めまいには漢方か鍼灸か?
「めまい」には漢方薬と鍼灸どちらを選ぶ?
めまいに悩まされることは、身体的にも精神的にもとてもツラいことだと思います。
それが続くと体の調子が思うように戻らないもどかしさも感じるていることでしょう。
そんな時こそ、無理せず自分を大切に、少しずつ回復に向けてできることを積み重ねてください。
今回はそのようなめまいで悩まれるあなたに、最初に「結論」です。
それはズバリ『漢方薬も鍼灸も両方使うのが最善』です。
それだけだと身も蓋もないので、それぞれの良さを解説していきますね。
めまいと東洋医学
めまいは目や耳、脳といった感覚器が正常に機能しなくなる状態で、東洋医学ではこれを「眩暈」や「頭昏」などと表現します。
東洋医学では体にある「気血水」の量の過不足と巡りの悪さが病気を生むと考えます。
めまいは、体全体のバランスの乱れからくる症状と捉えられます。
原因は「気・血・水」の滞りや不足、内臓の機能低下です。
以下にそれらを説明します。
気虚(ききょ)タイプ
気は体を動かすエネルギーです。
気虚の人は、体力が不足しく、疲れやすい体質であることが多いです。
この状態では、脳へのエネルギー供給が不足し、めまいを起こします。
過労、栄養不足、ストレスなどが挙げられます。
めまい以外にも、息切れ、倦怠感、疲れなどが起こりやすいです。
血虚(けっきょ)タイプ
血虚は、血が不足する状態です。とくに女性に多く見られます。
血が十分に巡らないため、脳への酸素や栄養供給が滞り、めまいをおこします。
肌の乾燥、不眠、爪が割れやすいなどの症状を伴うことも多いです。
月経過多や貧血が原因となることもあります。
痰湿(たんしつ)タイプ
痰湿は体内の余裕な水分が多い状態です。
体液の循環が悪化し、特に内耳や脳の感覚器官に影響を及ぼしめまいとなります。
ふらふらする感覚や重いだるい感覚として現れることも多いです。
肥満傾向、むくみや胃の不快感、食欲不振を伴うことがあります。
肝陽上亢(かんようじょうこう)タイプ
ストレスや感情の変動が強い人に多い体質で、肝の働きが乱れるとエネルギー(肝気)が過剰に上昇し、脳に負担がかかります。
これにより、突然のめまいや頭痛が起こりやすくなります。
この体質の人は、怒りやすさ、イライラ、不眠、肩こり、顔の赤みなどを特徴とすることが多いです。
腎虚(じんきょ)タイプ
腎は「精(生命エネルギー)」を司り、成長や老化、骨や脳の健康に深く関わって扱われます。
腎虚の状態では、めまいが慢性化しやすく、高齢者にも多く見られます。
この体質の人は、耳鳴りや難聴、腰痛、膝の弱り、記憶力の低下などが起こることがあります。
瘀血(おけつ)体質
瘀血は、血液の循環が滞っている状態です。
脳への血流が足りないため、回転性のめまいや頭の重さを感じやすくなります。
この体質の人は、肌がくすんで、冷えや痛み、月経不順、しびれなどが起こります。
以上、
めまいと言っても、その成り立ちによりいろいろなタイプがあるため、これらの状態を正しく判断し、治療を行うことが重要です。
めまいに効く漢方薬の代表例
めまいに良い代表的な漢方薬は以下の通りです。
気虚タイプ
適した漢方薬:補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
補中益気湯は「気(=全身のエネルギー)」を高める効果があります。
過労や病後の体力低下で気虚が原因となるめまいに効果的とされています。
胃腸を強化し、気の生成を助けることで、脳へのエネルギー供給を改善します。
血虚タイプ
適した漢方薬:四物湯(しもつとう)
四物湯は血を補い、血の循環を促進する作用があります。
血虚によるめまいに適し、顔の色の悪さや月経不順、肌の乾燥などの症状の改善に用いられます。
痰湿タイプ
適した漢方薬:半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)
痰湿体質によるめまいに適した処方です。
ふらふらする感覚や重だるいめまいに有効とされ、胃腸の弱りやむくみを伴う人にも適しています。
肝陽上亢タイプ
適した漢方薬:天麻鉤藤飲(てんまこうとういん)
天麻鉤藤飲は、肝陽上亢によるめまいに適した処方です。
肝の過剰なエネルギー(陽気)を抑えつつ、脳の血流を改善する作用があります。
ストレス緊張やからくる回転性のめまい、頭痛、不眠、肩こりを伴う場合に用いられます。
感情の変動が大きい人や、高血圧を伴う場合にも効果が期待されます。
腎虚タイプ
適した漢方薬:六味地黄丸(ろくみじおうがん)
六味地黄丸は、腎を補う代表的な処方で、腎虚によるめまいに適しています。
腎虚は老化や疲れが原因で現れることが多く、高齢者に多く見られます。
めまいに、耳鳴りや難聴、記憶力低下、腰痛、膝の弱りなどを伴う場合、腎虚が問題ですのでこの漢方薬で改善の助けとなります。
瘀血タイプ
適した漢方薬:桃核承気湯(とうじょうかくきとう)
桃核承気湯は、血流を改善し、瘀血を解消する作用があります。
