子宮内膜症には漢方か鍼灸か?

「子宮内膜症」には漢方薬と鍼灸どちらを選ぶ?

子宮内膜症の漢方と鍼灸・写真1
子宮内膜症に悩むあなたへ、日々感じる痛みや不快感、それに伴う心の疲れは計り知れないものがあると思います。
病気と向き合いながら、生活や仕事、人間関係を頑張っているあなたの姿は、本当に尊いものです。

東洋医学の観点から言えば、
子宮内膜症は「瘀血(おけつ)」や「気滞(きたい)」といった体内の不調が関連していると考えられます。
この不調を改善するために、漢方薬や鍼灸は体質を整え、痛みを和らげ、体全体のバランスを取り戻す助けとなります。

あなたの痛みが少しでも和らぎ、心が軽くなる日が来ることを願っています。
そして、笑顔で過ごせる時間が少しずつ増えていきますように応援しています。

子宮内膜症で悩まれるあなたに、最初に「結論」です
それはズバリ『漢方薬も鍼灸も両方使うのが最善』です

それだけだと身も蓋もないので、それぞれの良さを解説していきますね。

子宮内膜症と東洋医学

子宮内膜症の漢方と鍼灸・写真2

子宮内膜症は、東洋医学においては全身のバランスの乱れが深く関わっています。
そのため、患者さんの体質に基づき原因を探ることが重要です。
以下に主な体質別に説明します。

瘀血(おけつ)タイプ

瘀血とは、血の巡りが滞り、体内に血が停滞している状態を指します。
この体質の方は、月経痛が強く、月経血に塊が伴うことが多いです。
顔色が暗く、唇が紫がかることもあります。
瘀血によって子宮内膜の古い血液が排出されず、組織が異常に増殖する結果として子宮内膜症が発生すると考えられます。ストレスや過労、冷えが原因になります。

気滞(きたい)タイプ

気滞とは、気の巡りがスムーズでなくなる状態です。
この体質の方は、ストレスや感情の抑圧により体内の気が停滞し、それが血の巡りにも影響を与えます。
とくに月経前に胸やお腹が張り、イライラや抑うつ感が強まることが特徴です。
気滞によるストレスが長期間続くことで、血流が悪化し、瘀血や内膜の異常な増殖を引き起こすと考えられます。

腎虚(じんきょ)タイプ

腎虚とは、東洋医学の内臓系のひとつである「腎」の機能が低下し、体の基本的な生命力やホルモンバランスが崩れる状態です。
この体質の方は、疲れやすく、腰や膝のだるさ、冷え、耳鳴りなどが現れます。
東洋医学では、腎は生殖機能を司るとされ、腎の弱まりは子宮や卵巣のコンディションにも影響を与えると考えます。
腎虚の結果、体のエネルギー不足や血の生成能力が低下し、子宮内膜が正常に機能しなくなる場合があります。

寒湿(かんしつ)

寒湿とは、体内に冷えや湿気が停滞し、代謝が低下した状態です。
この体質の方は、とくに下腹部の冷えが強く、月経痛が冷えると悪化する傾向があります。
寒湿による子宮の冷えは、血流を妨げて瘀血を作り出し、子宮内膜症のリスクを高めると考えられます。
湿気が多い環境や冷たい食べ物の摂取も、この体質を悪化させる要因です。

痰湿(たんしつ)タイプ

痰湿とは、体内に余分な水分や代謝産物が溜まり、巡りが悪くなる状態です。
この体質の方は、肥満傾向があり、むくみやだるさを感じやすい特徴があります。
痰湿が蓄積すると、体内の血流が阻害され、子宮や卵巣の周囲で異常な組織の形成が進むと考えられます。

まとめ。
東洋医学では、子宮内膜症を単に子宮だけの問題と捉えるのではなく、全身のバランスの乱れと深く結びついていると考えます。
体質を整えることで、子宮内膜症による痛みや不快感が軽減し、全体的な健康状態が向上します。
子宮内膜症のタイプを正しく判断し、治療を行うことが重要です。

子宮内膜症に効く漢方薬の代表例

子宮内膜症の漢方と鍼灸・写真3
子宮内膜症で悩む人に対して体質別に効果が期待できる漢方薬を挙げ、その理由を説明します。
ただし、漢方薬は実際の体質や症状に合わせて処方されるべきものですので、参考程度に留め、必ず専門家に相談してください。

