2人目不妊(PCOS)への鍼灸症例|船橋市在住30代女性
2人目不妊(PCOS)への鍼灸症例
「一人目は自然に授かったのに、どうして二人目は…」
このような「二人目不妊」で悩まれる方もいらっしゃいます。
一度は妊娠・出産を経験されているからこそ、なかなか授からない状況に、より深い焦りや戸惑い、そして言いようのない孤独感を感じてしまう方も少なくありません。
今回ご紹介するのは、まさにそうした二人目不妊にお悩みの30代女性のケースです。
約6年にわたる妊活、そして高度生殖医療(ART)の経験を経て、体質改善を目指して鍼灸治療に臨まれました。
患者さまについて
年齢・性別:
30代女性・船橋市在住
鍼灸院に来るまでの経緯:
今から6年前、第一子となるお子さまを出産されました。
この時は、ご夫婦でタイミングを計り始めてから約3ヶ月という、比較的スムーズな妊娠だったそうです。
産後数ヶ月で月経が再開したため、自然な流れで二人目の妊活をスタートされました。
しかし、ここからが長い道のりの始まりでした。
ご自身たちでタイミング法を試みるも、1年が経過しても妊娠には至りません。
不安を感じ、今から約4年前に初めて婦人科を受診。
「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)」の診断を受けます。
排卵誘発剤を用いたタイミング法から治療を開始しましたが、半年ほど続けても結果は出ず、通院自体が精神的な負担となり、一度治療を中断されました。
その後1年間は再び自己流でのタイミング法に戻りましたが、状況は変わりませんでした。
さらに、「以前より生理の出血量が減ってきた」という身体の変化にも不安を感じるようになり、再度、別の病院を受診することを決意されます。
新しい病院では、人工授精(AIH)を経て、体外受精(IVF)へとステップアップ。
約1年前に初めての採卵を行い、3個の胚盤胞を凍結。
これらを2回に分けて移植しましたが、残念ながら着床には至りませんでした。
さらに6ヶ月前、2回目の採卵を実施。
この時は初期胚2個と胚盤胞9個という、多くの凍結胚を得ることができましたが、2個ずつ戻す移植を2回行っても、陽性反応は得られませんでした。
残る凍結胚は初期胚2個、胚盤胞3個。
「移植を続けていきたい。でも、このまま同じことを繰り返すだけで良いのだろうか…?」と考え、「妊娠しやすい身体づくり、根本的な体質改善が必要なのでは」と考え、鍼灸治療を知り当院に来院されました。
・月経周期の変動: 28日~40日と不安定。
・月経血量の減少: ここ数年で明らかに量が減っている実感がある。
・冷え性: 特に足先の冷えが強い。
・首肩こり: 慢性的なこりを感じている。
・慢性疲労: 常に疲れが取れない感覚がある。
これらの症状は、妊活が長期化する中で、精神的なストレスや身体的な負担が積み重なった結果とも考えられ、東洋医学的な観点からも重要なサインと捉えられました。
東洋医学的考察
東洋医学では、私たちの身体は「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」という3つの要素がバランスを取りながら巡ることで、健康が維持されていると考えます。
「気」は生命活動の根源となるエネルギー、「血」は全身に栄養を運び精神活動も支えるもの、「水」は身体を潤す全ての正常な液体を指します。
この患者さまの状態を東洋医学的に詳しく診させていただいた結果、「気血両虚(きけつりょうきょ)」、つまりエネルギー(気)と栄養(血)の両方が不足している状態にあると判断しました。
とくに、生命エネルギーや生殖能力と深く関わる「腎(じん)」と、消化吸収を担い気血を生み出す源である「脾(ひ)」の機能低下(虚)が顕著でした。
腎の虚とは、東洋医学でいう「腎」は、成長・発育・生殖を司る、いわば生命力の貯蔵庫です。腎のエネルギー(腎気)が不足すると、月経不順、無排卵、不妊、早期閉経といった婦人科系のトラブルや、冷え、疲労感、足腰のだるさなどが現れやすくなります。
