お灸で卵巣の老化は遅らせられる?|最新研究から「ミトコンドリア」がカギになる
ミトコンドリアから卵子の質を高めるお灸の力

「歳を重ねると、卵子の質が落ちる」
これは、不妊治療をされている方なら一度は病院で聞いたことがある話だと思います。
でも、
「なぜ質が落ちるのか」「それを遅らせる方法はあるのか」までは、なかなか説明されません。
2026年に中国の研究チームから、非常に興味深い研究が発表されました。
その論文のタイトルは、
「Moxibustion delays ovarian aging by regulating mitochondrial biogenesis and improving oocyte quality」(「お灸はミトコンドリアの新生を調節し、卵子の質を改善することで卵巣の老化を遅らせる」)。
「お灸で卵巣の老化を遅らせる?」
そう聞くと、少し驚くかもしれません。
ただし、最初に大切なことをお伝えしておきます。
今回の研究は「人間ではなくマウスを使った動物実験」です。
したがって、「この研究によって、お灸をすれば人間の妊娠率が上がることが証明された」という意味ではありません。
一方で、お灸が卵巣や卵子にどのような変化を起こす可能性があるのかを調べた研究として、とても興味深いものです。
今回はこの論文を、鍼灸師の立場から分かりやすく読み解いてみます。
難しい専門用語はできるだけかみ砕いてお伝えしますので、最後まで気軽に読んでみてください。
なお、当院は鎌ケ谷市で25年、鍼とお灸専門で施術を行っており、不妊治療中の方の体質改善のお手伝いを数多くさせていただいてきました。
今回ご紹介する研究は、まさにその実感を裏づけるような内容でしたので、ぜひ共有したいと思います。
論文の内容を紹介

今回取り上げるのは、南京中医薬大学(中国)の研究チームが発表した論文です。
論文名:
Moxibustion delays ovarian aging by regulating mitochondrial biogenesis and improving oocyte quality
(訳:お灸はミトコンドリアの新生を調節し、卵子の質を改善することで卵巣の老化を遅らせる)
著者:
Yaoli Yin 他
掲載誌:
Chinese Medicine (2026) 21:115
掲載URL:
https://doi.org/10.1186/s13020-026-01375-3
研究の内容と結果
研究チームは、2ヶ月、6ヶ月、10ヶ月、14ヶ月のメスのマウスを使い、年齢によって卵巣機能がどのように変化するのかを調べました。
その結果、
「10ヶ月齢のマウス」では、発情周期の乱れ、ホルモンの変化、卵胞数の減少、妊娠・着床能力の低下などが確認されました。
これは人間でいうと、「35歳前後の女性の卵巣の状態」に近いと論文では位置づけられています。
お灸を使った温熱刺激)を21日間続けて行い、卵巣や卵子にどんな変化が起きるかを詳しく観察しています。
結果、10か月齢のマウスに対するお灸の効果が特に大きかったとしています。
使われた経穴(ツボ)は、腎兪(BL23)、関元(CV4)、中極(CV12)という、東洋医学で昔から「元気の源」「生殖機能」に関わるとされてきた部位です。
分かったこと
結果は、次のようにまとめられます。
・ホルモンバランスの改善
エストロゲン(E2)や抗ミュラー管ホルモン(AMH、卵巣の中にどれだけ卵子の元が残っているかの目安)の値が、お灸によって改善しました。
・卵胞の数の増加
卵子を育てる卵胞の数が、お灸をしたマウスで増えていました。
・妊娠・出産の成績向上
着床率が上がり、生まれてくる赤ちゃんの数(生存率)も増加。
逆に、着床後に命を落としてしまう割合は減少しました。
・卵子そのものの質の向上
卵子の中の「紡錘体」という、染色体を正しく分配するための構造物の乱れが、お灸によって改善していました。
以上から、
「卵巣の状態」だけではなく、実際の「生殖結果」にも変化が見られたわけです。
なぜこうした変化が起きるのか