瘀血(おけつ)タイプ

適した漢方薬:
・桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)

理由:瘀血を改善し、血液の巡りを促す効果がある処方です。
子宮の炎症や血流の停滞を和らげ、月経痛の軽減が期待されます。
温性の薬であり、冷えがある瘀血体質にも適しています。

気滞(きたい)タイプ

適した漢方薬:
・加味逍遥散(かみしょうようさん)

理由:気の巡りを改善し、ストレスやイライラ感を和らげる処方です。
月経前症候群(PMS)のような精神的な症状が目立つ場合に効果が期待できます。

腎虚(じんきょ)タイプ

適した漢方薬:
・八味地黄丸(はちみじおうがん)

理由:腎を補い、全身のエネルギーを高める効果があります。
冷えが強く、生殖機能の低下が見られる場合に適しています。

寒湿(かんしつ)

適した漢方薬:
・当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)

理由:冷えによる痛みを和らげ、血流を改善する処方です。
特に四肢の冷えが目立つ場合に有効です。

痰湿(たんしつ)タイプ

適した漢方薬:
・防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)

理由:体内の余分な水分を取り除き、むくみを軽減する効果があります。
水分代謝が悪く、湿気が体内に溜まりやすい体質に適しています。

以上のように、
「子宮内膜症にはこの薬」のような病名からの処方ではなく、「その人の体質・状態にはこの薬」という体質からの処方が勧められます
ですので、同じ病名に悩む人にも異なる漢方薬が出ることも少なくありません。
こういう治療の組み立てをするのが東洋医学です。

子宮内膜症に効く鍼灸の代表的ツボ

鍼灸も漢方薬と同じく東洋医学の一角ですので、考え方は同様です。
その人の体質・状態から適したツボを選択していきます。

瘀血(おけつ)タイプ

特徴:血の巡りが悪く、月経痛が強い。血塊が見られることが多い。

適したツボ:
・血海(けっかい)
理由:血液循環を促進し、瘀血を解消する働きがあります。
とくに月経に関連するトラブルに有効なツボです。

・三陰交(さんいんこう)
理由:女性特有の疾患に広く使われるツボで、血液の巡りを改善し、痛みの軽減が期待されます。
また、下腹部の血流を良くします。

気滞(きたい)タイプ

特徴:ストレスや感情の抑圧が強く、月経前の腹部の張りやイライラ感がある。

適したツボ:
・太衝(たいしょう)
理由:肝の気を巡らせる作用があり、ストレスや気滞による緊張を和らげます。
感情の抑圧やイライラ感が強い場合に有効です。

・膻中(だんちゅう)
理由:胸部に位置し、気の滞りを解消する効果があります。
胸やお腹の張り感を軽減し、リラックスを促します。

・陽陵泉(ようりょうせん)
理由:肝経の滞りを解消し、全身の気の巡りを整えます。
月経痛や下腹部の張り感を軽減するために使用されます。

腎虚(じんきょ)タイプ

特徴:疲労感、冷え、腰や膝のだるさがある。

適したツボ:
・腎兪(じんゆ)
理由:腎を補い、全身のエネルギーを高めるツボです。
腎虚体質の人の生殖機能やホルモンバランスの改善に役立ちます。

・命門(めいもん)
理由:生命力を強化するツボとして知られ、腎を温める効果があります。
腰の冷えやだるさにも有効です。

・太谿(たいけい)
理由:腎経の主要なツボであり、腎の働きを助けます。
全身の冷えやエネルギー不足を改善するために使われます。

寒湿(かんしつ)

特徴:冷えが強く、月経痛が冷えると悪化する。

適したツボ:
・関元(かんげん)
理由:体を温める効果があり、冷え性による痛みや不快感を軽減します。
とくに下腹部の冷えに有効です。

・足三里(あしさんり)
理由:冷えによる血流不良や代謝低下を改善する万能のツボです。
免疫力も高めます。

痰湿(たんしつ)タイプ

特徴:むくみやだるさ、体内の余分な湿気が停滞している。

適したツボ:
・中脘(ちゅうかん)
理由:脾胃の働きを整え、体内の余分な湿気や痰を取り除く効果があります。
消化機能の改善にも役立ちます。

・豊隆(ほうりゅう)
理由:痰湿を解消する主要なツボです。
湿気によるむくみや体の重だるさに効果があります。

・陰陵泉(いんりょうせん)
理由:脾の機能を強化し、水分代謝を改善します。
体内の余分な湿気を取り除くために有効です。

以上、
「子宮内膜症に良いツボ」も全身のあちこちにあります。
それは「子宮内膜症=下腹部や腰」という考えでなく「体質の異常=全身の問題」と捉えるためで、それを改善するツボは全身にあります

