不妊(慢性腰痛あり)への鍼灸症例|鎌ケ谷市在住30代女性
不妊(慢性腰痛あり)への鍼灸症例
今回は、長年の腰痛をお持ちで、不妊治療を進める中で体質の課題も感じていらっしゃった30代女性の患者さまの症例をご紹介します。
患者さまについて
年齢性別:
30代女性・鎌ケ谷市在住
鍼灸院に来るまでの経緯:
約2年半前からご夫婦での妊活をスタートされ、まずは自己流のタイミング法を試みられました。比較的早く一度妊娠されたものの、残念ながら出血があり、継続することができませんでした。
その後、改めて自分たちでタイミングを取り始めましたが、以前のようにはうまくいかず、妊娠に至らない期間が続きました。
不安を感じ始め、今から約2ヶ月前に初めて婦人科の専門病院を受診されました。
病院では、ご夫婦ともに検査を受けられました。
結果は「とくに問題なし」とのこと。
病院からは、「まずは3回タイミング療法を試してみて、もし妊娠に至らなければ、その後3回人工授精に進んでみてはどうか」という提案がありました。
患者さまは、病院の提案通りにタイミング療法を2回試されましたが、残念ながら妊娠にはつながりませんでした。
迎えた今回の生理周期では、卵胞の育ちが悪く、移植に進むことができず、一度リセットという判断になりました。
この頃から、患者さまは「病院での治療は進めているけれど、もしかしたら自分の体質にも何か課題があるのかもしれない」「病院での治療以外にも、自分自身の体を整えるためにできることがあるのではないか」と感じ始められました。
そこで、体質改善の方法を模索される中で、鍼灸治療に興味を持たれ、当院へのご来院を決意されました。
不妊治療のスケジュールとして、あと1回タイミング療法を試した後、その次の周期から人工授精に挑戦されるご計画でした。
婦人科系の状態としては、生理周期は28日と安定していらっしゃいました。
生理痛はありましたが、市販薬で対応できる程度で、服用しない周期もあるとのことでした。
ただし、ここ2~3年で月経血量が減少し、月経血に塊が混ざることが増えたように感じていました。
これは、東洋医学的な視点から見ると、お体の状態を判断する上で非常に重要な情報となります。
また、不妊とは別に、長年お悩みの症状がありました。
それは、15年前に経験された腰椎ヘルニア以降、慢性的な腰痛を抱えていることです。
長時間座りっぱなしなど、同じ姿勢が続くと腰が重だるく感じ、季節の変わり目や疲れている時には特にツラさが増すとのことでした。
さらに、日常的に疲れやすさも感じていらっしゃいました。
このように、この患者さまは不妊治療を進める中で、単に妊娠しないというだけでなく、月経血の変化、長年の腰痛、そして疲れやすさといった複数の体の不調を抱えていらっしゃいました。
東洋医学的考察
東洋医学では、人間の体は「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」という3つの要素がバランスを取りながら生命活動を維持していると考えます。
このバランスが崩れることで、様々な体の不調や病気が引き起こされると捉えます。
■腎虚(じんきょ)
今回の患者さまのケースは、まず中心的な課題として「腎気(じんき)の不足」、すなわち「腎虚(じんきょ)」があると判断しました。
東洋医学において「腎」は、単に腎臓という臓器を指すだけでなく、生命の根源的なエネルギーや成長、生殖、老化といった生命活動のサイクル全体を司る非常に重要な概念です。
腎の働きが低下する「腎虚」は、生殖機能の低下と深く関連しており、不妊の主要な原因の一つと考えられます。
患者さまの妊活がうまくいかない状況や、年齢的な要因なども含めて、腎気の不足が背景にあると推測しました。
■瘀血(おけつ)
患者さまが感じていらっしゃった月経血量の減少や、月経血に塊が混じるという症状、そして長年の慢性腰痛は、「瘀血(おけつ)」の存在を示唆していました。
瘀血とは、血(けつ)、つまり血液の流れが滞り、スムーズに巡らない状態を指します。
血の巡りが悪くなると、体の隅々まで栄養や酸素が行き渡りにくくなるだけでなく、老廃物が滞りやすくなります。
子宮や卵巣への血流が悪くなれば、内膜の環境が悪化したり、卵巣機能が低下したりする可能性があります。
月経血の塊は、子宮内で血が滞っている状態を反映していると考えられます。
慢性的な腰痛も、腰部の血流が悪くなっている瘀血の状態と関連が深いと捉えることができます。
さらに、全身的な疲れやすさや、季節の変わり目に体調を崩しやすいといった症状は、「気」の不足や巡りの滞り、あるいは他の臓腑の機能低下も示唆していましたが、根本にある腎虚や瘀血がこれらの症状を悪化させていると考えました。
治療方針