研究チームは、卵子の中にある「ミトコンドリア」に注目しました。
ミトコンドリアは、細胞の中でエネルギー(ATP)を作り出す小さな器官で、よく「細胞の発電所」と例えられます。
卵子が育って受精し、赤ちゃんへと成長していく過程では、膨大なエネルギーが必要になるため、卵子の中には数十万個ものミトコンドリアが集まっています。
しかし、加齢とともにこのミトコンドリアは数が減り、形も崩れ、エネルギーをうまく作れなくなっていきます。
これが卵子の質の低下につながっていると考えられています。
研究の結果、お灸を行ったマウスでは、
・ミトコンドリアの数そのものが増え
・形の崩れていない「元気な」ミトコンドリアの割合が高まり
・ATP(エネルギー)の量も増えていた
ことが確認されました。
さらに、この変化には「PGC-1α」という、ミトコンドリアを新しく作り出す司令塔のような物質が関わっていることも突き止められています。
実際に、この司令塔の働きを薬でブロックすると、お灸の効果も弱まったことから、お灸がこの司令塔を活性化させることで、卵子のミトコンドリアを元気にしているという道筋が示されました。
この結果から研究者は、
「お灸がPGC-1α/Nrf2経路を介してミトコンドリアの新生を促し、それによって卵子の質を改善した可能性がある」
と考えています。
東洋医学的な解釈

この研究結果を、東洋医学の視点から読み解いてみます。
東洋医学には、
「腎(じん)は生殖や成長・発育、老化と深く関係する」
という考え方があります。
東洋医学では、生殖に関わる働きを「腎(じん)」の力、いわゆる「腎精(じんせい)」が支えていると考えます。
今回使われた経穴のうち、腎兪(BL23)はまさに「腎」の働きを高める代表的なツボです。
関元(CV4)・中極(CV12)は、お腹の下、いわゆる「丹田」に近い場所にあり、こちらも生殖機能や体を温める力に関わるとされてきました。
面白いのは、現代医学的な「ミトコンドリアを元気にする」という現象と、東洋医学が昔から言ってきた「腎を温めて精を養う」という考え方が、方向性として重なっている点です。
ミトコンドリアはエネルギー(気)を作る場所であり、東洋医学でいう「気」や「精」の物質的な土台の一つと捉えることもできます。
つまり東洋医学的に見ると、
「局所の卵巣だけを見るのではなく、全身の状態を整えながら生殖機能を支える」
という発想になります。
これは、私が普段の鍼灸で大切にしている考え方とも共通しています。
妊活だからといって、卵巣周辺だけに施術すればよいとは考えていません。
脈、舌、お腹などを確認し、その人の体質を東洋医学的に判断したうえで、全身のツボを使って施術します。
「冷えているのか」
「気血の巡りが悪いのか」
「ストレスによって体が緊張しているのか」
「睡眠や疲労の状態はどうなのか」
など、一人ひとりの状態を見ていくことが重要です。
この論文の感想

鍼灸師としての率直な感想。
正直なところ、「お灸が卵巣に良い」ということ自体は、長年の臨床経験の中で感覚として持っていました。
実際に、不妊治療を続けながら鍼灸に通われた患者さんが、生理周期が整い、妊娠に至ったケースを何度も見てきています。
ただ、それが「なぜ」起きるのかを、細胞の中のミトコンドリアという具体的なレベルまで踏み込んで示した研究は、私自身あまり見たことがありませんでした。
今回の論文は、その「なぜ」に一歩近づく、非常に興味深い内容だと感じています。
一方で、冷静に受け止めるべき点もあります。
この研究はあくまでマウスを使った実験であり、人間で同じことが証明されたわけではありません。
マウスと人間では体の仕組みも寿命の進み方も異なるため、論文中でも「今後、人での臨床試験による検証が必要」とはっきり述べられています。
ここは強調しておきたいところです。
また、効果が最も大きく出たのは「生後10ヶ月(人間でいう35歳前後に相当)」のタイミングで、それより高齢の「14ヶ月」のマウスでは、妊娠・出産に関する効果ははっきり見られませんでした。
これは、体質改善やケアは、なるべく早いタイミングで始めることの大切さを示しているように思います。
まとめと当院の鍼灸のススメ
今回ご紹介した研究をまとめると、次のようになります。
・お灸には、卵巣の老化に伴うホルモンバランスの乱れや卵子の質の低下を改善する可能性がある
・そのメカニズムの一つとして、卵子の中のミトコンドリアを活性化させる働きが関わっていると考えられる
・ただし、これはマウスでの結果であり、人での効果は今後の研究で確かめられていく段階である
この研究結果は、当院が普段の施術で大切にしていること――体全体のツボを使って、じっくりと体質そのものを整えていくという考え方と、多くの部分で重なるものでした。
妊活を頑張っている方で、
「病院での治療と並行して、他にもできることをしたい」
「体質からしっかり整えていきたい」
そうお考えの方は、ぜひ一度、当院にご相談ください。
じっくりとお話を伺い、分かりやすくご説明したうえで、あなたに合った施術をご提案いたします。
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