緑内障と肩こりへの鍼灸症例|松戸市在住50代女性
緑内障と肩こりへの鍼灸
近年、緑内障は中高年層を中心に増加傾向にあり、失明原因の上位にも挙げられることから、多くの方が不安を抱えていらっしゃいます。
一度失われた視野は元に戻らないとされるため、早期発見と適切な治療継続が非常に重要です。
しかし、自覚症状が出にくいことや、日々の忙しさから、定期的な眼科受診や点眼治療が途絶えてしまうケースも少なくありません。
今回ご紹介するのは、まさにそうした状況にあった松戸市在住の50代女性の患者さまです。
患者さまについて
年齢・性別:
50代女性・松戸市在住
主訴:
緑内障(4年前に診断)、眼精疲労、首肩こり
その他の症状:
足先の冷え、ストレス、慢性疲労
鍼灸院に来るまで経緯:
患者さまは4年前、人間ドックの眼底検査で異常を指摘され、眼科での精密検査の結果「緑内障」と診断されました。
視野の一部に欠損が見られるとのことでした。
診断当初は点眼薬を使用し、定期的に眼科で経過観察を受けていました。
しかし、2年前からご家族の介護が始まり、通院の時間を確保することが難しくなってしまいました。
多忙から眼科への通院が途絶え、点眼薬も中断してしまっている状態でした。
ご本人も「そろそろ眼科に行かなければ」という気持ちはあるものの、日々の疲れやあわただしさのため、なかなか行動に移せずにいました。
お仕事はデスクワークが中心で、長時間パソコンに向かうことが多く、眼精疲労や、それに伴う頑固な首肩こりにも長年悩まされていました。
加えて、足先の冷えや、介護と仕事による精神的なストレス、なかなか抜けない慢性的な疲労感も感じていらっしゃいました。
これらの様々な不調を「根本から見直し、体質を整えたい」という思いから、西洋医学とは異なるアプローチを求めて、当院の鍼灸治療に関心を持ち、ご来院されました。
東洋医学的考察
東洋医学では、私たちの身体は「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」という3つの要素がバランス良く巡ることで健康が保たれていると考えます。
これらのいずれかが不足したり、滞ったりすることで、様々な不調が現れます。
今回の患者さまの状態を東洋医学的な観点から診させていただくと、まず、眼精疲労や慢性疲労、足先の冷えといった症状から、生命エネルギーの根源である「気」と、全身に栄養を運ぶ「血」が不足している『気血両虚(きけつりょうきょ)』の状態にあると考えられました。
とくに目は「血」によって養われるため、「血」の不足は目の疲れや見え方の問題に直結しやすいのです。
さらに、長時間のデスクワークによる首肩のこり、介護や仕事のストレスは、「気」と「血」の流れを滞らせる原因となります。
とくに首肩周りは、頭部や目へと繋がる重要な経絡(気血の通り道)が集中しているため、この部分の滞りは『気滞血瘀(きたいけつお)』(気の流れが滞り、血行が悪くなっている状態)を引き起こし、眼精疲労を悪化させたり、緑内障の状態にも影響を与えかねません。
また、精神的なストレスは、東洋医学で「肝(かん)」と呼ばれる臓腑の働きに影響を与えます。「肝」は気の流れをスムーズに調整する役割(疏泄作用)を担いますが、ストレスによってその働きが乱れると『肝鬱(かんうつ)』という状態になり、イライラや気分の落ち込みだけでなく、気の滞りを助長し、肩こりや頭痛、目の症状にも繋がります。
これらのことから、この患者さまは、「気血両虚」をベースに持ちながら、「気滞血瘀」と「肝鬱」が複合的に絡み合っている状態であると判断しました。
治療方針
上記の東洋医学的考察に基づき、以下の点を重視した治療方針を立てました。
■補気養血(ほきようけつ)
不足している「気」と「血」を補い、身体の根本的なエネルギーと栄養を高めることで、慢性疲労や冷え、眼精疲労のベースにある虚弱体質を改善します。
