長年の心労と肩甲骨のコリ、呼吸の苦しさに悩む50代女性の鍼灸症例

長年の心労と肩甲骨のコリ、呼吸の苦しさへの鍼灸治療

心労・肩甲骨コリ・呼吸しづらいへの鍼灸

「家族のことで心労が重なり、肩甲骨のあたりがガチガチに固まってしまった。息苦しくて、食事もなかなか喉を通らない…」

現代社会において、ストレスは避けて通れない課題です。
とくに、家族関係の悩みや仕事のプレッシャーなど、心身に大きな負担がかかる状況は、私たちの健康を深く蝕みます。

今回ご紹介するのは、長年腰痛でお通いの50代女性の症例です

最近、家族のことで大きな悩みを抱えるようになり、背中(特に肩甲骨の間)のひどいコリと痛み、それに伴う呼吸のしづらさ(息を吸えない感じ)、食べづらさ(すぐに満腹になる)を感じるようになったとのことでした

首こりからくる頭痛や腰痛も併発しており、「鍼灸で少しでも楽になれば…」という思いで当院を訪れました。

当院では、東洋医学の視点に基づいた丁寧な問診と施術を通じて、患者様の心身のバランスを取り戻し、本来の健やかな状態へと導くお手伝いをしています。

初診時の症状

・肩甲骨間のひどいコリと痛み
・呼吸のしづらさ(息苦しい、吸いにくい)
・食べづらさ(すぐに満腹になる)
・頭痛(側頭部から前頭部)
・首肩のこり
・強いストレス
・胃もたれ
・腰痛

問診で詳しくお話を伺うと、心労に加え、もともとの疲労やストレスも蓄積していたことがわかりました。
これらの要因が重なり、気の流れが滞って血の巡りが悪くなり(気滞瘀血)、首から背中にかけてのコリとして現れていると考えました。

東洋医学的考察

東洋医学では、心身は一体であり、心(精神)の状態は身体に、身体の状態は心に影響を与え合うと考えます。

この患者さまの場合、長引く心労によって「気」の流れが滞り、「気滞」の状態を引き起こしていると判断しました。
「気」は、生命活動を維持するための根源的なエネルギーであり、その流れが滞ると、様々な不調が現れます。

とくに、心労は「肝」の働きに影響を与えやすいとされています。
「肝」は、気の流れをスムーズにする役割を担っており、ストレスによってその機能が低下すると、気の流れが滞り、肩や首のこり、呼吸のしづらさ、消化不良などの症状が現れると考えます。

また、気の滞りは血の流れにも影響を与え、「瘀血(おけつ)」と呼ばれる血の滞りを引き起こすことがあります。
この患者さまの肩甲骨間のひどいコリは、気の滞りから生じた瘀血が原因であると判断しました。

さらに、東洋医学では、人間は「気・血・水(津液)」のバランスによって健康が保たれていると考えます。

この患者さまの場合、心労によって気の流れが滞り、それが血の流れや水の巡りにも影響を与え、様々な不調を引き起こしている状態でした。

当院では、単にコリをほぐすだけでなく、根本原因である気の流れと血の巡りを改善することを重視しています。

治療方針

上記の東洋医学的考察に基づき、治療方針は以下の3点を柱としました。

気の巡りを改善する:
滞っている気の流れをスムーズにし、心身のバランスを整えます。

血の巡りを改善する:
瘀血を解消し、肩甲骨周辺の血行を促進します。

心身の根本的な力を高める:
心労によって消耗した心身のエネルギーを補い、自然治癒力を高めます。

具体的には、気の巡りを改善するために、気の流れを調整するツボ(経穴)を中心に鍼灸治療を行います。
また、血の巡りを改善するために、瘀血を解消する効果のあるツボや、肩甲骨周辺の血行を促進するツボを選択します。
さらに、心身の根本的な力を高めるために、身体のエネルギーを補う効果のあるツボにアプローチします。

治療内容と経過

1回目:
首から肩のコリの局所、肩甲骨間のコリ(心兪から肝兪辺り)にパルス鍼(鍼に微弱な電気を流す治療法)を施し、その後にお灸を行いました。
とくに強いコリの部分には円皮鍼(小さな鍼をテープで固定する治療法)を使用しましました。

また、全身の気の流れを整えるために、「関元」「中脘」に温灸を施し、「内関」「曲池」「陽陵泉」「足三里」「太衝」に置鍼(鍼を一定時間置いておく治療法)を行いました。

2回目(1週間後):
患者さまからは「まだコリは残るものの、改善はみられる」との報告がありました。
1回目の治療に準じた施術を行いました。

3回目(10日後):
肩甲骨周辺のコリはさらに軽減傾向にあり、それに伴い息苦しさや食べづらさも改善傾向にあるとのことでした。
この日も1回目の治療に準じた施術を行いましたが、患者様の状態に合わせてお灸や円皮鍼の場所を変えたり、パルスの強さを調整するなど、臨機応変に対応しました。

その後も継続的に治療を続け、症状は着実に改善していきました。

患者さま自身も、家族の問題という心労に加え、更年期の影響やこれまでの疲労の蓄積が体に現れていることを自覚し、栄養療法などを始められていました。

当院の鍼灸治療は、そのようなトータルケアの一環として活用していただいています。

使用した主なツボとその代表的な効果

この治療で使用した主なツボとその代表的な効果をご紹介します。

心兪(しんゆ):
心の機能を調整し、精神安定作用がある。

肝兪(かんゆ):
肝の機能を調整し、気の流れをスムーズにする。

関元(かんげん):
全身のエネルギーを高め、免疫力を向上させる。

中脘(ちゅうかん):
胃腸の機能を整え、消化不良や胃もたれを改善する。

内関(ないかん):
精神安定作用があり、吐き気や動悸を鎮める。

曲池(きょくち):
血行を促進し、肩や腕の痛みを和らげる。

陽陵泉(ようりょうせん):
筋肉や関節の痛みを和らげ、足の痺れを改善する。

足三里(あしさんり):
胃腸の機能を整え、全身のコンディションを整える。

太衝(たいしょう):
気の流れをスムーズにし、精神的な緊張を和らげる。

これらのツボを組み合わせることで、患者様の症状に合わせた効果的な治療を行うことができました。

まとめ

この症例を通して、心労が身体に及ぼす影響、そして鍼灸治療がその改善にどのように貢献できるのかをご理解いただけたかと思います

今回のケースでは、近年の心労に加え、長年の疲労やストレスが症状を悪化させていると考えられました。
そのため、すぐに劇的な改善を期待するのではなく、日常生活(食事、運動、睡眠など)の見直しと並行して、鍼灸治療で体質を根本から改善していくことが重要です。

当院では、肩や背中のコリを丁寧にほぐし、気血の巡りを改善することで、内臓機能の回復をサポートします。

症状別のページも参照ください。

肩こり

頚椎症

自律神経失調症