パルス鍼(電気鍼)の使い方

パルス器の使い方

低周波パルス鍼とは

鍼治療は、経穴(ツボ)に刺激を与えて経穴の作用(効能)を引き出すことで効き目とします。
効能を引き出す方法としては、ただ刺すだけでなく手技を使ったものがあります。
たとえば、刺した鍼をひねる、刺した鍼の深さを出し入れする、などです。
(これらの手技は「撚鍼」や「雀啄」などと呼ばれます。)

手技で鍼を操作することで刺激を生み出す方法は、昔から使われてきました。
しかし、同じ手技を長時間・安定的に繰り返すことはとても熟練の作業です。

そういった手技に代わる方法として、パルス鍼(電気鍼)が考え出されました。
鍼に電気を一定の間隔・強さで流すことで、安定的な刺激を体(経穴)に送ることができるようになりました。

このようなメリットがありますが、元々刺激が強いことや「匙加減」のようにはコントロールできないことからパルス鍼を全く使用しない鍼灸院もあります。
当院も数年前までは使っていませんでした。
パルス鍼を使わずとも手技オンリーで対応できるという信念からでしたが、実際にパルス鍼を取り入れてからは、うまく使えば役に立つという感想にかわってきました
誰にでもいつでも使うものではなく、ここぞという場合に使うことで有意義な道具になると考えています。

このように鍼灸師にとってはひとつの価値ある道具ですので、今回は「低周波パルス鍼(電気鍼)」について書いてみようと思います。
※なお説明に使う機械は「オームパルサーLFP-4000A」を念頭に書いています。

3つの刺激パターン

電気刺激のパターンは、連続的・断続的・ミックスの3つがあります。
パルス鍼をどう使いたいかで、どういうパターンの刺激が最適かを決めます。
パルスリズム

パルス刺激パターン

連続的刺激

トントントントンと、一定のリズムを連続的に刺激として与えます。
通常0.5~3Hz程度で使います。
(※1Hzは1秒間に1回刺激するリズムのこと。)
機械の連続波出力メモリは「×1」を使うことになります。

【用途】
・全身に。
・経絡に。
・補法として。

高い周波数(「×10」)の場合は、局所刺激のために使い、筋肉の鎮痛作用をもたらします。
※使用の機械「オームパルサー」では最高で100Hzです。

断続的刺激

トントントン・無し無し無し・トントントンと、電気の流れる時間と無刺激の時間を交互に繰り返すパターン刺激です。
2・3秒間隔で刺激→無刺激→刺激→無刺激を繰り返します。
オームパルサーでは、(連続刺激の「×10」と同じ)「5~100Hz」の刺激に自動的になります(ようは最初から刺激が強め設定)。

【用途】
・全身に。
・経絡に。
・(弱い刺激で短時間とするなら連続刺激よりも)より虚的な人にも用いられる。
・強めの刺激を与えることで瀉法として。
・(局所では)運動マヒなどに効果を出しやすい。

ミックス刺激

トントントン・トトトト・トントントンと、弱め部類の3Hzの刺激と、強め部類の20Hzの刺激を、2~3秒間隔で繰り返す「ミックス(粗密)刺激」です。
(※オームパルサーではミックスはこの1種類しかない。)

【用途】
・局所に。
・鎮痛を狙って用いられる。
・運動マヒなどに用いられる。

(+と-)電極の決め方

パルスみのむしクリップ
パルス鍼は2つのワニ口のクリップを鍼にかませて電気を流すのですが、クリップには陽極(+)と陰極(-)があります。
電気は陽極から陰極の方に陽イオン電子が流れることで機能します((+)→(-))。

パルス鍼では、陽イオン電子が集まる「陰極の方が刺激が強く」なります
結果、より重要な経穴(刺激をしっかりしたい方)に陰極のクリップをつけます。
オームパルサーではクリップは緑と黄色の2種ありますが「緑クリップが陰極」です。