■疏肝理気(そかんりき)
ストレスによって乱れた「肝」の働きを整え、気の流れをスムーズにすることで、精神的な緊張を和らげ、気滞を解消します。
■活血化瘀(かっけつかお)
滞っている「血」の流れを促進し、瘀血(滞った古い血)を取り除くことで、首肩こりを緩和し、目への栄養供給を改善します。
■温経散寒(おんけいさんかん)
経絡を温め、冷えを取り除くことで、血行を促進し、気血の巡りをサポートします。(特に足先の冷えに対して)
これらのアプローチを組み合わせることで、単に症状が現れている部位だけでなく、全身のバランスを整え、患者さまが本来持っている自然治癒力を高めることを目指しました。
緑内障そのものの進行を直接止めることは難しくても、目を取り巻く環境(血流、神経、筋肉の状態)を整え、心身のストレスを軽減することが、結果的に目の健康維持に繋がると考えました。
治療経過
1回目:
仰向けで、目の周りの血行促進と眼精疲労緩和を目的として、顔のツボ「太陽」。
全身の気血の巡りを整え、とくに頭顔部の症状に効果的な手のツボ「合谷」。
目の症状に特に関連が深いとされる足のツボ「光明」「太衝」。
筋肉や腱に関係し、肩こりや足の疲れに効果的な「陽陵泉」。
これらツボに置鍼(鍼を刺したまま一定時間置く)。
さらに「陽陵泉」には円皮鍼(シール付きの短い鍼)を追加し、持続的な刺激を図りました。
お腹にあり、全身の「気」を補い、消化機能を高める「中脘(ちゅうかん)」と、下腹部にあり、「気」と「血」を補い、身体を温める「関元」には、棒灸(艾を棒状にしたお灸)で心地よい温熱刺激を加えました。
冷えを感じている足先にはホットパックを当て、全身が温まるように配慮しました。
うつ伏せで、とくにツラさを感じている首の付け根から肩にかけての「天柱」「風池」「肩井」周辺の筋肉の緊張を和らげるように置鍼。
背中にあり、それぞれ「心(精神活動)」「膈(血の巡り)」「肝(ストレス、血の貯蔵)」と関係の深い「心兪」「膈兪」「肝兪」にも置鍼し、全身のバランス調整を図りました。
初回施術後、患者さまからは「首肩が少し楽になった」「温かくて気持ちよかった」といった感想をいただきました。
2回目~6回目(1~4週間に1回のペース):
基本的には初回の方針に沿って施術を行いましたが、その時々の患者さまの状態に合わせて内容を調整しました。
とくに首肩のこりが根強い場合は、こりの特に強い部分にパルス鍼(鍼に微弱な電流を流す)を追加し、筋肉の深部までアプローチしたり、温熱効果とともによりピンポイントな刺激が可能な点灸(米粒大のもぐさを直接皮膚上で燃やす)を行ったりしました。
日によって感じる不調(例えば、疲れがひどい日、ストレスが強いと感じる日など)に合わせて、使用するツボや手技を微調整し、オーダーメイドの施術を心がけました。
約2ヶ月間の施術を通して、首肩のこりは、以前よりも楽に感じる時間が増えてきたとのことでした。
しかし、お仕事の繁忙期や、夜の飲酒習慣などもあり、慢性的な疲労感が完全に取りきれない側面もありました。
生活習慣が症状に大きく関わっている場合、鍼灸治療の効果を高めるためには、セルフケアや生活習慣の見直しも重要になりますが、多忙な患者さまにとっては難しい部分もあったようです。
それでも、定期的な鍼灸治療によって、疲労やこりによる身体的な負担を軽減させながら、日々の生活を送ることができたと仰ってくださいました。
そして、鍼灸で体調がある程度整ってきたことを機に、「そろそろ眼科にもう一度行ってみようと思う」と前向きな気持ちになられ、一旦、当院での鍼灸治療は終了となりました。
使用した主なツボとその代表的な効果
今回の治療で使用した主なツボと、その代表的な効果(今回の症例における狙い)をいくつかご紹介します。
太陽(たいよう):
こめかみにあるツボ。