血行が悪く、脳への血流が滞って起こる頭重や痛みを伴うめまいに用いられます。
肩こりや手足の冷え、月経不順などが見られる場合に適しています。
以上のように、
「めまいにはこの薬」のような病名からの処方ではなく、「その人の体質・状態にはこの薬」という体質からの処方が勧められます。
ですので、同じめまいに悩むにも異なる漢方薬が出ることも少なくありません。
こういう治療の組み立てをするのが東洋医学です。
めまいに効く鍼灸のツボ
鍼灸も漢方薬と同じく東洋医学の一角ですので、考え方は同様です。
その人の体質・状態から適したツボを選択していきます。
気虚タイプ
適したツボ:足三里(あしさんり)・気海(きかい)
血虚タイプ
適したツボ:三陰交(さんいんこう)・百会(ひゃくえ)
痰湿タイプ
適したツボ:豊隆(ほうりゅう)・陰陵泉(いんりょうせん)
肝陽上亢タイプ
適したツボ:行間(こうかん)・風池(ふうち)
腎虚タイプ
適したツボ:腎兪(じんゆ)・照海(しょうかい)
瘀血タイプ
適したツボ:合谷(ごうこく)・血海(けっかい)
以上、
「めまいに良いツボ」も全身のあちこちにあります。
それは「めまい=頭」という考えでなく「めまい=体質の異常」と捉えるためで、それを改善するツボは全身にあると考えるからです。
漢方薬と鍼灸のどちらかしか選べないなら…
めまいでお悩みのあなたが漢方薬と鍼灸で迷っているとします。
どちらも自費で費用が気になるのも分かります。
どちらも効果的な治療法なのでどちらが良いか迷うのは当然です。
もし私でしたら、まずはどちらでも「自分が気になった方・効きそうと感じた方」から始めてみてはいかがでしょうか。
漢方薬と鍼灸のメリットデメリットをいくつか比較してみます。
漢方薬は費用負担が少ない可能性
漢方薬も漢方薬局などの場合は自費になりますが、保険がきくクリニックなどでの処方は比較的安価(保険適応なので)で、ある程度の期間服用できるため、初期費用を抑えながら様子を見ることができます。
経済的な負担を考慮すると、まずは「病院の漢方薬」を試してみるのもお勧めです。
他にどんな悩みがあるか?で決める
めまいは様々な原因が考えられますし、めまいのみという方も少ないです。
それ以外の体の悩みの傾向で決めていくのも考え方としてはアリです。
漢方薬は内臓系が得意ですので、更年期などホルモンバランスの変化や胃腸症状などが強ければまずは漢方薬から始めるのも良いでしょう。
鍼灸は神経系やコリ痛み系が得意ですので、肩こり・腰痛・頭痛・しびれ・自律神経の乱れなどが強ければ鍼灸から始めるのも良いでしょう。
通院の負担と服用の負担から考える
たとえば鍼灸は治療院に週1回程度通う必要がありますが、漢方薬は2週間に1回程度の通院が多いです。
通院の手間は鍼灸院の方が多いですが、施術日以外はとくに何もしないで済みます。
一方、漢方薬は自宅での服用が必要です。
1日3回、食事と食事の間(食前2時間くらい)に飲むのも手間です。
忙しい患者さんにとって、どちらの方が時間の節約になるでしょうか。
どちらかを選択して、ある程度の期間(1~3ヶ月間ほど)試しても効果が実感できない場合は、もうひとつに切り替えるといいでしょう。
ご自身の症状や経済状況に合わせて、最適な治療法を選択する参考になさってください。
まとめ
最初の結論にもう一度書きます。
「めまいには漢方薬と鍼灸を併用するのがベスト」です。
漢方薬と鍼灸を同時に使うメリットを以下に挙げます。
1)相乗効果の発揮
漢方薬は体の内側から、鍼灸は体の外側から治療を行い、それぞれの効果を高め合います。
2)全身のバランス調整
漢方薬は全身のエネルギーや血流を調整し、鍼灸は経絡を刺激して気の流れを整えるため、体全体のバランスがより良くなります。
3)症状の緩和と根本治療の両立
鍼灸は自律神経系に即効性があり、漢方薬は内臓系を改善するため、両方の効果を同時に期待できます。
4)個別のニーズに対応可能
漢方薬と鍼灸の組み合わせで、患者さんの体質や症状に応じた柔軟な治療プランを作成できます。
めまいだけではなく、肩コリ・胃もたれ・イライラ・冷えのぼせ・腰痛など、メインのお悩み以外の症状も併せ持つ人が少なくありません。
それらには鍼灸の得意分野・漢方薬の得意分野がありますので、併用が最大の効果となります。
5)自然治癒力の最大化
鍼灸の刺激が体の自然治癒力を引き出し、漢方薬がその力を補完することで、治癒力を最大限に引き出せます。
両者を適切に組み合わせることで、東洋医学の全体的な効果をより引き出すことができます。
以上、
一言で言えば『鍼灸と漢方薬は併せて東洋医学』ということですね。
ぜひ西洋医学だけでなく、
東洋医学(漢方薬・鍼灸)も病気治癒や健康増進のために活用することをお勧めいたします。
ちなみに、
漢方薬と鍼灸の違いについてはこちらに書きました。
『漢方薬と鍼灸の違いってなに?』
また、当院は鍼灸院なので鍼灸推しです。
詳細は下記リンクをどうぞ。