東洋医学の根幹「気」とは?|鍼灸師による東洋医学・2
東洋医学の根幹をなす「気」とは?〜現代人のための「気」の養生法〜
日々、患者さんの心身の不調と向き合う中で、東洋医学の世界観の奥深さを改めて実感しています。
今回は、東洋医学の根幹をなす概念でありながら、現代人には少し理解しにくい「気(き)」についてまとめました。
日々の生活に取り入れやすいように解説していきたいと思います。
「気」とは何か?〜東洋医学における生命エネルギー〜
「気」という言葉は、日常生活でも「元気」「病気」「気力」など、様々な場面で使われています。
しかし、東洋医学でいう「気」は、単なる気分や雰囲気とは異なり、生命活動の根源となる「エネルギー」を指します。
現代医学的に「気」を説明するのは難しいです。
強いて言うならば、体を構成する物質(血液や体液など)を動かし、生命活動を維持するための、目に見えない力のようなものと言えるでしょう。
結局「体のエネルギー」ってことですね(苦笑)
「気」の働き〜五つの主要な作用〜
「気」は、身体の中で様々な働きをしています。ここでは、特に重要な五つの作用について解説します。
推動作用(すいどうさよう)
成長、発育、臓腑の活動、血液や体液の循環など、体のあらゆる活動を推し進める力です。
温煦作用(おんくさよう)
体を温める作用です。体温を維持し、内臓を温めて機能を正常に保ちます。
防御作用(ぼうぎょさよう)
外邪(ウイルスや細菌など)の侵入を防ぎ、身体を防御する作用です。
現代医学でいう免疫機能に相当します。
固摂作用(こせつさよう)
体内の物質が漏れ出ないように、しっかりと保持する作用です。
例えば、出血を止めたり、汗や尿の過剰な排出を防いだりします。
気化作用(きかさよう)
物質とエネルギーの変換を行う作用です。
飲食物から栄養を吸収し、エネルギーに変換したり、不要なものを排泄したりします。
これらの作用がバランス良く働くことで、私たちは健康を維持することができます。
「気」の種類〜先天の気と後天の気〜
「気」は、大きく分けて「先天の気(せんてんのき)」と「後天の気(こうてんのき)」の二種類に分類されます。
先天の気
両親から受け継いだ、生まれながらに持っている生命エネルギーの源となるものです。
東洋医学の内臓系のひとつ「腎(じん)」に蓄えられ、成長や発育、生殖能力などに関わります。
後天の気
生まれた後に、飲食物から得られる「水穀の気(すいこくのき)」と、呼吸によって取り込まれる「清気(せいき)」から作られます。
内臓系のひとつ脾胃(=消化器系)で水穀の気が生成され、肺で清気が取り込まれ、これらが合わさって宗気(そうき)となり、全身に運ばれます。
つまり、私たちは生まれ持った「気」だけでなく、日々の食事や呼吸によって「気」を補いながら生きているのです。
「気」の異常〜気虚、気滞、気逆〜
「気」のバランスが崩れると、様々な不調が現れます。
代表的な「気」の異常として、「気虚(ききょ)」「気滞(きたい)」「気逆(きぎゃく)」があります。
気虚
「気」が不足した状態です。
疲れやすい、倦怠感、息切れ、食欲不振、風邪をひきやすいなどの症状が現れます。
気滞
「気」の流れが滞った状態です。
イライラ、憂鬱、胸の張り、腹部の張り、生理不順などの症状が現れます。
気逆
「気」が正常な方向とは逆に、上に昇ってしまう状態です。
のぼせ、頭痛、めまい、吐き気などの症状が現れます。
現代人のための「気」の養生法〜日常生活でできること〜
現代社会はストレスが多く、食生活も乱れがちです。
そのため、「気」のバランスを崩しやすい環境と言えます。
ここでは、日常生活で簡単にできる「気」の養生法をご紹介します。
バランスの取れた食事
栄養バランスの良い食事を規則正しく摂ることは、「気」を養う基本です。
とくに、脾胃の働きを助ける温かい食事を心がけましょう。
質の高い睡眠
十分な睡眠は、「気」を回復させるために不可欠です。
夜更かしを避け、質の高い睡眠を確保しましょう。
適度な運動
適度な運動は、「気」の巡りを良くし、心身のリフレッシュにもつながります。
ウォーキングやヨガなど、無理のない範囲で続けられる運動を取り入れましょう。
深呼吸
深呼吸は、肺から「清気」を取り込み、「気」を活性化する効果があります。
意識的に深い呼吸をすることで、心身を落ち着かせ、リラックス効果も得られます。
ストレスを溜めない
ストレスは「気」の流れを滞らせる大きな原因となります。
