鍼灸の会報誌に寄稿したハナシ
三旗塾
鍼灸の勉強会・三旗塾に、昔からお世話になっています。
鍼灸学生の頃に勉強会に参加するようになり、北海道や静岡県にいて参加できない時期もありましたが、かれこれ通算25年ほど。
代表の金子先生の講義に惚れて勉強会に参加し始め、その後もご無沙汰していた時期があるにもかかわらず、何か機会があるごとに誘いの声をかけていただき、その気持ちが本当に嬉しくここまできました。
ご縁だなぁと思っています。
数年前は、東京穴性研究会という新プロジェクトの勉強会に誘っていただき企画から数年ご一緒させていただきました。
そこで鍼灸師の仲間もでき、楽しくも充実する時間を過ごせました。
基本的には組織でワイワイやるよりひとりで気ままにやるタイプなので、今でも独学で生きています。
そうは言ってもやはり人との交流から得られるものもあり、このようなご縁には本当に感謝です。
『千日会報』第30号
三旗塾の名物は、
年に1回の「オープン講座」と年2回発行の「会報誌」。
オープン講座は、
鍼灸関連で活躍されている人をお招きして講義してもらうイベント。
流派や組織の壁を越えて多様な人が毎回講義される興味深いイベントです。
一方、
会報誌は『千日会報』という名称で、会員の先生たちがその号ごとのテーマに合わせた論文を持ち寄る(依頼を受けて寄稿される)形式です。
鍼灸の会報誌らしく「食欲不振」がテーマだったり「血虚」がテーマだったり…。
で、
今回は30号という区切りの記念で、ちょっと力を入れたようです。
「中医学および日本鍼灸の今とこれから」という大きなテーマが出されました。
そこに私の元にも「何か書かない?」と依頼が来ました。
最初の気持ち
最初は少々ひるみました(笑)
鍼灸業界の片隅でつつましやかに鍼灸院を営むだけの自分には荷が重いだろう…と。
鍼灸学校の関係者(先生など)や勉強会を代表する人など大勢の鍼灸師に人脈がある人たちが適任だろう。
もしくは、鍼灸関連の書籍や道具のメーカーの人など、鍼灸師とは違った目線で業界全体を見る人も面白いかも…!?と。
最初は「これは丁重に断ったほうが良いだろう」と思いました。
思考プロセス
ただしその後も、
「もしも書くならどんな切り口で書けるだろうか?」と考えてはいました。
前向きな内容にしよう
鍼灸業界は、とかく卑屈や悲観的な意見が少なくないです。
曰く「とっても食べていけない資格」「実際には鍼灸をやってない鍼灸師が多数」「業界の意見を取りまとめられるような中心団体がない(できない)」「鍼灸師の資格を取ると結婚できない(食べさせていけないから)」…など。
なかには「将来、鍼灸は残っても鍼灸師は絶滅する」…とも。
そういう意見が荒唐無稽ではなく一理あることは、私自身が分かっています。
でもそれをそのまま書いても「だから何?」となるじゃないですか。
日記やブログで呟く独り言ではないので、お金を払って読む人がいます。
その人たち(ほとんどが鍼灸師や鍼灸学生さんだと思われます)が、自分でも感じているような悲観論を今さら聞かされてもなぁ…と思うわけです。
どうせなら前向きになれるような話がいいよな、と。
個人的な内容で分かりやすく書こう
鍼灸業界全体の楽観的な未来を書いても良いのですが、いち鍼灸師の私が「業界」を論じられるわけがないのです(笑)
なのでそれは無理。
ネットで調べたような内容を切り貼りしてもつまらないし…。
私が伝えられる鍼灸ナマ情報は何かと言えば、もうこれは自分のことしかないわけです。
ですので、
最初はいち鍼灸師が見てきた業界の話を書こうかと考えました。
私が実際に見聞きした時代のトレンドにはパッと思いつくだけでも以下がありました。
・保険鍼灸の規制緩和。
・介護保険が始まって介護業界に進出。
・鍼灸とは関係ない業界とのコラボ(喫茶店と鍼灸院など)。
・鍼灸学校の大量開校で鍼灸師の大増加。
・美容鍼灸が流行した。
…など。
ただ、
これらについての私見を書き出してみたものの…ちょっと面白くない。
ふ~む、困った。
こうなればそのまんま自分事を書くしかないか…と自分のヒストリーから書き出しました。
少なくともオリジナリティだろう、と。
あとは、文章は小難しく書くよりも簡単にを心がけました。
まぁ難しい文章は書けないってのもあります(笑)
読む人が負担なく読んでくれたら嬉しいな、と思ってです。
何か役立つことをひとつ
自分の鍼灸師歴を語っても、読み手にそれは「ふーん」です。
そういう人もいるよね、というだけのハナシ。
それでは読んでもらって申し訳ない。
何か役立つことを一つでも盛り込みたい、と考えました。
ちょうどその頃、
普段の施術の際に考えていたのがツボを探す方法でした。
ツボ(経穴)には反応があります。
皮膚やその下の皮下・筋肉などが、硬くなったり・へこんだり・色がくすんだり・盛り上がったり。
そういう変化をツボとして鍼灸するわけです。
鍼灸師で経験の浅い人がツボを探す時に、一番わかりやすいのは何だろう?と考えていて、それはやはり圧痛硬結ではないか、と。
初心者が大事にしたら良いことは、おそらく上級になっても大事なことでしょう。
基礎の基礎が、おそらく本質に近いのではないか、と考えました。
その事に少しだけ触れれば、読んでくれた人(ターゲットは学生さんや経験の浅い鍼灸師さん)の施術に役立つだろう。
自分のヒストリーに半ば無理やりツボを探す方法を押し込みました。
これは文の流れとしてスマートではなかったな、と今でも感じています(苦笑)
会報誌の執筆陣に驚愕
結局、自由に書かせていただく前提で寄稿しました。
で先日、完成した会報誌が届きました。
じつはこの時までこの号に誰が論文を出すのか知りませんでした。
目次の執筆陣を見て驚愕!
皆さん、超有名人ばかりじゃないですか!
内容も、
・もっともっと深く学び、学を深めろ!との論。
・古典を学んでこその鍼灸であるとの論。
・歴史を知って知見を深めようとの論。
・現代医学と競合するでなく調和することの必要性の論。
…などなど、とても一言では書ききれません。
ドレスコードあるレストランにTシャツとジーンズで入っちゃったような居心地の悪さ…(笑)
アチャーやっちまったな、と。
でも、もう取り消せません。
まぁ、他の名だたる先生たちの素晴らしい論文の間に挟まった「箸休め」な存在として軽く読んでくれたらいいかな、と己を慰めました(苦笑)
褒められて自己満足
そんな折、
お世話になった大先輩の先生とメッセージでやり取りすることがありました。
その中で、
「会報誌を読みました、良い文章でした。私は一番良かったと思ってます」といただきました。
まぁ、十中八九お世辞でしょう(笑)
それでも嬉しいですね。
他の誰か一人にでも何かしら響いてくれたら…、それだけで書いた意味があったってもんだと思っています。
文章にはしてないですが、
鍼灸業界の現状と未来について、少なくとも自分なりにいろいろと考えた時間でした。
これも貴重な時間でした。
このようなチャンスをいただいたことにも感謝です。