれもこれもと手に負えなくなってしまったり、逆にストレスになってしまったりするのはダメですが、総合的に治していく方が体には優しいかな、とは思います。
以上参考にしてみてください。