PCOSと卵巣嚢腫がある不妊への鍼灸症例|八千代市在住20代女性
生理不順(PCOSと卵巣嚢腫)がある不妊への鍼灸症例
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)や子宮内膜症(チョコレートのう胞など)といった婦人科系の問題を抱えている方は、妊娠への道のりが複雑になることがあります。
今回は、実際に当院にご来院された、PCOSとチョコレートのう胞を併せ持ち、不妊に悩まれていた20代女性の患者さまが、体外受精を前に鍼灸治療に取り組み、無事に妊娠・陽性判定を得られた症例をご紹介します。
この症例を通して、鍼灸治療が不妊、特にPCOSや卵巣嚢腫を持つ方々にどのように貢献できるのか、そして当院の治療の特徴について、詳しくお伝えできればと思います。
患者さまについて
年齢・性別:
20代 女性・八千代市
鍼灸院に来るまでの経緯:
10代(学生時代)から生理不順に悩まされ、2~3ヶ月生理が来ないことも珍しくありませんでした。
婦人科を受診し、漢方薬を処方されていましたが、根本的な解決には至っていませんでした。
約1年半前から、ご夫婦で妊活を開始されました。
自分たちでタイミングを見計らっていましたが、元々の生理不順が影響し、なかなか妊娠には至りませんでした。
妊活開始から半年ほど経ち、改めて婦人科で詳しい検査を受けたところ、「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)」と「卵巣のチョコレートのう胞(子宮内膜症の一種)」があることが判明しました。
PCOSは排卵障害を引き起こしやすく、チョコレートのう胞は卵巣機能の低下や着床環境への影響が懸念される状態です。
医師の指導のもと、まずは排卵誘発剤を使用したタイミング療法を3周期試みましたが、結果には結びつきませんでした。
その後、人工授精(AIH)にも3回挑戦されましたが、残念ながら妊娠には至りませんでした。
次のステップとして体外受精(IVF)に進むことを決意されました。
同時に、「高額な費用と時間をかける体外受精だからこそ、少しでも成功率を高めたい」「西洋医学的な治療だけでなく、自分の体の状態、いわば”妊娠するための土台”を根本から整えたい」という強い想いから、東洋医学、特に鍼灸による体質改善に関心を持ち、当院のホームページなどをご覧になり、ご来院されました。
主な症状:
・PMS(月経前症候群): 生理の2日前頃からイライラ感が非常に強くなる。
・生理痛: 生理痛も重く、毎回鎮痛薬が手放せない状態。
・冷え性: 特に足先が冷えやすく、冬場はもちろん夏場でも冷えを感じることがある。
・肩こり: デスクワークなどの影響もあり、慢性的な肩こりを感じている。
・便秘: 便通が不安定で、便秘がちである。
これらの症状は、単に不快なだけでなく、東洋医学的に見ると体のバランスの乱れを示す重要なサインであり、不妊とも深く関わっていると考えられます。
東洋医学的考察
東洋医学では、私たちの体の健康は「気(き)・血(けつ)・水(すい)」という3つの要素がバランス良く体内を巡ることによって保たれていると考えます。
「気」は生命活動のエネルギー、「血」は血液とその働きおよび栄養、「水」は血液以外の体液全般を指します。これらのバランスが崩れると、様々な不調が現れます。
この患者さまの状態を東洋医学的な視点から詳しく診させていただくと、以下の点が特徴的でした。
■瘀血(おけつ)
最も顕著だったのは、「血(けつ)」の流れが滞っている「瘀血」の状態です。
これは、生理不順、重い生理痛(特に塊状の経血が見られる場合)、チョコレートのう胞の存在などから強く推測されます。
瘀血は、子宮や卵巣への栄養供給を阻害し、妊娠しにくい状態を作り出す大きな要因となります。
鎮痛薬が手放せないほどの生理痛は、典型的な瘀血のサインの一つです。
■陽虚(ようきょ)
足先の冷えは、「陽気(ようき)」すなわち体を温めるエネルギーの不足による冷えや、血行不良による冷えを示唆します。これを「陽虚(ようきょ)」と言います。
■気滞(きたい)
生理前の強いイライラや慢性的な肩こりは、「気」の流れがスムーズでなく、滞っている「気滞」の状態を示します。
ストレスや精神的な緊張は気を滞らせやすく、これが血行にも影響を与え(気滞血瘀)、ホルモンバランスの乱れにも繋がることがあります。
■肝(かん)と腎(じん)の変調
東洋医学でいう「肝」は、気の流れをスムーズに調整し、血を貯蔵する働き、そして精神・情緒の安定に関わります。
PMSのイライラは肝の機能失調(肝気鬱結)と関連が深いです。
