生理不順と不妊への鍼灸症例
生理不順を体質改善から妊娠へ導いた鍼灸治療
近年、晩婚化やライフスタイルの変化に伴い、不妊に悩むご夫婦が増加傾向にあります。
長年不妊治療に取り組んでいるにもかかわらず、なかなか結果が出ないという切実なご相談が、当院にも数多く寄せられます。
西洋医学的な治療と並行して、東洋医学の鍼灸を取り入れることで、体質を根本から改善し、妊娠しやすい身体づくりを目指すというアプローチが不妊鍼灸です。
今回は、生理不順と不妊でお悩みだった30代女性が、当院の鍼灸治療を通して自然妊娠に至ったケースです。
この症例を通して、鍼灸が不妊にどのように作用するのか、体質改善がいかに重要なのかをご理解いただければ幸いです。
患者さまについて
年齢:30代
性別:女性
主訴:一人目不妊
既往歴:元々生理不順(周期30~90日)
妊活歴:
2年前から自分たちでタイミングをとるもうまくいかず、1年前から婦人科の病院にかかる。
婦人科での診断:
本人(妻)には生理不順がホルモンバランスの乱れなどが原因しているかもと指摘。
別に男性不妊が判明。
西洋医学での治療:
排卵誘発剤を使用した人工授精を行っている。
そのうち体外受精へのステップアップも検討している。
その他の症状:
週2~3回ほどの頭痛(鎮痛薬を服用)
この患者さまは、2年前から妊活をスタートされていましたが、元々の生理不順が影響し、なかなか妊娠に至りませんでした。
婦人科を受診し、検査を受けた結果、生理不順とご主人の男性不妊が判明しました。
その後、排卵誘発剤を用いた人工授精を試みましたが、結果が出ず、体外受精へのステップアップを考えていた時期に、病院でできる以外のことも試したいと、当鍼灸院へいらっしゃいました。
東洋医学的考察
東洋医学では、妊娠は「腎(じん)」の働きと深く関わっていると考えます。
「腎」は、生命の根源的なエネルギーである「精(せい)」を貯蔵し、成長・発育・生殖を司る臓腑です。
この患者さまは、30代後半という年齢に加え、長年の生理不順があることから、「腎」のエネルギー不足である「腎虚(じんきょ)」の状態にあると判断しました。
また、生理不順は「肝(かん)」の働きとも密接に関係しています。
「肝」は、血(けつ)を貯蔵し、全身の血の巡りを調整する役割を担っています。
「肝」の機能が低下すると、血の巡りが滞り、「瘀血(おけつ)」と呼ばれる状態を引き起こし、生理不順や生理痛、不妊などの原因となります。
さらに、消化吸収を司る「脾(ひ)」の機能低下も、妊娠に影響を与えます。
「脾」は、飲食物から栄養を吸収し、全身に運搬する役割を担っています。
「脾」の機能が低下すると、栄養不足となり、妊娠を維持するためのエネルギーが不足してしまいます。
これらの東洋医学的な観点から、この患者様は「腎虚」を根本原因とし、「肝」の機能低下による「瘀血」、そして「脾」の機能低下が複合的に影響し、不妊に至っていると考えました。
治療方針
上記の東洋医学的考察に基づき、以下の治療方針を立てました。
「腎」を補う:
生命エネルギーを補い、生殖機能を高める。
「肝」の機能を整え、「瘀血」を改善する:
血の巡りをスムーズにし、生理周期を整える。
「脾」の機能を高める:
栄養状態を改善し、妊娠を維持するためのエネルギーを補う。
全身の気血の巡りを促進する:
心身のリラックスを促し、自然治癒力を高める。
これらの治療方針に基づき、鍼灸治療を行うことで、体質を根本から改善し、妊娠しやすい身体づくりを目指しました。
治療経過
1~6回目:
「大巨」辺りに硬結があり棒温灸。
その他の「下腹部の反応点」にお灸。
「合谷」「陰陵泉」「三陰交」「太衝」「太谿」に置鍼。
「天柱」「風池」「完骨」「心兪」「肝兪」「腎兪」に置鍼+円皮鍼。
「脊中」「命門」に棒温灸。
婦人科では排卵誘発剤を用いた人工授精を実施。
鍼灸治療では、腎・肝・脾を補うツボを中心に、気血の巡りを促進するツボ、リラックス効果のあるツボを選穴。
鍼灸治療は週1回のペースで行いました。
婦人科での治療(人工授精)と並行して鍼灸治療を行うことで、相乗効果を期待しました。
7回目:
6回目以降4ヶ月の中断がありました。
その後、西洋医学の不妊治療が体外受精へのステップアップするのに合わせて、鍼灸治療を再開。
施術内容はほぼ初回と同様。
8~24回目:
1回目の胚移植はうまくいかず、2回目の採卵と凍結胚移植で無事妊娠。
頭痛に対しては、頭痛に対応するツボを追加。
鍼灸治療開始から約9ヶ月(中断期間を含む)で妊娠に至りました。
とくに4ヶ月の中断期間を経て、週1回のペースで鍼灸を再開してから4ヶ月で妊娠に至ったことは、体質改善にはある程度の期間が必要であることを示唆しています。
使用した主なツボとその代表的な効果
関元(かんげん):
腎の気を高める作用があり、婦人科系にも重要なツボ。
中脘(ちゅうかん):
それぞれ「気」と「脾胃」の働きを高め、妊娠しやすい体の土台を作ります。
合谷(ごうこく):
万能のツボ。全身の気血の巡りを整え、とくに上半身の症状(頭痛など)に効果を発揮します。
陰陵泉(いんりょうせん):
水分代謝を改善し、婦人科系の不調を整えます。
三陰交(さんいんこう):
女性特有の症状に効果的なツボ。三陰交は「肝」「脾」「腎」の経絡が交わる重要なツボで、お灸を行うことで、より効果を高めます。
太衝(たいしょう):
「肝」の働きを整える作用があり、神的な緊張を和らげ、リラックス効果も期待できます。
太谿(たいけい):
「腎」の働きを高めるツボ。
肝兪(かんゆ)/脾兪(ひゆ)/腎兪(じんゆ)/次髎(じりょう):
背部にある各臓腑に対応するツボ。各臓腑の機能を調整し、全身のバランスを整えます。
これらのツボを組み合わせて使用することで、患者様の体質に合わせたオーダーメイドの治療を提供しました。
まとめ
鍼灸治療による体質改善が不妊に対して有効な手段の一つであること例示となりました。
とくに、体全体から体質改善すること=妊娠しやすい体づくり、といえます。
こういう視点で治療するのが鍼灸の大きな特徴です。
当院では、患者様一人ひとりの体質や症状に合わせた丁寧なカウンセリングと施術を心掛けております。
不妊でお悩みの方は、東洋医学の力で、妊娠に向けたサポートを試してみてください。
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