患者さまの月経周期の変動、月経血量の減少、足の冷え、慢性疲労は、まさにこの腎の機能低下を反映していると考えられました。
脾の虚とは、「脾」は、飲食物を消化吸収し、エネルギー(気)や栄養(血)を作り出す働きを担います。
脾の機能が低下すると、気血の生成が滞り、全身のエネルギー不足、栄養不足につながります。
これが「気血両虚」の主な原因となり、慢性疲労や倦怠感、食欲不振などを引き起こします。
患者さまの慢性疲労感も、この脾の弱りが影響していると考えられました。
長年の妊活による精神的・肉体的なストレス、PCOSという体質、そして年齢的な要因などが複合的に絡み合い、「腎」と「脾」の働きを弱め、結果として妊娠に必要な「気」と「血」が不足し、妊娠しにくい身体の状態を作り出してしまっていたのです。
治療方針
東洋医学的な診断に基づき、この患者さまの治療方針は以下のように定めました。
■補気補血(ほきほけつ)
不足している「気」と「血」を鍼灸治療によって補い、全身のエネルギーと栄養状態を底上げします。
■健脾補腎(けんぴほじん)
気血を生み出す「脾」と、生殖能力の要である「腎」の働きを高め、身体が本来持っている機能を回復させます。
とくに、婦人科系と密接な「腎」の強化は、妊娠しやすい身体づくりの鍵となります。
■温陽活血(おんようかっけつ)
冷えは気血の巡りを悪くし、子宮や卵巣の機能を低下させる一因です。
お灸などを活用して身体、特にお腹周りや足腰を温め、血行を促進し、子宮環境を整えます。
■調和気血(ちょうわきけつ)
全身の気血の流れを整え、自律神経のバランスを調整することで、精神的なリラックスを促し、ストレスによる身体への悪影響を軽減します。
治療経過
1~9回目(週1回ペース):
初回の施術では、仰向けで、全身の気血を巡らせ、脾と腎の働きを助けるツボ(曲池、陰陵泉、足三里、三陰交、太谿)に鍼を置きました(置鍼)。
とくに冷えが気になる足先にはホットパックを当て、心地よい温かさでリラックスしていただきました。
下腹部には、子宮や卵巣の機能を高めるツボ(関元、天枢)があり、ここには棒灸でじっくりと温熱刺激を与え、さらに小さなもぐさで点灸を行いました。
うつ伏せでは、背中にある内臓の働きと関連するツボ(膈兪、肝兪、大腸兪)と、腎の働きを助ける重要なツボ(志室)に置鍼。
志室には棒灸を追加し、腎へのアプローチを強化しました。
2回目以降も、基本的にはこの施術内容をベースに、その時々の体調(肩こりが強い、疲れが溜まっているなど)に合わせて微調整しながら、週に1回のペースで継続しました。
この期間中に1回目の胚移植が行われましたが、残念ながら結果は陰性でした。
10~15回目(週1回ペース):
鍼灸治療を開始して約3ヶ月が経過。
引き続き週1回のペースで、身体の土台を整え、来るべき移植に向けて最善の状態を目指しました。
そして、15回目の来院日、患者さまから「陽性判定が出ました!」という、この上なく嬉しいご報告をいただきました。
ご本人はもちろん、私たちも心から喜びを分かち合いました。
16~25回目(2~3週間に1回ペース):
妊娠判定陽性後は、治療の目的を「妊娠の維持」と「安産」に切り替え、施術ペースも2~3週間に1回としました。
幸い、妊娠10週頃まで軽い悪阻(つわり)はあったものの、比較的穏やかに経過されました。
安定期以降は、お腹の赤ちゃんが健やかに育つよう、そして母体の負担を軽減できるよう、体調管理をサポートする鍼灸治療(安産灸など)に努めました。
施術内容も、身体への負担が少ないように、仰向けがツラくなってきた時期からは横向きでの施術に切り替え、鍼も浅めに刺すなど、細やかに調整しました。
使用するツボも、妊娠時期に合わせて変更。
引き続き気血を補うツボ(足三里、太谿など)や、お腹の張りを和らげるツボ(中脘、関元への棒灸)、安産に効果的とされるツボ(三陰交、次髎など)を中心に、穏やかな刺激を心がけました。