漢方薬と鍼灸のどちらかしか選べないなら…

子宮内膜症でお悩みのあなたが漢方薬と鍼灸で迷っているとします。
どちらも自費で費用が気になるのも分かります。
どちらも効果的な治療法なのでどちらが良いか迷うのは当然です。

もし私でしたら、まずはどちらでも「自分が気になった方・効きそうと感じた方」から始めてみてはいかがでしょうか

漢方薬と鍼灸のメリットデメリットをいくつか比較してみます。

漢方薬は費用負担が少ない可能性

漢方薬も漢方薬局などの場合は自費になりますが、保険がきくクリニックなどでの処方は比較的安価(保険適応なので)で、ある程度の期間服用できるため、初期費用を抑えながら様子を見ることができます。
経済的な負担を考慮すると、まずは「病院の漢方薬」を試してみるのもお勧めです。

他にどんな悩みがあるか?で決める

「子宮内膜症」は様々な原因が考えられますし、「子宮内膜症」のみという方も少ないです。
それ以外の体の悩みの傾向で決めていくのも考え方としてはアリです。

漢方薬は内臓系が得意ですので、更年期などホルモンバランスの変化や胃腸症状などが強ければまずは漢方薬から始めるのも良いでしょう。
鍼灸は神経系やコリ痛み系が得意ですので、肩こり・腰痛・頭痛・しびれ・自律神経の乱れなどが強ければ鍼灸から始めるのも良いでしょう。

通院の負担と服用の負担から考える

たとえば鍼灸は治療院に週1回程度通う必要がありますが、漢方薬は2週間に1回程度の通院が多いです。
通院の手間は鍼灸院の方が多いですが、施術日以外はとくに何もしないで済みます。
一方、漢方薬は自宅での服用が必要です。
1日3回、食事と食事の間(食前2時間くらい)に飲むのも手間です。
忙しい患者さんにとって、どちらの方が時間の節約になるでしょうか。

どちらかを選択して、ある程度の期間(1~3ヶ月間ほど)試しても効果が実感できない場合は、もうひとつに切り替えるといいでしょう
ご自身の症状や経済状況に合わせて、最適な治療法を選択する参考になさってください。

まとめ

最初の結論にもう一度書きます。

「子宮内膜症には漢方薬と鍼灸を併用するのがベスト」です。

漢方薬と鍼灸を同時に使うメリットを以下に挙げます。

1)相乗効果の発揮
漢方薬は体の内側から、鍼灸は体の外側から治療を行い、それぞれの効果を高め合います。

2)全身のバランス調整
漢方薬は全身のエネルギーや血流を調整し、鍼灸は経絡を刺激して気の流れを整えるため、体全体のバランスがより良くなります。

3)症状の緩和と根本治療の両立
鍼灸は自律神経系に即効性があり、漢方薬は内臓系を改善するため、両方の効果を同時に期待できます。

4)個別のニーズに対応可能
漢方薬と鍼灸の組み合わせで、患者さんの体質や症状に応じた柔軟な治療プランを作成できます。
「子宮内膜症」だけではなく、肩コリ・胃もたれ・イライラ・冷えのぼせ・腰痛など、メインのお悩み以外の症状も併せ持つ人が少なくありません。
それらには鍼灸の得意分野・漢方薬の得意分野がありますので、併用が最大の効果となります。

5)自然治癒力の最大化
鍼灸の刺激が体の自然治癒力を引き出し、漢方薬がその力を補完することで、治癒力を最大限に引き出せます。
両者を適切に組み合わせることで、東洋医学の全体的な効果をより引き出すことができます。

以上、
一言で言えば『鍼灸と漢方薬は併せて東洋医学』ということですね。

ぜひ西洋医学だけでなく、
東洋医学(漢方薬・鍼灸)も病気治癒や健康増進のために活用することをお勧めいたします。

ちなみに、
漢方薬と鍼灸の違いについてはこちらに書きました。

『漢方薬と鍼灸の違いってなに?』

漢方薬と鍼灸の違いってなに?

また、当院は鍼灸院なので鍼灸推しです。
詳細は下記リンクをどうぞ。

子宮内膜症