1960年代の不妊鍼灸は現在と全く同じであった

1960年代の不妊鍼灸の報告

不妊治療

鍼灸は2,000年の歴史を有する医療です。
中国で、2200年前の貴族のお墓から鍼灸の書物が見つかっていることからもそれは確かめられています。
それ以降ずっと、カラダの変調を整える技術として鍼灸というシンプルな道具で体表にあるツボを刺激する療法は続いています。
当然お子さんを授かりたいと望む方たちのお役にも長らく立ってきました。

今回は1965年(昭和40年)に発表された不妊鍼灸についての論文をご紹介して、西洋医学の進化とは別に普遍的な施術であることをご説明します

西洋医学での不妊治療

超音波

現在、不妊治療と言えば人工授精や体外受精を思い浮かべると思います。
たしかに実際に、多くの体外受精が行われています。
2016年のデータでは「44万7790件の体外受精が行われ、妊娠後に5万4110人の子が生まれた」と言われています。

しかし、高度な生殖医療の歴史は極めて浅いものです。

・日本では1949年(昭和24年)に初めて人工授精が成功。
・1978年(昭和53年)にイギリスで世界初の体外受精が成功。
・1992年(平成4年)、ベルギーで卵細胞質内精子注入法(ICSI)での妊娠・出産が初めて成功。
・日本では1994年(平成6年)、顕微授精で赤ちゃんが誕生
・2006年(平成18年)、「ガラス化法」という技術が開発され、今のように採卵した卵子を凍結して、後日、解凍して安全に移植することができるようになる。

現在、体外受精では凍結受精卵を使うのが8割と言われていますが、その方法が確立してまだ15年程です。

このように変化も大きく急ですし、言ってみれば何が正しい方法なのかもまだまだ手探りなのかもしれません。

昭和40年の不妊鍼灸

不妊鍼灸

以下に紹介するのは、昭和40年(1965年)に出された論文です。
先ほどの西洋医学的な年表で言えばまだ体外受精は存在しない時代です。
人工授精がせいぜいの頃。

そもそも「エコー(超音波)検査」がほとんどなかった時代ですからね。
エコー検査は、1960年代ではなく、70年代に臨床現場に普及していき、1983年にようやく卵胞の大きさの観察がエコーで直接に診断可能な方法として発表され、ここから体外受精が始まるわけです。

そんな時代にも鍼灸は今と変わらず行われていました。

『不妊症および一時不妊症の生姜灸の治験』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsam1955/14/3/14_3_25/_pdf/-char/ja

論文を書かれた中村先生は「生姜灸」を使用するスタイルのようです。
生姜灸とはこういったものです↓

ジワ~っと温かくなり、熱くなる時に外します。
お灸の熱刺激と生姜の発汗作用も加わって温かくする作用が強いものです。

【治療に使うツボ】

『基本穴』
腹部:中胱・石門・水分・中極・滑肉門・天枢・腹結
背部:上/中/次謬の穴,・隔兪・胃兪・腎兪・脾兪・大腸兪・膀胱兪・腰陽関・命門・および腰仙部

『附加穴』
足部:三陰交・陰稜泉・血海
肩コリを訴えるもの:肩背部
冷え症を訴えるもの:湧泉・行間
身体の虚しているもの:まず全身の調子を整え、体を実に近い健康体にしてから不妊症の治療をする。

【治療の考え方】
文献を歴史的に観案すると、古代中国においては一点多壮治療の傾向の考え方、江戸時代、以後は多点少壮の考え方となっております。
これは古代中国においては、不妊症は一つの病気として考えられていたのに対して現代では不妊症は一つの状態として考えられる
すなわち、身体機能の増進によって妊娠を可能にするよう治療するのではないかと思います。

不妊症に温泉療法が特効ありと記載されている文献も多いが、温泉療法は自宅やその近くにある人は限られ、また、時間、経費の点で損失も多いが、生姜灸では、少い時間と経費で妊娠の可能性をもたらすことができると思う。

【治療の期間】
期間としては、やはり、30回以上治療した婦人に多く、2~3回で妊娠した人も1名あるが、岡部先生の不妊症の治験報告でも、30回以上治療しないと効果はないと記されている。

当院の考察

考察
論文中では道具として「生姜灸」を使っていますが、一般的な鍼とお灸でも同じようなことができますので、ここでは「鍼灸」とさせていただきます。

まず婦人科系に効くツボと言われている、下腹部や腰のツボを多く使っていて、それを「基本穴」としています。
これは当院でも同じように使います。

また、体の調子を整える治療をすることで、結果的に「妊娠しやすい体を作る」ことを目的としています
これまた当院でも同様です。

このように、時代を経ても鍼灸のアプローチは何ら変わることがありません。
(もちろん2000年前の施術と今の施術が同じかどうかは定かではありませんが…。)

期間としても30回を目安と言っています。
週1回の施術なら7ヶ月ほどだし、週2回の施術なら4ヶ月ほどになります。

これは「体質改善には時間がかかる」と当院でも言っているのとまったく同じことです。
なお、当院の妊娠までの平均も6ヶ月程度です

鍼灸は長い歴史の中で培われた「病名ではなく人間を整える」医療だと言えます。
そして、西洋医学的な不妊治療がどんなに変わっていっても、十分その変化に対応できるものだと考えます。

西洋医学のテキストだったら50年前のものは古臭くて読めたものではないかもしれませんが、東洋医学(鍼灸)のテキストは500年前のものですら新たな気づきを与えてくれる情報の宝です。
東洋医学の層の厚さを感じます、鍼灸師でよかった(笑)

当院の不妊鍼灸のご案内

不妊鍼灸ページ