不妊、自律神経の乱れ、不眠への妊活鍼灸の症例
不眠や自律神経の乱れがある方の不妊鍼灸治療
近年、晩婚化やライフスタイルの変化に伴い、不妊に悩むご夫婦が増加傾向にあります。
また、ストレス社会を反映してか、自律神経の乱れや不眠といった症状を抱える方も少なくありません。
当院では、不妊治療と並行して、これらの症状に対する鍼灸治療にも力を入れており、心身両面からのサポートで妊娠しやすい体づくりを目指しています。
今回は、自律神経系の乱れのある方で妊娠に至った症例をご紹介します。
同じようなお悩みを抱える方々に希望と安心をお届けできればと思います。
患者さまについて
年齢・性別:
30代の女性
妊活歴:
2年前に妊活を開始され、当初は自分たちでタイミングを試されていましたが、半年経過しても妊娠に至らず。
6か月後に婦人科を受診されました。
検査の結果、とくに問題は指摘されませんでした。
その後も自分たちでタイミングを継続する中で一度妊娠されました。
しかし、残念ながら妊娠8~9週で稽留流産となり、処置を受けられました。
この経験から心身の不調をきたし、一時的に妊活を中断。
その後、自律神経失調症と診断され、漢方薬を服用されていました。
5ヶ月前から婦人科のクリニックでの不妊治療を再開。
風疹ワクチン接種後の休止期間を経て、2ヶ月前からタイミング指導を受けられましたが、妊娠には至らず。
不妊専門病院への転院を決意。
当鍼灸院を受診されたのは、ちょうど初めて不妊専門病院を受診された直後でした。
主な症状:
・一人目不妊
・自律神経の乱れ(手足の冷えと顔のほてり、発汗)
・不眠(寝つきの悪さ)
・胃痛
・疲労感
・過去にうつ症状を患った経験もあり。
これらの症状は、心身のバランスが大きく崩れていることを示しており、妊娠を望む上で大きな障壁となっていました。
東洋医学的考察
東洋医学では、心身は密接に繋がり、互いに影響を及ぼし合っていると考えます。
この患者さまの場合、過去の流産経験やその後の心身の不調から、「心(しん)」と「肝(かん)」の気の流れが滞っている状態(気滞)と捉えました。
「心」は精神活動を司り、ストレスや精神的なショックの影響を受けやすい臓腑です。
「肝」は気の巡りをスムーズにする働きがあり、ストレスの影響を受けると気の流れが滞りやすくなります。
また年齢(40歳に近い)や疲労感から、「腎(じん)」のエネルギー不足(腎虚)も考慮しました。
「腎」は成長、発育、生殖を司る臓腑であり、妊娠と深く関わっています。
これらの状態が複合的に影響し、自律神経の乱れ、不眠、胃痛、疲労感といった症状を引き起こしていると考えました。
治療方針
上記の東洋医学的考察に基づき、当院では以下の治療方針を立てました。
・気の巡りを改善し、「心」と「肝」の気滞を解消する。
・「腎」のエネルギーを補い、妊娠しやすい体質を整える。
・自律神経のバランスを整え、不眠やその他の症状を緩和する。
・リラックス効果を高め、心身の緊張を和らげる。
これらの目的を達成するために、鍼とお灸での治療を行うこととしました。
治療経過
1回目:
「中脘」「関元」に棒温灸。
「合谷」「足三里」「陰陵泉」「太衝」「太谿」に置鍼。「三陰交」にせんねん灸。
「太衝」に円皮鍼を追加。
足先にホットパック。
「風池」「心兪」「肝兪」「腎兪」「次髎」に置鍼。
「脊中」「命門」に棒温灸。
初回の治療では、気の巡りを促進するツボやリラックス効果のあるツボを中心に施術を行いました。
棒温灸で体を温め、鍼で気の流れを整え、せんねん灸で心地よい温熱刺激を与えました。
2回目(1週間後):
初回の治療後に、鍼を刺した部位に発赤やかゆみが出現したため、金属アレルギーを考慮し、置鍼(鍼を一定時間刺したままにする方法)を単刺(鍼を刺してすぐに抜く方法)に変更。