大きなトラブルもなく妊娠経過は順調に進み、妊娠35週を迎えた時点で、あとは無事の出産を待つのみとなり、当院での鍼灸治療は終了となりました。
使用した主なツボとその代表的な効果
今回の治療で主に使用したツボと、その代表的な効果(東洋医学的な考え方)をご紹介します。
・足三里(あしさんり):
胃腸の働きを高め、全身の気力・体力を補う代表的なツボ。
疲労回復、免疫力向上に。脾の機能を助け、気血を生み出す力をサポートします。
・三陰交(さんいんこう):
婦人科系の症状に非常に効果的なツボ。
「肝・脾・腎」の3つの経絡が交わる要所で、ホルモンバランスを整え、冷えや月経不順、不妊治療にも頻用されます。
・太谿(たいけい):
「腎」のエネルギー(原気)が最も集まるツボとされ、腎の機能を高める要穴。生殖能力、生命力を補い、冷え、むくみ、老化防止にも効果が期待されます。
・関元(かんげん):
下腹部にあり、「丹田」とも呼ばれるエネルギーの中心。
身体を温め、腎の働きを助け、生殖器系の機能を高めます。
不妊治療や月経トラブル、冷え性改善に重要です。お灸を加えることで効果が高まります。
・陰陵泉(いんりょうせん):
脾の働きを助け、体内の余分な水分(湿)を取り除く効果があります。
むくみやだるさ、消化不良の改善に。
・曲池(きょくち):
全身の熱や炎症を鎮める効果があり、のぼせや皮膚疾患にも使われますが、気血の巡りを改善する作用もあります。
・天枢(てんすう):
大腸の働きを整えるツボ。
便秘や下痢など消化器系の調整に。お腹の血行を促進する効果も期待できます。
・膈兪(かくゆ):
背中にあり、「血会」とも呼ばれ、血に関する様々な症状に効果があります。
血行促進、貧血改善など。
・肝兪(かんゆ):
肝臓の働きと関連し、気の流れをスムーズにし、精神的なストレスの緩和、血の貯蔵を助けます。
・志室(ししつ):
腎兪の隣にあり、腎の働きを直接的に補強する重要なツボ。
腰痛、生殖器系の不調、疲労回復に効果を発揮します。
お灸を加えることで、腎を温め、機能を高めます。
・大腸兪(だいちょうゆ):
大腸の機能を整え、腰痛や便秘の改善に役立ちます。
・中脘(ちゅうかん):
みぞおちとおへその中間。
胃の働きを整え、消化吸収を助けます。つわりや胃の不快感にも。
・次髎(じりょう):
仙骨部にあり、骨盤内の血行を促進し、婦人科系疾患や泌尿器科系疾患、腰痛、坐骨神経痛などに効果的。安産灸としても使われます。
これらのツボを、患者さまの体質やその日の状態に合わせて的確に選び、鍼や灸で刺激することで、身体の内側からバランスを整え、妊娠しやすい身体づくりをサポートしました。
まとめ
今回の症例は、2人目不妊という深い悩みを抱えながらも、諦めずに体質改善に取り組んだ結果、鍼灸治療が高度生殖医療(胚移植)の成功を後押しし、待望の妊娠・出産へと繋がったケースです。
長年の妊活、PCOSという診断、繰り返される移植の不成功…これらは患者さまの心身に大きな負担を与え、「気血両虚」「脾腎の虚」という東洋医学的な不調和を引き起こしていました。
当院では、単に西洋医学的な治療を補完するだけでなく、東洋医学の視点から不妊の原因となっている根本的な体質(腎や脾の弱り、気血不足、冷えなど)を見極め、それに対して鍼灸というオーダーメイドの治療を行うことで、身体が本来持っている妊娠する力を引き出すお手伝いをさせていただきました。
病院での治療(胚移植)を継続されている方にとって、鍼灸治療による体質改善は、子宮内膜の状態を整えたり、卵子の質の向上(東洋医学的な観点から)に繋がったり、着床しやすい身体の土台を作る上で、大きな助けとなる可能性があります。
また、治療中の精神的なストレスを和らげ、心身のバランスを整える効果も期待できます。
もしあなたが今、二人目不妊で悩んでいたり、病院での治療が思うように進まなかったり、あるいはご自身の体質から見直したいと感じていらっしゃるなら、ぜひ一度、鍼灸治療という選択肢を考えてみませんか?
私たちが全力でサポートさせていただきます。どうぞお気軽にご相談ください。
不妊鍼灸の詳しくはこちら