1年で3回の繰り返す流産、習慣性流産の鍼灸症例

繰り返す流産への鍼灸治療

流産鍼灸

「赤ちゃんを抱きたい」
それは、多くの女性にとって自然な願いです。

しかし、妊娠をしても、その大切な命を繋ぎ止めることができず、流産を繰り返してしまうという、深い悲しみを抱えている方がいます。
当院には、そのような切実な想いを抱えた患者様が来院されます。

西洋医学では原因不明とされる場合でも、東洋医学には長年の経験と知恵に基づいたアプローチがあります。

今回は、習慣性流産でお悩みの患者さまが鍼灸治療を通して無事に妊娠を継続できた症例です

患者さまについて

年齢・性別:
20代の女性。

鍼灸院に来るまでの経緯:
2年3ヶ月前から妊活を開始され、1年ほどで待望の妊娠をされました。
しかし、残念ながら妊娠7週で流産。

その後、3ヶ月の期間を経て妊活を再開し、すぐに妊娠に至りましたが、またしても7週で流産という結果に。

さらに3ヶ月後、再び妊娠されましたが、今回は9週で流産という、計1年間で3回もの流産を経験されました。

深い悲しみと不安の中、ご自身で不育症の検査を受けようと病院を受診されました。
血液検査の結果は「(確認できる)問題なし」とのことでしたが、子宮鏡検査などを勧められ、一旦保留とされていました。

西洋医学的な検査で原因が特定できないことに落胆された一方で、何か他にできることはないかと模索される中で、体質改善を目的とした鍼灸治療を選択され、当院へ来院されました。

婦人科系以外には、慢性的な肩こり・腰痛、冷え、疲れなどの症状も見られました。

これらの症状は、体のバランスの乱れを示唆しており、東洋医学的なアプローチが有効であると考えられました。

東洋医学的考察

東洋医学では、流産は単に子宮だけの問題ではなく、全身のバランスの崩れによって引き起こされると考えます。
とくに、「脾(ひ)」「腎(じん)」「肝(かん)」という臓腑の機能低下が、妊娠の維持に大きく影響すると考えます。

【脾】:
飲食物を消化吸収し、気血(生命エネルギー)を生み出す臓腑です。
脾の機能が低下すると、体を支える力が弱まり、妊娠を維持する力が低下すると考えます。

【腎】:
成長、発育、生殖を司る臓腑です。
腎の機能が低下すると、生命力や生殖機能が低下し、流産の原因となると考えます。

【肝】:
気血の流れをスムーズにする働きを担う臓腑です。
肝の機能が低下すると、気血の流れが滞り、子宮への血流が悪化し、妊娠の維持に影響すると考えます。

この患者様の場合、西洋医学的な検査では異常が見られなかったものの、慢性的な肩こり・腰痛、冷え、疲れなどの症状から、「脾」「腎」「肝」の機能低下、とくに「脾虚(ひきょ)」の傾向が見られました。

「脾虚」とは、脾の機能が低下し、気血を生み出す力が弱まっている状態を指します。
また、気血の流れの滞り(瘀血:おけつ)も一部に見られ、虚実入り混じる状態でした。

治療方針

上記の東洋医学的考察に基づき、当院では以下の治療方針を立てました。

・「脾」「腎」「肝」の機能を高め、妊娠を維持する力を強化する。
・気血の流れを改善し、子宮への血流を促進する。
・慢性的な肩こり・腰痛、冷え、疲れなどの症状を改善し、全身のバランスを整える。

これらの治療方針に基づき、鍼とお灸を組み合わせた施術を行いました。

鍼灸治療は、体に点在するツボ(経穴)を刺激することで、気血の流れを調整し、臓腑の機能を活性化する効果があります。

治療経過

1回目:
仰向けで、「関元(かんげん)」「大巨(だいこ)」に棒温灸と置鍼を行い、点灸(てんきゅう)も追加しました。「合谷(ごうこく)」「足三里(あしさんり)」「三陰交(さんいんこう)」にも置鍼を行い、足先はホットパックで温めました。
うつ伏せで、肩こりと腰痛の部位には単刺(たんし)と円皮鍼(えんぴしん)を施し、「隔兪(かくゆ)~次髎(じりょう)の中の反応穴」には鍼と棒温灸を行いました。

2~11回目(週に1回ペース):
この期間中に、生理痛が軽くなったとの報告を受けました。
基本的には初回の施術に準じながら、その時々の体調に合わせて施術内容を調整しました。

12回目治療(初回から3ヶ月後):
妊娠検査薬で陽性反応が出たとの報告を受けました。
病院での確認も済んだとのことでしたが、「妊娠しても安心できない、ここからが本番」というお気持ちから、治療の継続を希望されました。
この時点から、施術の刺激量をソフトにし、脾・腎・肝に効果的なツボを重点的に使用するように変更しました。
とくに「三陰交」には丁寧に点灸を行いました。

13~23回目の治療では、つわりの症状や情緒不安定になる時期もありましたが、妊婦検診は順調に経過しました。
最後の施術で妊娠16週を迎え、患者様ご自身も安定期に入り、安心して治療を終了することとなりました。

使用した主なツボとその代表的な効果

関元(かんげん):
下腹部にあるツボで、腎の機能を高め、生殖機能を活性化する効果があります。

大巨(だいこ):
下腹部にあるツボで、脾と腎の機能を高め、生殖機能を高める効果があります。

合谷(ごうこく):
手の甲にあるツボで、全身の気血の流れを整え、痛みを緩和する効果があります。

足三里(あしさんり):
足にあるツボで、胃腸の機能を整え、全身の活力を高める効果があります。

三陰交(さんいんこう):
足の内側にあるツボで、脾・肝・腎の機能を調整し、婦人科系の症状に効果があります。

隔兪(かくゆ):
背中にあるツボで、血の流れを整え、瘀血を改善する効果があります。

次髎(じりょう):
骨盤部にあるツボで、腰痛や婦人科系の症状に効果があります。

これらのツボは、東洋医学の古典に基づいて選定されており、それぞれのツボが持つ効果を組み合せることで、患者様の症状に合わせた最適な治療を提供しています。

まとめ

流産の原因は多岐にわたり、西洋医学的な検査で原因が特定できない場合も少なくありません。
東洋医学では、体全体のバランスの崩れが流産を引き起こす要因の一つと考え、体質改善を目的とした鍼灸治療を行います。

今回の症例では、1年間で3回もの流産を経験された患者様に対し、東洋医学的な観点から体質を分析し、鍼灸治療を行いました。
治療開始から3ヶ月ほどで妊娠され、その後も安定した経過をたどることができました

当院では、患者様一人ひとりの体質や症状に合わせた丁寧なカウンセリングと施術を心掛けています。

流産を繰り返す不安、誰にも言えない辛さ、それでも諦められない希望。私たちは、そのような患者様の気持ちに寄り添い、心身両面からサポートすることで、妊娠の継続と出産という喜びへと導くお手伝いをさせていただきます。

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