一方、「腎」は、生命力の根源であり、成長・発育・生殖機能を司ります。
PCOSや生理不順といった生殖能力に関する問題は、「腎」の機能低下(腎虚)が背景にあると考えられます。
これらのことから、この患者さまは「陽虚」と「気滞」を背景に持ち、「瘀血」が主体となり、根本には「肝」と「腎」の機能失調が関与している状態であると判断しました。
これらの複合的な要因が、PCOS、チョコレートのう胞、そして不妊という状態に繋がっていると考えられました。
治療方針
上記の東洋医学的な考察に基づき、以下の点を重視した治療方針を立てました。
■瘀血の改善(活血化瘀かっけつかお)
最も重要と考えられた血の滞りを取り除くことを第一目標としました。
鍼や灸を用いて気血の巡りを促進し、特に骨盤内の血流を改善することで、子宮や卵巣への栄養供給を高め、チョコレートのう胞の状態改善も目指します。
■冷えの改善(温補散寒おんぽさんかん)
下腹部や足先を温めることで、血行を促進し、瘀血や腎の機能低下を改善します。
お灸や温熱器具を効果的に使用します。
■気滞の改善(疏肝理気そかんりき)
滞った気の流れをスムーズにし、ストレスやイライラを緩和します。
これにより、自律神経やホルモンバランスの安定化を図ります。
■肝腎の機能強化(補肝腎ほかんじん)
生殖機能と深く関わる「肝」と「腎」の働きを補い、強化することで、体質的な問題を根本から改善し、妊娠しやすい体づくりを目指します。
これらの目的を達成するために、患者さま一人ひとりのその日の体調や生理周期(特に体外受精のスケジュール)に合わせて、鍼(はり)、灸(きゅう)、場合によっては円皮鍼(えんぴしん:シール状の小さな鍼)などを組み合わせ、最適なツボを選定し、刺激量も調整しながら、オーダーメイドの治療を行っていくこととしました。
治療経過
1回目(生理周期39日目):
次の生理が開始されたら、体外受精のための採卵周期に入る予定とのことでした。
まずは滞っている経血をスムーズに排出し、次の周期に備えることを目標としました。
仰向けで、気血の巡りを整える基本のツボ(合谷、三陰交など)、肝や腎の機能を高めるツボ(太谿、中封など)に鍼をしました(置鍼:鍼を刺したまま一定時間置く)。
冷えと瘀血が顕著な下腹部(関元など硬さがみられる部分)には、棒温灸でじっくりと温めた後、ピンポイントで効果を高める点灸(透熱灸:米粒大のもぐさを直接皮膚に乗せて燃やす)を行いました。
冷えやすい足先にはホットパックを使用し、温めました。
うつ伏せでは、首肩の緊張を和らげるツボ(風池)、そして肝と腎の機能を直接的に高める背中のツボ(肝兪、腎兪)、骨盤内の血流改善に効果的な仙骨部のツボ(次髎)に置鍼しました。
腎の機能を高めるため、「腎兪」には棒灸で温熱刺激を加え、さらに「腎兪」と「次髎」には、持続的な刺激を目的として円皮鍼を貼付しました。
2回目~7回目(週1回ペース):
初回の施術後、比較的すぐに生理が始まったとのご報告があり、予定通り採卵に向けた通院(ホルモン注射など)が開始されました。
この期間は、良質な卵子を育てること、そして採卵に向けて体のコンディションを整えること、次の移植周期に子宮環境を最高潮に持っていくことを目標に、基本的には初回と同様の施術をベースとしました。
ただし、毎回のお体の状態(ホルモン剤の影響、疲労度、冷えの状態など)を丁寧にお伺いし、その時々で最も気になる症状(例えば、肩こりや、気分の変動など)に対応できるよう、お灸の箇所を増やしたり、円皮鍼を追加したりと、微調整を加えながら施術を行いました。
採卵では、16個の卵子が採取でき、そのうち体外受精・培養を経て、9個の胚盤胞(着床直前の状態まで育った受精卵)を凍結保存することができました。
採卵周期から移植周期になり、鍼灸7回目の施術後に凍結した胚盤胞を移植されました。
8回目(移植後 / 週1回ペース):
待ちに待った判定日を迎え、無事に陽性判定を得られたとの嬉しいご報告をいただきました。
ご本人からは、早くも少し胸のむかつき、気持ち悪さを感じ始めているとのことでした。
この段階からは、治療の目的を「妊娠の維持・継続」と「つわりの軽減」に切り替えました。
着床した胚がしっかりと根付き、成長していけるよう、流産予防を意識したツボを選び、刺激量はよりソフトに調整しました。
とくに、妊娠初期に負担がかかりやすい胃腸の働きを整え、つわりを緩和するツボ(足三里、内関など)を重点的に使用しました。
9回目(妊娠5~6週相当 / 週1回ペース):
つわりの気持ち悪い感じが少し増してきたとのこと。