眼精疲労、頭痛、めまいなどに効果が期待できます。目の周りの血行を促進します。
合谷(ごうこく):
手の甲、親指と人差し指の骨が交わる手前にあるツボ。
顔面部や頭部の症状に広く使われ、痛みの緩和や気の巡りを整える作用があります。
眼精疲労や肩こりにも有効です。
光明(こうめい):
外くるぶしの上、約5寸(指幅7本分程度)にあるツボ。
「光明」という名の通り、目の症状に用いられる代表的なツボの一つです。
陽陵泉(ようりょうせん):
膝の外側、少し下にある骨の出っ張りのすぐ下にあるツボ。
筋肉や腱に関係が深く、肩こり、腰痛、足の疲れなどに効果的です。
気の流れをスムーズにする作用も期待できます。
太衝(たいしょう):
足の甲、親指と人差し指の骨の間をたどっていき、ぶつかる手前にあるツボ。
ストレスやイライラを鎮め、「肝」の働きを整える代表的なツボです。
気の巡りを改善し、目の充血や痛みにも用いられます。
中脘(ちゅうかん):
みぞおちとおへその中間にあるツボ。
胃腸の働きを整え、消化吸収を高め、「気」を補う効果があります。
慢性疲労にも有効です。
関元(かんげん):
おへそから指4本分下にあるツボ。
「元気の源」とも言われ、「気」「血」を補い、身体を温め、生命力を高める重要なツボです。
冷えや疲労回復に効果的です。
天柱(てんちゅう)・風池(ふうち):
首の後ろ、髪の生え際あたりにあるツボ。
首肩のこり、頭痛、眼精疲労に非常に効果的です。頭部への血流改善も期待できます。
肩井(けんせい):
首の付け根と肩先の中間にあるツボ。
肩こりの代表的なツボで、気の滞りを解消し、上半身の緊張を和らげます。
心兪(しんゆ)・膈兪(かくゆ)・肝兪(かんゆ):
背骨の両側にあり、それぞれ「心」「横隔膜(血)」「肝」に対応するツボ。
内臓の働きを整え、精神安定、血行促進、ストレス緩和などに繋がります。
これらのツボを患者さまの状態に合わせて組み合わせ、相乗効果を狙って施術を行いました。
まとめ
今回の症例では、緑内障と診断されながらも眼科から足が遠のいていた患者さまに対し、ご本人が強く自覚されていた眼精疲労や首肩こりといった症状、そして全身の不調(冷え、疲労、ストレス)に対して鍼灸治療を行いました。
約2ヶ月間の治療により、首肩のこりなどの症状はある程度の改善が見られ、患者さまご自身も体調が整ってきたことを実感され、再び眼科を受診する意欲を取り戻されました。
これは、鍼灸治療が単なる症状緩和だけでなく、患者さまの心身全体のバランスを整え、前向きな気持ちを後押しできた結果とも言えるかもしれません。
ただし、今回の治療期間中、緑内障の状態が具体的にどう変化したかについては、眼科での検査データがないため、残念ながら把握できていません。
緑内障のように自覚症状に乏しく、専門的な検査が必要な疾患の場合、やはり西洋医学的な診断・検査と連携しながら、東洋医学の鍼灸治療を補完的に活用していくことが最も理想的であると、改めて認識いたしました。
患者さまは元々、お仕事や介護による疲労とストレスが非常に大きい生活を送られていました。
生活習慣が深く関わる症状は、その習慣自体を変えることが難しい場合、症状改善のペースが緩やかになったり、波が見られたりすることもあります。
しかし、そのような状況下でも、当院としては、少しでも患者さまの苦痛が和らぎ、より良い状態で日々を過ごせるよう、持てる知識と技術を最大限に活かして施術にあたらせていただきました。
緑内障そのものへの不安はもちろん、それに伴う眼精疲労、肩こり、ストレス、慢性疲労など、様々なお悩みを抱えている方は、ぜひ一度当院にご相談ください。
西洋医学とは異なる視点からのアプローチが、あなたの健康維持の一助となるかもしれません。
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