東洋医学的な考察に基づき、今回の患者さまに対しては、以下の3つの柱を中心とした治療方針を立てました。
■腎気の補充(生殖機能の強化)
「腎虚」を改善するために、腎の働きを高め、生命エネルギーを補うことを最優先としました。
これにより、卵巣機能の向上、内膜環境の整備、ホルモンバランスの調整といった生殖機能全体の底上げを目指します。
とくに、不妊治療において重要な月経周期に合わせて、時期ごとに適切なツボを選択し、腎の働きをサポートすることで、質の良い卵胞育成や着床しやすい内膜づくりを促します。
■瘀血の改善(血流促進)
月経血の変化や慢性腰痛の原因と考えられる「瘀血」を取り除くために、全身とくに骨盤内の血流を促進する治療を行います。
血行が改善されることで、子宮や卵巣への栄養供給がスムーズになり、機能の活性化が期待できます。
また、腰部の血流が改善されれば、長年の腰痛の緩和にもつながります。
月経周期における適切な時期に、血の流れを整えるツボを重点的に使用し、スムーズな生理周期の確立も目指します。
■全身調整と随伴症状の緩和
「気」「血」「水」の全身のバランスを整え、疲れやすさといった随伴症状を改善します。
腰椎ヘルニアによる慢性腰痛に対しては、単なる対症療法ではなく、原因となっている血流の滞りや関連する筋肉の緊張を和らげるアプローチを並行して行います。
これにより、不妊治療を続ける上での体の負担を軽減し、心身ともにリラックスできる状態を目指します。
自律神経の乱れにも対応し、ストレスを軽減することで、ホルモンバランスの安定にも寄与することを目指します。
治療経過
患者さまの鍼灸治療は、初診から陽性判定に至るまで、約7ヶ月間の道のりとなりました。
その間、患者さまの体の状態や病院での治療段階に合わせて、鍼灸治療も柔軟に変化させていきました。
1回目(初診):
仰向けで、生殖機能や血流に関連の深いツボ(三陰交、陽陵泉、太谿など)に置鍼を行いました。
お腹周りのツボ(大巨、関元など)には、棒温灸でじっくりと温めた後、点灸を施し、体の内側から温めることで腎気を高め、血流を促進しました。
うつ伏せでは、腰部や背部にある、腎や婦人科疾患、血流に関わるツボ(心兪、膈兪、肝兪、腎兪、次髎など)に置鍼を行いました。
とくに腎兪と次髎には、持続的な刺激を目的として円皮鍼(シールタイプの置き鍼)を追加しました。
2回目~7回目(週1回ペース):
この期間は、病院でタイミング療法を続けられていましたが、残念ながら妊娠には至りませんでした。
また、排卵誘発剤の影響か、内膜が薄い(5mm程度)と病院で指摘される時期もありました。
鍼灸治療は、基本的に1回目の施術内容をベースとしながらも、その時々の患者さまの体調に合わせて調整を行いました。
例えば、腰痛がツラい時には腰部のツボへのアプローチを強化したり、頭重感がある時には頭部や肩周りのツボを追加したりしました。
この頃から、患者さまは鍼灸施術を受けた後に腰痛が楽になることを実感され始めました。
これは、鍼灸が単に不妊だけでなく、長年悩まされていた腰痛にも良い影響を与えている証拠でした。
この期間をもって、病院でのタイミング療法は終了し、次周期からは人工授精にステップアップされる予定となりました。
8回目~12回目(1~4週間に1回ペース):
この時期は、ご自身のコロナ感染や、ホルモン剤の影響と思われる自律神経失調症状が出現し、患者さまのご体調が不安定になることがありました。
それに伴い、鍼灸治療のペースも週1回から1~4週間に1回と、間隔が空いてしまう時期がありました。
鍼灸治療では、自律神経のバランスを整えるツボを追加したり、体調が優れない時には刺激量を調整したりと、患者さまのその時々の状態に寄り添った施術を継続しました。
しかし、この間、病院で人工授精を3回試みられましたが、残念ながら結果にはつながりませんでした。
これは、鍼灸治療の間隔が開いてしまったことや、ホルモン剤による体への負担なども影響していたのかもしれません。
13回目~18回目(1~3週間に1回ペース):
人工授精がうまくいかなかったため、患者さまは体外受精へとステップアップすることを決断されました。
この期間は、体外受精に向けた採卵周期、移植周期となりました。
採卵周期では、良質な卵胞が育つように、腎の働きを高め、血流を促進する施術を中心に行いました。
その結果、採卵では3個の胚盤胞を凍結することができました。これは、これまでの鍼灸による体質改善が、一定の成果を上げている可能性を示すものでした。
しかし、この期間中に、患者さまは風邪のような発熱をした後、咳と痰がツラい状態が1ヶ月ほど続くという別の体調不良に見舞われました。