引き続き、妊娠維持とつわり軽減を目的とした、穏やかな施術を行いました。
精神的な安定も重要と考え、リラックス効果の高いツボも取り入れました。
ご本人の当初の目的が「妊娠すること」であったため、安定期に入る前のこの段階で、一旦鍼灸治療は終了となりました。
ご希望があれば、安定期以降のマイナートラブル(腰痛、むくみ、逆子など)や、安産灸なども対応可能であることをお伝えしました。
使用した主なツボとその代表的な効果
今回の治療で主に使用したツボと、その代表的な効果(今回の症例における主な狙い)をいくつかご紹介します。
合谷(ごうこく):
手の甲、親指と人差し指の骨が交わる手前にあるツボ。
全身の気の流れを整え、痛みを和らげる代表的なツボ。
顔面部や上肢の症状にも使われますが、気血を巡らせる力が強いです。
中封(ちゅうほう):
足首の内側、くるぶしの前下方にあるツボ。
肝の経絡に属し、肝の機能を整え、気の滞り(気滞)や血の滞り(瘀血)の改善を助けます。
太谿(たいけい):
内くるぶしとアキレス腱の間にあるくぼみにあるツボ。
腎の経絡の重要なツボで、「腎」のエネルギー(腎精・腎気)を補い、生殖能力、発育、老化に関わる機能を高めます。冷えの改善にも効果的です。
三陰交(さんいんこう):
内くるぶしの最も高い点から指幅4本分上、すねの骨の後ろのきわにあるツボ。
脾・肝・腎の3つの陰の経絡が交わる場所で、婦人科系の症状(生理不順、生理痛、不妊、冷えなど)に対する最重要ツボの一つです。
血を補い、巡らせる効果が期待できます。
関元(かんげん):
おへそから指幅4本分下にあるツボ。
下腹部にあり、「丹田(たんでん)」とも呼ばれるエネルギーが集まる場所。体を温め、生命エネルギー(元気・原気)を補い、腎の機能を助け、泌尿器・生殖器系の働きを高めます。
とくに灸をすることで温熱効果が高まります。
風池(ふうち):
首の後ろ、髪の生え際で、僧帽筋と胸鎖乳突筋の間のくぼみにあるツボ。
頭痛、目の疲れ、肩こり、めまいなどに効果的ですが、気の流れを良くし、自律神経を整え、リラックスさせる効果もあります。
肝兪(かんゆ)・腎兪(じんゆ):
背中にある、それぞれ肝臓と腎臓に対応するツボ(背部兪穴)。
これらのツボを刺激することで、対応する臓腑の機能を直接的に調整し、高めることができます。
腎兪への灸は、腎の陽気を補い、体を温める効果が期待できます。
次髎(じりょう):
仙骨(お尻の真ん中にある骨)の上から2番目のくぼみにあるツボ。
骨盤内の血流を強力に促進し、婦人科系の症状(生理痛、生理不順、不妊)や泌尿器系の症状、腰痛などに非常に効果的なツボです。
これらのツボを、患者さまのお体の状態に合わせて選択し、鍼や灸を使い分けることで、最大の治療効果を引き出すことを目指しました。
まとめ
今回ご紹介した症例は、PCOSとチョコレートのう胞という、不妊に繋がりやすい二つの要因を抱えながらも、体外受精を前に鍼灸治療による体質改善に取り組まれ、見事に妊娠・陽性判定を得られたという、大変喜ばしいケースでした。
10代からの生理不順、重い生理痛、冷え、PCOS、チョコレートのう胞といった長年の悩みに対し、東洋医学的な視点から「瘀血」「冷え」「気滞」「肝腎の不調」と捉え、「血行促進」「温め」「気の巡りの改善」「肝腎の強化」を目的とした鍼灸治療を行いました。
その結果、体外受精においては16個採卵・9個の良好胚盤胞凍結という素晴らしい成果が得られ、その後の胚移植で無事に妊娠に至りました。
これは、鍼灸治療によって子宮や卵巣への血流が改善され、卵子の質の向上や、受精卵が着床しやすい子宮内環境の整備に貢献できた可能性を示唆しています。
不妊治療は、精神的にも肉体的にも、そして経済的にも負担が大きいものです。
西洋医学的な治療が不可欠な場合も多いですが、そこに東洋医学的なアプローチ、すなわち鍼灸治療による「体づくり」を加えることは、けして無駄ではありません。
鍼灸によって体の体質を整えることが、妊娠への大きな一歩となります。
当院では、不妊をはじめ、生理不順、生理痛、PMS、更年期障害など、女性特有のお悩みに対して、一人ひとりの体質やお悩みに合わせた丁寧なカウンセリングと、オーダーメイドの鍼灸治療を提供しております。
もし、あなたやあなたの大切な方が、同じようなお悩みで苦しんでいたり、妊活がうまくいかずに悩んでいたり、あるいは西洋医学の治療と並行して体質改善を図りたいと考えていらっしゃるなら、ぜひ一度、当院にご相談ください。
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