体外受精への鍼灸症例
体外受精への鍼灸治療
不妊に悩むカップルが増加傾向にあります。
とくに20代での不妊は、ご本人にとって大きな精神的負担となる場合も少なくありません。
不妊治療の方法も多様化する中で、近年注目を集めているのが鍼灸治療です。
鍼灸は、身体が本来持つ自然治癒力を高め、心身のバランスを整えることで、妊娠しやすい体づくりをサポートします。
今回は、体外受精を控えた20代女性に対し、鍼灸治療を行い、無事妊娠に至った症例をご紹介します。
この症例を通して、鍼灸が不妊治療において果たす役割をご理解いただければ幸いです。
患者さまについて
年齢・性別:
20代女性。
鍼灸院に来るまでの経緯:
7~8年前から生理痛がひどく、吐いてしまうほど辛い症状に悩まされていました。
婦人科を受診したところ、「子宮内膜症」と診断され、ピルの処方を受けていました。
2年半前から妊活を開始し、以前の婦人科疾患もあったことから、すぐに近所の婦人科クリニックを受診しました。
20代後半と若かったため、「排卵誘発剤を使ってのタイミング療法」から治療がスタートしました。
しかし、1年ほど経っても結果が出なかったため、不妊専門病院へ転院します。
そこで「高プロラクチン血症」「多のう胞性卵巣症候群(PCOS)」「AMH値が低い」などの診断を受けました。
人工授精(AIH)を2回ほど行った後、引越しを機に別の不妊専門病院へ転院しました。
そこではすぐにステップアップして体外受精を行うことになりました。
採卵の結果、5個の卵子を胚盤胞にて凍結できました。
1回目の移植は上手くいかず、2ヶ月ほど時間をおいて次の移植を予定していました。
この期間に、病院以外でもできることをしたい、体調を整えたいと、鍼灸治療を希望し来院されました。
体の状態は、生理痛は以前ほどではないものの、肩こり・腰痛、下半身の冷え、基礎体温が低温期に35度台(35.3度など)、胃もたれ(胃痛しやすい)、疲れ感などが見られました。
東洋医学的考察
東洋医学では、妊娠は気血の充実と流れがスムーズであることが重要と考えます。
この患者さまの場合、脈状が「沈」であり、冷えと疲れ感を強く訴えていたことから、身体を温めるエネルギーである「陽気」の不足、つまり「陽虚」の状態であると判断しました。
また、胃もたれや疲れ感からは、飲食物からエネルギーを生成する「脾」の機能低下も示唆されました。
さらに、子宮内膜症の既往歴や低温期が低いことなどから、「腎」の機能低下、特に生殖機能を司る「腎陽虚」の状態も考慮する必要がありました。
これらの状態は、気血の巡りを滞らせ、子宮や卵巣への栄養供給不足を招き、妊娠を妨げる要因となると考えられます。
治療方針
上記の東洋医学的考察に基づき、治療方針は「補陽益気(ほようえっき)」、つまり身体を温め、エネルギーを補うことを中心としました。
とくに、脾と腎の機能を高め、気血の生成を促すことを重視しました。
冷えに対しては、お灸やホットパックなどを多用し、身体の内側から温めることを心掛けました。
また、精神的なストレスも妊娠に影響を与えるため、リラックス効果の高い施術を心がけ、心身両面からのアプローチを行いました。
治療経過
1回目;
仰向けで、「関元」「中脘」に棒温灸とお灸を施し、「肓兪」「足三里」「三陰交」「太谿」に置鍼をしました。足先にはホットパックを当て温めました。
うつ伏せで、「心兪」「肝兪」「脾兪」「次髎」に置鍼を行いました。さらに腰部分にはお灸を追加し下半身の冷えを重点的に温めました。
2回目から5回目(週に1回ペース):
三陰交にお灸を追加した以外は、基本的に初回と同様の治療を継続しました。
5回の治療を終えた時点で、移植が行われました。
移植後、鍼灸治療6回目と7回目の治療では、鍼の刺激量を抑え、浅く置鍼し、棒温灸を長めに当てるなど、刺激量を落とした治療を行いました。
8回目の治療後、病院での判定で「陽性反応」が出たとの報告を受けました。
妊娠初期の鍼灸治療も効果があることをお伝えしましたが、患者さまのご希望により、ここで一旦治療は終了となりました。
使用した主なツボとその代表的な効果
関元(かんげん):
下腹部にあるツボで、気を補い、下腹部を温める効果があります。生殖機能の活性化にも効果的です。
中脘(ちゅうかん):
胃の中央にあるツボで、胃腸の働きを整え、消化吸収を促進します。
肓兪(こうゆ):
おへその横にあるツボで、冷えの改善に効果があります。
足三里(あしさんり):
下腿にあるツボで、胃腸の働きを整え、全身の機能を高めます。
三陰交(さんいんこう):
内くるぶしの上にあるツボで、婦人科疾患に効果があり、冷えの改善にも役立ちます。
太谿(たいけい):
内くるぶしとアキレス腱の間にあるツボで、腎の機能を高め、生殖機能を活性化します。
心兪(しんゆ)、肝兪(かんゆ)、脾兪(ひゆ)、次髎(じりょう):
背部にあるツボで、それぞれ心、肝、脾、腎と関連し、各臓腑の機能を整えます。
まとめ
今回の症例は、比較的短い期間(次の移植までの期間)での鍼灸治療を希望されていました。
結果として、陽性反応が出てすぐに治療を終了されたため、その後の経過は不明ですが、体調を整えてから病院の不妊治療に臨むことで、良い結果に繋がりやすいことを示唆する症例となりました。
東洋医学的に脾腎の虚のような状態が見られましたが、20代と若かったため、身体の回復力も高く、治療の効果も出やすかったのではないかと推察されます。
「虚を補う」効果は、年齢に比例しやすいのは事実です。
虚タイプの体質の方は、生活習慣との関連も大きいため、今後の生活において、疲れ対策や冷え対策を意識することで、より良い体調を維持できるでしょう。
当院では、患者さま一人ひとりの体質や状態に合わせた丁寧なカウンセリングと施術を心掛けております。
「自然な妊娠力を高める」をモットーに、皆様の妊活を全力でサポートいたします。
これをお読みの方で、不妊でお悩みの方は、ぜひ一度当院にご相談ください。
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