抗アレルギー薬や気管支拡張剤を使用してもゆっくりしか改善しない状況でした。
鍼灸治療では、不妊治療のための施術に加えて、呼吸器系の不調に特化したツボ(経渠、尺沢、定喘、肺兪など)への施術を追加しました。
西洋薬に、全身のバランスを整える鍼灸のアプローチを加えることで、咳と痰の症状も徐々に緩和されていきました。
その後、凍結胚移植の周期に入りましたが、一度内膜が十分に厚くならず、移植を見送る周期がありました。
鍼灸治療では、内膜の状態を良くするために、血流を促進し、子宮への栄養供給を高めるツボへのアプローチを強化しました。
19回目~21回目(週1回ペース):
内膜の状態が整い、移植周期を迎えました。
この周期では、無事に胚移植を行うことができました。
移植後は、着床をサポートし、妊娠を継続しやすい体にするために、安静を保ちながら、体の内側を温め、血流を整える施術を行いました。
そして判定日には陽性判定が出ました。
患者さまの当初の希望は「妊娠すること」でしたので、この陽性判定をもって、鍼灸治療は一旦終了とさせていただきました。
もちろん、妊娠中のマイナートラブルの軽減や、安定したマタニティライフのために、妊娠中も鍼灸が継続的にお役に立てることはお伝えしました。
初診から数えて、この日を迎えるまで約7ヶ月でした。
使用した主なツボとその代表的な効果
これらはほんの一部ですが、代表的なツボとその一般的な効果をご紹介します。
三陰交(さんいんこう):
内くるぶしから指4本分上の、骨の後ろ側にあります。
婦人科系の疾患に広く用いられる非常に重要なツボで、生理痛、生理不順、冷え性、更年期症状など、女性特有の悩みに効果が期待できます。
血や水の巡りを整え、消化器や泌尿器の不調にも有効です。
陽陵泉(ようりょうせん):
膝の外側、腓骨という骨の出っ張りのすぐ下にあります。
筋や関節の動きをスムーズにする効果が高く、特に足腰のだるさや痛みに用いられます。
下半身の血行促進にも役立ちます。
太谿(たいけい):
内くるぶしとアキレス腱の間にあります。
腎の働きを助ける代表的なツボで、腎虚による足腰のだるさ、冷え、耳鳴り、生殖機能の低下などに用いられます。
体の潤いを保ち、乾燥を防ぐ効果も期待できます。
大巨(だいこ):
おへそから指2本分下、さらに外側に指2本分いった所にあります。
お腹の調子を整えるツボですが、骨盤内の血流改善にも関係が深く、婦人科系の不調にも用いられます。
関元(かんげん):
おへそから指4本分下の、お腹の中央にあります。
生命エネルギーの源である「気」を補い、体を温める効果が非常に高いツボです。
とくに下腹部の冷え、疲労、生殖機能の低下、泌尿器系の不調などに用いられ、妊活においてはよく使われる要穴です。
心兪(しんゆ):
背骨の、肩甲骨の下端を結んだ線上の高さで、背骨から指2本分外側にあります。
心の働きを整え、精神的な緊張や動悸、不安感などに用いられます。
自律神経のバランス調整にも関わります。
膈兪(かくゆ):
背骨の、みぞおちの高さで、背骨から指2本分外側にあります。
「血の要穴」と呼ばれ、全身の血行を促進する効果が高いツボです。
月経血の塊や、血行不良による様々な症状に有効です。
肝兪(かんゆ):
背骨の、肋骨の一番下の高さで、背骨から指2本分外側にあります。
肝臓の働きを助け、気の巡りをスムーズにします。
ストレスやイライラ、目の疲れ、月経不順などに関わります。
腎兪(じんゆ):
背骨の、おへその高さで、背骨から指2本分外側にあります。
腎の働きを直接的に高める重要なツボです。
腰痛、足腰のだるさ、頻尿、むくみ、生殖機能の低下など、腎虚による症状に広く用いられます。
次髎(じりょう):
お尻の割れ目の上端にある骨の出っ張りから、指一本分下にあります。
仙骨という骨の上のツボで、骨盤内の血流改善、生理痛、腰痛、坐骨神経痛など、婦人科系や腰部の不調に非常に効果が高いツボです。
これらのツボは、患者さまの体質やその時々の症状に合わせて、鍼、お灸、電気刺激などを組み合わせて使用しました。
まとめ
今回の症例は、「腎虚」と「瘀血」を改善することを目標に総合的な鍼灸治療を行った結果、病院での高度な不妊治療(体外受精)と並行することで、無事に妊娠とい結果を得られた一例です。
もしあなたが、現在不妊治療に取り組んでいらっしゃる、あるいはこれから取り組もうとされているのであれば、鍼灸という選択肢を考えてみませんか?
当院では、一人ひとりの患者さまのお悩みや体の状態を丁寧にカウンセリングし、東洋医学的な診断に基づいた最適な治療プランをご提案いたします。
まずはお気軽にご相談ください。
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