東洋医学と西洋医学との違い|鍼灸師による東洋医学・1

東洋医学と西洋医学(現代医学)の違いとは?

東洋医学のと西洋医学の違い・写真1
東洋医学の基本的な考え方や、日々の生活に取り入れられる養生法などを、分かりやすく解説しています。
今回は東洋医学の入り口として、現代医学(西洋医学)との違い、とくに「全体観」という視点について、掘り下げて解説していきたいと思います。

「木を見て森を見ず」と「木も見て森も見る」:視点の違い

現代医学と東洋医学の違いを説明する際に、よく使われるのが「木を見て森を見ず」と「木も見て森も見る」という例えです。
これは、物事を見る視点の違いを表しています。

現代医学は「木を見て森を見ず」

現代医学は、病気の原因を特定し、その部分を治療することに重点を置いています。
例えば、感染症であれば原因となる細菌やウイルスを特定し、それに対する薬を投与します。
骨折であれば、レントゲンなどで骨の状態を確認し、適切な処置を行います。

これは、一本の「木」(病気の原因や患部)に注目し、それを直接的に治療するというアプローチです。
非常に効率的で、感染症や外科的な疾患などに対しては大きな効果を発揮します。
局所的な問題に対して、ピンポイントで対処するスペシャリストと言えるでしょう。

東洋医学は「木も見て森も見る」

一方、東洋医学は、「体全体をひとつのシステム」として捉え、心身の「バランス」を重視します。
病気の原因だけでなく、その人の体質、生活習慣、精神状態、環境など、様々な要因が複雑に絡み合って病気を引き起こしていると考えます。
そのため、病気の部分だけでなく、全体的なバランスを整えることで、自然治癒力を高め、根本的な改善を目指します。

これは、「木」(病気の原因や患部)だけでなく、「森」(身体全体のバランス)も見るというアプローチです。
全体を俯瞰し、根本的な原因を探るジェネラリストと言えるでしょう。

たとえば「風邪」でも異なるアプローチ

具体的な例として、風邪の捉え方の違いを見てみましょう。

現代医学の風邪の捉え方

特定のウイルスや細菌の感染によって引き起こされる疾患と捉えます。
検査によって原因となる病原体を特定し、それに対する薬(抗ウイルス薬、抗菌薬、解熱剤、鎮痛剤など)を投与します。

症状を緩和することを主な目的とし、原因となる病原体への直接的な攻撃、もしくは症状を抑えることで、身体の回復をサポートします。

東洋医学の風邪の捉え方

体の「正気(せいき)」と呼ばれる免疫力や抵抗力と、「外邪(がいじゃ)」と呼ばれる外部からの影響(寒さ、暑さ、湿気など)のバランスが崩れた状態と捉えます。
同じウイルスに感染しても、体力や免疫力が低下している人は発症しやすく、症状も重くなると考えます。

東洋医学では、風邪のタイプを「風寒(ふうかん)」「風熱(ふうねつ)」「風湿(ふうしつ)」などに分類し、それぞれに合った治療を行います。

【風寒タイプ】
寒気、悪寒、サラサラの鼻水、首や肩のこわばり、関節痛などの症状が現れるタイプ。
体を温め、発汗を促す治療(漢方薬なら葛根湯など)を行います。

【風熱タイプ】
発熱、喉の痛み、黄色い鼻水、口の渇き、頭痛などの症状が現れるタイプ。
体の熱を冷まし、炎症を抑える治療(漢方薬なら銀翹散など)を行います。

【風湿タイプ】
頭重感、身体のだるさ、関節の重だるさ、下痢などの症状が現れるタイプ。
体内の余分な水分を取り除く治療(漢方薬なら半夏厚朴湯など)を行います。

このように東洋医学では、同じカゼでも、その人の体質や症状に合わせて、治療方法を変えるのです。
これは、個々の「森」の状態に合わせて、最適なアプローチを選択していると言えるでしょう。

東洋医学の全体観を支える基本概念

東洋医学のと西洋医学の違い・写真2
東洋医学の全体観を支える重要な概念として、「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」という考え方があります。
これらは、体を構成する基本的な要素であり、互いに影響し合いながら、生命活動を維持しています。