自分なりのリラックス方法を見つけ、ストレスを溜め込まないように心がけましょう。
鍼灸治療と漢方薬〜「気」の調整〜
鍼灸治療は、経絡(気の通り道)にあるツボを刺激することで、「気」の流れを調整し、体のバランスを整えます。
また漢方薬は、それぞれの生薬が持つ効能によって、「気」を補ったり、巡らせたり、鎮めたりする効果があります。
気虚(ききょ)に良い漢方薬とツボ
症状:
気の量が不足した状態。疲れやすい、倦怠感、息切れ、食欲不振、風邪をひきやすいなどの症状が現れます。
【漢方薬】
・補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
気を補い、体力を回復させる代表的な漢方薬です。
人参、黄耆(おうぎ)、白朮(びゃくじゅ)などの生薬が含まれており、消化機能を高め、全身の機能を活性化します。
とくに、疲れやすく、食欲不振、胃腸虚弱の人に適しています。
【ツボ】
・足三里(あしさんり)
胃腸の働きを整え、気を補う効果があります。
膝の下、外側のくぼみから指4本分下に位置します。消化不良や食欲不振、全身倦怠感などに効果的です。
・気海(きかい)
下腹部、おへそから指2本分下に位置します。
文字通り「気の海」という意味で、全身の気を活性化する重要なツボです。
気力低下、冷え性、生理不順などにも効果があります。
気滞(きたい)に良い漢方薬とツボ
症状:
気の流れが滞った状態。イライラ、憂鬱、お腹の張り、胸のつかえ、生理不順などの症状が現れます。
【漢方薬】
・半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
気の流れを良くし、精神的な緊張を和らげる効果があります。
喉のつかえ感、不安感、神経性の胃腸症状などに適しています。
【ツボ】
・太衝(たいしょう)
足の甲、親指と人差し指の間にあるツボです。
気の流れをスムーズにする効果があります。イライラ、怒り、頭痛などに効果的です。
・膻中(だんちゅう)
胸の中央、左右の乳頭を結んだ線の中央に位置します。
胸のつかえ、呼吸苦、精神的な緊張などを和らげる効果があります。
気逆(きぎゃく)に良い漢方薬とツボ
症状:
気が正常な方向に流れず、逆方向に上昇した状態。のぼせ、頭痛、めまい、吐き気、咳などの症状が現れます。
【漢方薬】
・桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)
神経の高ぶりを鎮め、気を鎮める効果があります。
動悸、不眠、不安感などを伴う気逆に適しています。
【ツボ】
・百会(ひゃくえ)
頭頂部、左右の耳を結んだ線と体の正中線が交わる所に位置します。
気を鎮め、頭部の症状を改善する効果があります。のぼせ、頭痛、めまいなどに効果的です。
上記の漢方薬やツボはあくまで一般的な例であり、個人の体質や症状によって最適なものを選ぶ必要があります。
詳しくは専門家にご相談ください。
まとめ
「気」は、東洋医学において非常に重要な概念であり、私たちの健康と密接に関わっています。
東洋医学の「気」の知識は、日常生活で自身の体調を管理し、より健康的な生活を送る上で役立ちます。
その例を最後に挙げておきます。
1)体調の変化に気づきやすくなる
「気」は生命エネルギーであり、その流れや量の変化は体調に影響します。
例えば、疲れやすいのは「気虚」、イライラしやすいのは「気滞」の可能性があります。
「気」の概念を知ることで、これらの変化に早く気づき、適切な対処(休息、食事、運動など)を取ることができます。
2)養生法の選択肢が広がる
東洋医学では、体質や症状に合わせて様々な養生法(食事、運動、ツボ押しなど)があります。
「気」の概念を理解することで、自分に合った養生法を選択しやすくなります。
例えば、「気虚」なら気を補う食材を積極的に摂る、「気滞」ならリラックスできる運動をするなど、具体的な対策を立てられます。
3)心身のつながりを意識できる
「気」は心と体の両方に影響を与えます。
ストレスで気が滞ると、体の不調につながることがあります。
このつながりを意識することで、心身両面からの健康管理が可能になります。
例えば、ストレスを感じたら深呼吸をする、軽い運動をするなど、心身のリフレッシュを心がけることで、気の流れを整え、体調を改善することができます。
このように、「気」の知識は、日々の生活の中で自身の体調を管理し、より健康的な生活を送るための羅針盤となるのです。