ドイツの2025年子宮内膜症ガイドライン、鍼治療を推奨
ドイツの「子宮内膜症ガイドライン」で鍼治療を推奨
近年、西洋医学の分野でも、子宮内膜症に対する鍼灸治療の有効性が注目され始めています。
2025年6月16日、ドイツにおいて子宮内膜症の診断と治療に関する「S2kガイドライン」の最新版が発表されました。
※「S2Kガイドライン」は専門家の「コンセンサス(Konsensus)」に基づくガイドラインです。
2020年版を刷新するこのガイドラインは、その内容と方法論の両面で多くの重要な変更が加えられております。
この新ガイドラインは、患者中心のアプローチをより強く打ち出しており、その中で補完療法、特に鍼治療が初めてエビデンスに基づいた推奨として位置づけられたことは注目に値します。
今回はこの論文の内容の紹介と、子宮内膜症と鍼灸について書きます。
ドイツの新ガイドラインが示す「鍼治療」の有効性
今回の子宮内膜症ガイドラインでは、鍼治療が「エビデンスに基づいた推奨」として、初めて明確に位置づけられました。
補完療法、特に鍼治療が「資格のある専門家によって実施される限り、症状に応じて合理的な選択肢」として明確に推奨されました。
これまでの西洋医学のガイドラインでは、鍼治療のような補完療法が明確に推奨されることは稀でした。
しかし、今回のドイツのガイドラインは、最新かつ厳密な文献分析に基づき、鍼治療が子宮内膜症の疼痛管理やその他の症状緩和において、その有用性が認められたことを示しています。
これは、子宮内膜症に悩む多くの女性にとって、希望の光となるでしょう。
なぜ、今「鍼灸」が子宮内膜症に選ばれるのか?
子宮内膜症の症状は、月経痛だけでなく、慢性骨盤痛、排便痛、性交痛、そして不妊など多岐にわたります。
これらは、体の冷えや血行不良、自律神経の乱れ、そしてストレスなど、東洋医学でいう「気・血・水」のバランスの乱れと深く関連していると考えられます。
当院では、この東洋医学の考えに基づき、脈、舌、お腹の状態などを丁寧に診察し、患者様お一人おひとりの体質を詳細に判別します。
そして、全身のツボ(経穴)を使い、体全体にアプローチすることで、根本的な体質改善を目指します。
東洋医学的な鍼灸治療は、決して「部分」だけを診るのではなく、「全身」のバランスを整えることを重視しています。
これにより、単に症状を抑えるだけでなく、体が本来持つ治癒力を高め、つらい痛みの軽減、血流の改善、ホルモンバランスの調整、そしてストレスの緩和など、総合的な体調の底上げを図ります。
東洋医学からみた子宮内膜症
東洋医学において子宮内膜症の主要な病態として考えられるのは、以下の要素が複雑に絡み合っている状態です。
■瘀血(おけつ):血液の滞り
最も重要な病態です。
「瘀血」とは、血液が滞り、スムーズに流れなくなっている状態を指します。
子宮内膜症の特徴的な症状である激しい生理痛、経血の塊、子宮や卵巣の腫れ、不妊などは、まさにこの「瘀血」の典型的な症状と重なります。
瘀血の原因は、冷え、気の滞り、ストレス、体質、食生活など多岐にわたります。
■気滞(きたい):気の滞り
「気」は生命エネルギーであり、体内のあらゆる活動の原動力です。
この「気」の流れが滞ることを「気滞」と呼びます。
ストレスや精神的な緊張は「気」の流れを停滞させやすく、これが特に肝(肝臓の働きを指すが、情緒や自律神経の調整機能も含む)の機能に影響を与えます。
気の滞りは、胸の張り、イライラ、憂鬱感、ため息、ゲップなどと共に、全身の血行不良を引き起こし、結果として「瘀血」を生み出す原因となります。
子宮内膜症患者によく見られるPMS(月経前症候群)のような精神的な症状も、気滞と関連が深いとされます。
■冷え(ひえ):冷えによる滞り
「寒」は体を冷やす邪気であり、体内の水分や血液の循環を停滞させます。
下腹部の冷えは、子宮や卵巣への血流を悪化させ、生理痛を悪化させたり、子宮内膜症の進行を助長したりすると考えられます。
冷えは「瘀血」や「気滞」をさらに悪化させる要因となり、痛みを強固なものにします。
■痰湿(たんしつ):水分の滞り
体内の余分な水分や老廃物が滞った状態を指します。
腫れやむくみ、だるさ、消化不良などの症状を伴うことがあります。子宮筋腫や卵巣嚢腫など、子宮内膜症と併発しやすい病態に関連することもあります。
■肝鬱化火(かんうつかか):ストレスによる熱
気の滞りが長く続くと、それが熱に転化することがあります。
イライラ、怒りっぽい、顔のほてり、口の渇きといった症状が見られ、炎症性の病態を悪化させる可能性があります。
■腎虚(じんきょ):生命力の低下
「腎」は生命力、生殖能力、成長、老化を司る重要な臓器と考えられます。
腎の機能が低下すると、不妊、足腰のだるさ、冷え、疲労感、老化現象などが現れやすくなります。
子宮内膜症の患者で、特に不妊に悩む方や、更年期に近い方に見られることがあります。
東洋医学的治療のアプローチ
東洋医学では、子宮内膜症という「病名」を直接治療するのではなく、上記のような患者様個々の「体質・タイプ」を詳細に診断し、それに基づいて治療を行います。
たとえば、瘀血がれば、それを解消し、血液循環を促進することが最重要です。
痛みの軽減、経血の塊の改善、子宮や卵巣の機能を正常化します。
また、ストレスが強いようなタイプの人は、それを緩和し、自律神経のバランスを整え、「気」の流れを改善します。これにより、イライラや月経前の不調も和らぎ、瘀血の原因を取り除きます。
「気」「血」「水」など、体に必要な要素が不足している場合は、それを補い、体の土台を強くします。
これにより、病気への抵抗力を高め、体質を根本から改善します。
鍼灸治療では、これらの目的のために、全身のツボ(経穴)の中から患者様の状態に合ったものを選び、鍼やお灸を用いて刺激を与えます。
例えば、下腹部や足のツボは瘀血や冷えの改善に、背中や頭のツボは気の滞りやストレスの緩和に用いられることがあります。
まとめ
東洋医学では、症状だけでなく、患者様の生活習慣、精神状態、季節、環境なども含めて総合的に捉える「全人的医療」を重視します。
子宮内膜症の治療においても、患者様一人ひとりの体質と症状に合わせたオーダーメイドの治療を提供することで、根本的な改善を目指していきます。
子宮内膜症は、女性の生活に大きな影響を及ぼす疾患ですが、適切なアプローチで症状を和らげ、QOLを高めることは可能です。
ドイツの最新ガイドラインでその有効性が認められた鍼灸治療を、ぜひ一度ご検討ください。
長年の生理不順が改善し、妊娠できた方。ひどい痛みから解放され、仕事に集中できるようになった方。多くの方が鍼灸治療で希望を見出しています。
私たちと一緒に、心と体の健康を取り戻し、より快適な毎日を目指しましょう。
お気軽にご相談ください。
【関連記事】