ただし実際に使用していると、陰陽の極とは関係なく、刺激の程度はどこに刺しているかでも変わってきます。
たとえば、刺激に敏感な場所に陽極を刺していれば、陰極よりも陽極で刺激感は強くなります。
ですので、緑クリップを大事な方に刺す事がそこまで大きな差異になるかどうかは分かりませんが、緑クリップを効かせたい方に噛ませる、を基本にします。

また、電子イオンが陽極(+)→陰極(-)に流れることを考えると、経絡の流れをそれに合わせるのもひとつです。
ようするに、経絡の順経で黄クリップ→緑クリップにする、ということです。
(※もしくは意識的に逆経を使いたい場合は反対にするのもありでしょう。)

通電時間の決め方

パルス時間
以下の使い方の具体的な指示は、患者さんの感受性など様々なケースが考えられ一概には言えませんが、あくまで一般論として書いておきます。

局所のみ(足のみ手のみ)であれば「10~20分」を適当とします。
・(穴性での補法/瀉法)
 瀉法は、強めの刺激で「3~5分」程度
 補法は、弱めの刺激で「10~15分」程度

刺激の強さの決め方

最適な刺激は「気持ち良い程度」とします。
ガマンするような強度は強過ぎで、強すぎる刺激は不可です。
実際には、患者さんに聞きながら強さを設定することになります。

パルス鍼をしてはいけない場合

次のようなケースでは使用しないでください。

・ペースメーカーなどを装着している患者。
・むくみ(浮腫)が強い部位。
・知覚障害のある部位。
・心臓に障害のある患者。
・出血しやすい病気のある患者。
・悪性腫瘍のある患者。
・妊産婦。
・皮膚にキズや炎症ある部位。
・静脈怒張の皮膚表面。
・血管障害の恐れの有る高血圧患者。
・意思疎通が困難な患者。
・その他医師が不適当と認めた患者。

以上が一般的な注意事項で、基本的には「鍼灸施術が禁忌なケース」を土台に考えていただければ結構でしょう。
しかしとくに「ペースメーカー使用者にはパルスはしない」ことは重要です。
さらに言えば、ペースメーカーをしていなくとも「前胸部から上腹部へのパルス刺激は避ける」ほうが良いです。

また、電気を使った施術になりますので「他の電子機器との併用も避ける」ほうが無難です。

実践的には「実証の局所には使わない」というのも押さえておくと良いでしょう。
実痛・急性痛がある場所そのものにパルスをするのではなく、経絡的遠隔部位や遠隔の特効穴などにパルスすることで効果を引き出したいです。
(虚痛(慢性痛)の場合は局所へのパルスは大丈夫です。)

穴性を引き出すための刺激の使い分け

こちらも患者さんの感受性など様々なケースが考えられ一概には言えませんが、あくまで一般論として書いておきます。

虚証への補法として使う場合

・連続刺激
・1~3Hz
・10~15分

実証への瀉法として使う場合

・断続刺激(ミックスも可)
・30~100Hzと無刺激の断続刺激
・3~5分

解剖学的な効果を引き出すための使い方

おもに目標とする筋肉に当てて通電することを意味しますが、これは専門書を参照ください。
『鍼通電療法テクニック』(医道の日本社)がおススメです。

まとめ

当院では、数年前よりパルス鍼を適宜使っています。

使い方としては主にふたつです。

1)慢性のコリなどに局所的に使う。
2)穴性を発揮させるために使う。

あくまで第一選択肢は「手技」です。
しかし手技だけでは反応が悪い場合や、もう少ししっかり刺激したい場合にパルスを加えます。

強度は気持ちよい程度で、時間は5~10分程度です。

パルス鍼だけで施術しているわけではないので、ここぞという時に使えるよう常に意識しながら使っています。
また当たり前ですが、電気の刺激を嫌がる患者さんもいますので、そういう場合は使用しません。

今回は低周波パルス鍼について説明しました。
今後も、患者さんのつらさが少しでも改善できる方法を色々取り入れていきたいと考えています。