置き鍼である円皮鍼の代わりにパイオネックスゼロ(鍼ではなく突起があるタイプの円皮鍼)を使用することにしました。
これにより、アレルギー反応を抑えながら治療を継続することができました。
その後は週に1回のペースで治療。
その都度、患者さまの状態に合わせてツボの選択や施術方法を調整しました。
胃痛や不眠を訴える際には、それぞれの症状に効果的なツボを追加し、パイオネックスゼロを貼付することで、症状の緩和を図りました。
10回目の治療後、不妊専門病院で採卵が行われ、2つの胚盤胞の凍結卵が得られました。
その後、歯科での抜歯治療の影響で治療間隔が空きましたが、11回目、12回目の治療では、移植周期に入り、緊張から寝つきが悪くなったり、胸が詰まるような感覚があるとの訴えがあったため、リラックス効果を高めるツボを追加しました。
13回目の治療で、胚移植の結果が陽性であったことが報告されました。
その後は、胎嚢も確認でき、病院での経過も順調だったため、つわり症状の緩和を目的とした治療を行い、妊娠9週で不妊専門病院を卒業されたのを機に、鍼灸治療も終了となりました。
使用した主なツボとその代表的な効果
中脘(ちゅうかん):
胃の不調、消化不良、吐き気などに効果があります。
関元(かんげん):
生殖機能、泌尿器系の不調、冷えなどに効果があります。
合谷(ごうこく):
全身の気の巡りを整え、痛みやストレスの緩和に効果があります。
足三里(あしさんり):
胃腸の働きを整え、免疫力向上、疲労回復などに効果があります。
陰陵泉(いんりょうせん):
水分代謝を整え、むくみ、冷えなどに効果があります。
太衝(たいしょう):
肝の機能を整え、気の巡りを改善、精神安定などに効果があります。
太谿(たいけい):
腎の機能を高め、生殖機能、冷えなどに効果があります。
三陰交(さんいんこう):
女性特有の症状(月経不順、不妊、更年期障害など)に効果があります。
風池(ふうち):
首や肩のこり、頭痛、めまいなどに効果があります。
心兪(しんゆ):
心の安定、精神的な緊張の緩和などに効果があります。
肝兪(かんゆ):
肝の機能を整え、気の巡りを改善、イライラなどに効果があります。
腎兪(じんゆ):
腎の機能を高め、腰痛、冷え、生殖機能などに効果があります。
次髎(じりょう):
腰痛、坐骨神経痛、婦人科系の疾患などに効果があります。
脊中(せきちゅう):
自律神経の調整、消化器系の不調などに効果があります。
命門(めいもん):
全身のエネルギーを高め、腰痛、冷え、生殖機能などに効果があります。
神門(しんもん):
精神安定、不眠などに効果があります。
内関(ないかん):
胸のつかえ、吐き気、動悸などに効果があります。
神道(しんどう):
精神安定、不眠などに効果があります。
至陽(しよう):
胸の痛み、背中の痛みなどに効果があります。
まとめ
この症例では、鍼灸治療開始から約4ヶ月で妊娠に至りました。
患者さまは、鍼を刺した部位に発赤が出やすいという特異体質でしたが、施術方法を工夫することで治療を継続することができました。
また、ストレスや疲れによって心身に影響が出やすいタイプの方だったため、その都度症状に合わせてツボを選択し、丁寧なカウンセリングを行うことで、心身両面からのサポートを心掛けました。
今回のケースでは、初回の体外受精で妊娠に至ることができ、前回の流産という辛い経験を乗り越え、無事妊娠初期を維持できたことは、患者さまにとっても、当院にとっても大変喜ばしい結果となりました。
当院では、不妊だけでなく、自律神経の乱れや不眠など、様々な症状に対応しております。
お一人おひとりの状態に合わせた丁寧な施術を心掛けております。
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