気血水

【気】
生命活動の根源となるエネルギー。
体を動かし、温め、防御するなどの様々な働きを持ちます。

【血】
血液とその中に含まれる栄養。全身に栄養を運び、臓腑を滋養する役割を持ちます。

【水】
血液以外の体液(リンパ液、唾液、汗、尿など)。体を潤し、老廃物を運搬する役割を持ちます。

これらの要素がバランス良く体内を巡ることで、私たちは健康を維持することができます。
これらのバランスが崩れると、様々な不調が現れると考えます。

例えば、気が不足すると疲れやすくなったり、血が不足すると貧血になったり、水の巡りが悪くなるとむくみやすくなったりします。

陰陽五行

また、「陰陽五行説(いんようごぎょうせつ)」も東洋医学の重要な理論です。

【陰陽説】
すべてのものは「陰」と「陽」の二つの性質に分けられるという考え方。
例えば、昼と夜、男性と女性、熱と冷、動と静など、対照的な性質を持つものが、互いにバランスを取りながら存在しています。

【五行説】
自然界のすべてのものは、「木・火・土・金・水」の五つの要素で構成されているという考え方。
五行は互いに影響を与え合い、変化していくと考えます。例えば、「木は火を生じ、火は土を生じ、土は金を生じ、金は水を生じ、水は木を生じる」という相生関係や、「木は土を剋し、火は金を剋し、土は水を剋し、金は木を剋し、水は火を剋する」という相剋関係があります。

これらの理論を人体に当てはめ、臓腑や生理機能との関係を説明することで、身体全体のバランスを理解しようとします。

例えば、肝は「木」に属し、怒りの感情と関連付けられたり、腎は「水」に属し、生命力や成長と関連付けられたりします。

体調不良を感じた時に意識すること〜日常生活への応用〜全体観を活かすヒント〜

では、日常生活で体調不良を感じた時に、東洋医学の全体観をどのように活かせるでしょうか?
以下に具体的なヒントと養生法を紹介します。

体の声に耳を傾ける

疲れやすい、食欲がない、眠れない、イライラする、便秘がちなど、身体が発するサインに注意を払いましょう。
これらのサインは、体のバランスが崩れていることを教えてくれています。

生活習慣を見直す

食事、睡眠、運動、仕事、人間関係など、生活習慣全体を見直してみましょう。
偏った食生活、睡眠不足、運動不足、過労、ストレスなどは、心身のバランスを崩す大きな原因となります。

心身のリラックス

ストレスは心身のバランスを崩す大きな原因となります。
自分に合ったリラックス方法を見つけ、積極的に取り入れるように心がけましょう。
例えば、深呼吸、瞑想、ヨガ、散歩、音楽鑑賞、趣味の時間など、自分が心地よく感じることを行うことが大切です。

バランスの取れた食事

栄養バランスの良い食事を規則正しく摂ることは、基本中の基本です。
とくに、温かい食事を摂るように心がけましょう。
東洋医学では、冷たい食べ物や飲み物は、胃腸を冷やし、消化機能を低下させると考えます。

質の高い睡眠

十分な睡眠時間を確保し、質の高い睡眠をとることは、心身の回復に不可欠です。
夜更かしを避け、規則正しい生活リズムを心がけましょう。

適度な運動

ウォーキングやヨガ、ストレッチなど、無理のない範囲で続けられる運動を行うことは、血行を促進し、気の巡りを良くする効果があります。

深呼吸

意識的に深い呼吸をすることで、心身をリラックスさせ、気の流れを整える効果があります。

ツボ押し・セルフお灸

体の特定の部位(ツボ)を刺激することで、不調を改善する効果が期待できます。
例えば、足三里(あしさんり)というツボは、胃腸の調子を整える効果があると言われています。

これらの養生法は、特定の症状を改善するだけでなく、体全体のバランスを整え、自然治癒力を高める効果があります。
現代医学的な治療と併用することで、より効果的な健康管理を行うことができるでしょう。