乳がん患者の抗がん剤による記憶力・集中力低下に鍼治療が有効という研究

乳がん患者さんへの抗がん剤で記憶・集中力などが落ちる

抗がん剤で記憶力低下と鍼灸・写真1
がん治療(とくに化学療法)に関連した「認知機能障害(CRCI)」が注目されつつあります。
これは化学療法(抗がん剤治療)が原因の、記憶力・集中力・作業能力の低下などの軽度の認知機能障害のことです。
抗がん剤による神経伝達物質の障害、脳血流の変化、海馬の機能低下などが原因とされていますが、はっきりとは分かっていません。

<症状>
•集中できづらい
•最近の出来事を忘れやすい
•やる気の低下
•なかなか考えがまとまらない
•考えがはっきりしない
…などです。

抗がん剤による認知障害(CRCI)に鍼治療が有効との研究

抗がん剤で記憶力低下と鍼灸・写真2
この認知機能障害を鍼灸で改善できる、という研究がありますのでご紹介します。

『乳癌患者の抗がん剤による認知障害(CRCI)に鍼治療が有効』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29735975

【概要】
抗がん剤治療は、「認知障害(CRCI)」などの有害作用を引き起こす可能性がある。
この研究では、CRCIを軽減するために、鍼治療の有効性を評価する。
80人の患者を無作為に「鍼治療群」と「鍼治療しない群(対照群)」に分け、各群に40人の患者を配置した。
鍼治療群は、百会(DU20)、四神聡(EX-HN1)、神庭(DU24)、足三里(ST36)、太谿(KI3)、 大鍾(KI4)、懸鍾(GB39)の鍼治療で治療された。
検査の指標として、認知試験・聴覚/言語学習テスト・言語能力テストなどを用いた。
さらに、鍼施術前および施術後に、脳由来神経栄養因子(BDNF)のレベルを測定した。
BDNFレベルの変化と認知機能との間の相関も分析した。
結果。認知障害(CRCI)は「鍼治療群」において改善された。
さらに、鍼治療後の血清BDNFレベルは、治療前よりも有意に高かった。
さらに、BDNFレベルと認知機能は正の相関があった。
「鍼治療しない群(対照群)」では、同じ期間にどのような尺度においても統計的に有意な差異を示さなかった。
結論。
鍼治療は、BDNF増加に関連ある仕組みを介して、乳癌患者の認知障害(CRCI)の治療に有効である

※なお、文中の「脳由来神経栄養因子(BDNF)」とは、神経細胞の成長に不可欠な物質のことです。
脳の中でBDNFは、学習・記憶・高度な思考に関係する領域で活性化されています。

当院の考察

抗がん剤で記憶力低下と鍼灸・写真3
鍼治療をすると神経細胞の成長に欠かせない物質(BDNF)が脳内で増えることで、結果的に認知機能の低下を改善できる、という結果でした。

使うツボは頭のツボが多く、確かに脳(思考や記憶など)に良い代表的なツボです。
足のツボもありますが、これらは全身の気血を補う意味で良い代表的なツボになっています。
全身の元気を増し、さらに思考・記憶に関するエネルギーを高める配穴ですね。
全身的な考え方にも沿っていて、それが認知機能障害にも有効だったというのは、鍼灸の可能性を感じさせる内容でした。

当院では、抗がん剤の副作用対策として「しびれ」「吐き気」「だるさ」などを掲げています。
結果、それらのお悩みの方たちがいらっしゃるわけですが、たしかに「ぼーっとする」「集中力が続かない」などと仰られる方もいました。
それらが今回の「認知機能障害(CRCI)」だったということでしょう。

基本的には抗がん剤治療を受けた際には「気虚(ききょ)」「血虚(けっきょ)」「気滞(きたい)」「血瘀(けつお)」がまだらに出現する印象です。
そのなかでも、気虚と血瘀は大きくでます。
気虚とは気(エネルギー)が不足した状態で、血瘀とは血が滞った状態のことで、様々な症状の原因になります。
そのため、気を補うことと血を巡らせる施術は必須かと思います。

全身的なアプローチで気血を調整するという鍼灸のアプローチで、つらい抗がん剤治療の時期を乗り切ってほしいです。
病院だけの治療でなく、何か他にもできることをしておきたい、と思われるようでしたら鍼灸をおススメします。

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