馬の筋膜痛に鍼治療が効く|鍼灸師の解説

馬の筋膜痛への鍼治療の効果

馬への鍼|論文・写真1

当院は鎌ヶ谷市で開業して15年以上、鍼灸一筋で患者さんと向き合ってきました。

「肩こりが取れない」「歩くと腰が重い」「なんとなく体がギクシャクする」
——そんなお悩みを抱える方は本当に多いですよね。

じつは「馬」にも同じ問題が起きます。
その解消のために鍼治療を行い、成果を調べる論文がでました。

人間ではなく「馬」の慢性痛に対するドライニードル(鍼治療の一種)の効果を、最新のAI搭載スマートフォンアプリを用いて解析した、非常に興味深い論文です

馬の歩き方を測定したら、治療後に「歩くリズム」と「頭の揺れ」が明らかに改善したというのです。

「なぜ人間の鍼灸院のブログで馬の論文を?」と疑問に思われるかもしれません。

しかし、人間も馬も同じ哺乳類。
筋肉の構造や「トリガーポイント(痛みの引き金となる筋肉の硬結)」が生じるメカニズムには多くの共通点があります。

さらに、プラセボ効果(思い込みによる改善)が起こり得ない動物において、純粋に物理的な治療効果が測定されたことは、非常に高い価値を持ちます。

その馬に鍼治療が効くのかどうかという研究について、今回は紹介し、東洋医学の目で解釈し、人間の鍼治療にどう活かせるかを考えていきます。

論文の内容を紹介

論文タイトル:
Short-Term Impact of Dry Needling Treatment for Myofascial Pain on Equine Biomechanics Through Artificial Intelligence-Based Gait Analysis
(馬の筋膜痛に対するドライニードリング治療の短期効果——人工知能ベース歩行分析によるバイオメカニクスへの影響)

著者:
María Resano-Zuazuら

掲載誌:
Animals 2025, 15, 1517

公開URL:
https://doi.org/10.3390/ani15111517

研究の内容と結果

筋膜性疼痛症候群(MPS)は筋肉の痛みの一般的な原因であり、「トリガーポイント(TrPs)」と呼ばれる筋肉内の過敏な「硬結」によって特徴付けられます。

体にマーカーを付けずに動作を解析できるAI搭載のスマホアプリを用いて、鍼治療が馬の歩行動作を改善できるかどうかを調査しました。

■研究の方法

・対象は、馬14頭(セラピー馬9頭、レジャー馬4頭、混合1頭)

・筋膜痛の原因である「硬結=トリガーポイント(TrPs)」を、頸部の腕頭筋・僧帽筋、尻の殿筋・大腿二頭筋・半腱様筋・大腿四頭筋の6筋肉で触診し、「硬結」の有無を評価する。

・7頭にドライニードリングを実施(治療群)、7頭は無治療(対照群)とする。

・治療群には、0.30mm×40mmおよび0.25mm×25mmの鍼が使用する。

・ 「fast-in-fast-out(素早く刺入し素早く抜く)」という手法で、筋肉の硬い部分に鍼をする。

・測定ツールは、iPhone 14に搭載のアプリ「Sleip」(AIマーカーレス歩行分析アプリ)で、直線トロットの歩行を治療前(T0)・直後(T1)・72時間後(T72)に撮影する。

馬への鍼|論文・写真2

馬への鍼|論文・写真3

馬への鍼|論文・写真4

■主な結果

歩行頻度(stride frequency)は72時間後が有意に低下(p<0.05)。

「治療群」は、「無治療群」より明らかにゆったりした歩き方に。

前肢の頭の動きの重症度(FHROM severity)が、治療群で有意に低い(p=0.015)。
つまり「頭のガクガク」が減り、対称性が向上。

論文では「鍼治療は馬の筋膜痛による歩行の質を改善する可能性が高い」と結論づけています

東洋医学的な解釈|気血の滞りを解消するメカニズム

馬への鍼|論文・写真5

東洋医学では、筋膜痛は「気滞血瘀(きたいけつお)」と言えます。

筋肉に過度の負荷がかかると「気血」が滞って硬い「コリ・痛み」が生まれる。

馬の場合も同じです。
補助療法で毎日同じ動きを繰り返すと、頸部〜腰〜後肢に「結び」ができるのです。

今回の鍼治療のやり方は、我々が「阿是穴(あぜけつ)=特定のツボではないが反応が出ている場所」を狙う鍼治療と同じです
論文内で言及されている「トリガーポイント(TrPs)」は、圧迫すると痛みを伴い、離れた場所に痛みを波及させる過敏なポイントです 。
これは、東洋医学における「阿是穴(あぜけつ)」の概念とほぼ完全に一致します。

東洋医学では、経絡(気の通り道)上の特定のツボ(経穴)だけでなく、患者が「あ、そこだ(阿是)」と感じる圧痛点そのものを治療ポイントと見なします。

使いすぎやストレスによって筋肉に虚血が生じ、痛み物質が放出されて硬結ができるという西洋医学的な説明は 、東洋医学でいうところの「気血の停滞(瘀血:おけつ)」が起こり、筋肉に栄養が行き渡らずに固まっている状態と同義です。

「fast-in fast-out」法で針を素早く出し入れすると、局所痙攣反応(LTR)が起きます。

これは我々の鍼灸で言う「速刺速抜」の手技で、刺した時に「得気(とっき)」を感じたことに相当すます。
患者さんが「ビクッ」と感じるあの感覚です。

得気で起きることは…、神経が刺激され、脳内エンドルフィンが分泌され痛みの緩和します。
また、その場所に血流が急増し、気血の滞りが一気に流れ、コリや痛みの改善につながります。

論文では「治療の72時間後」に最も効果がでたと報告しています 。
我々の臨床現場でも、強めの鍼治療を行った直後は、筋肉に微細なダメージや気血の急激な変化による「好転反応(重だるさなど)」が生じることがあります。

人間の患者さんにも「治療の1~2日後に体が軽く感じますよ」とお伝えすることも多いですが、馬の客観的データでも72時間後(3日後)に最大の歩行改善が見られたことは、生体の修復プロセスとして非常に論理的な結果です

感想

獣医さんがAIやスマホアプリという最先端ツールで、症状の改善を推測しているのは興味深かったです。
馬は「痛い」「痛くない」を言えませんからね…。

また、それにより、鍼治療の効果を客観的に証明できるのも素晴らしいですね。
しかもサンプルが小さくても統計的に有意な差が出たので、鍼治療の効果を示唆するいち材料にはなります。

馬と人間は違うので、やり方や結果をそのまま当てはめられません。
しかし人間以外にも鍼が効いているなら、人間で起きる効果効能も、「気のせい」や「思い込み」ではないとも言えます。

東洋医学は2500年以上前から「触って、刺して、気血を整える」ことをやってきました。
それを現代科学の画像や数値で裏付けてくれているのは本当に嬉しい時代です。

追記。
当院では「鍼治療」の枠の中に「ドライニードリング」が含まれると解釈しています。
参考資料:https://mumsaic.jp/news/index.php?c=topics_view&pk=1476093034