患側と健側の刺鍼では、両者とも効果はあるが効く仕組みが違う
巨刺の作用機序の一端かも知れない
痛い場所があったら、その痛む場所(もしくは痛む側の経絡)に鍼灸することで鎮痛作用などが現れると考えるのが普通です。
たしかに鍼灸の考え方でもそれはその通りです。
でも、同時に、わざと逆側(痛む場所のちょうど反対側)に鍼灸することで同じように鎮痛させることが出来るという考えもあります。
こういう鍼の使い方を『巨刺(こし)』と言います。
伝統的な考えでは、「健側(痛くない側)の方が経絡の流れがスムーズだから効果が出やすいのだ」とか「左右の経絡のバランスを取るからだ」とか、その理由は色々言われています。
今回、肩痛の患者さんの条口穴(ST38)を患側と健側でそれぞれ使い比べてみる、という論文を紹介します。
その効果の違いを調べるためにfMRI(MRIで脳や脊髄の血流反応を視覚化する方法)を使っています。
『片側性肩痛患者における対側または同側鍼治療の異なる機序』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5846304/?fbclid=IwAR0PxStQM2YteAwHBIXXHvEDnfEIGnAvvHSmZpc4oheBeme28xd2gFaWeS8
【概要】
慢性肩痛はよく見かける疾患であり、生活の質に悪影響を及ぼす事が少なくない。
鍼治療は、慢性疼痛をうまく治療することができるので、人気が高く、多くの国で徐々に受け入れられている。
しかし、鍼治療がどう効くのかの脳のメカニズムは不明のままである。
したがって、本研究では、対側性および同側性鍼治療がどのように局所を調節するかを調べることを目的とした。
慢性肩痛患者24名を募集し、対側鍼治療群(対照群)および同側鍼治療群(同側群)に分けた。
全ての患者は鍼治療の前後に機能的磁気共鳴画像法(fMRI)スキャンを完了した。
痛みの程度スコア(VAS)および肩関節機能スコア(CMS)を用いて治療の結果を評価した。
刺鍼の方法
患者は着席したままで肩をリラックスさせるよう求められる。
鍼灸師が被験者の条口穴にディスポ鍼を挿入。
2回のMRIスキャンの間に、雀啄・撚鍼させて30秒間の響きを誘発させ、20分間置鍼した。
刺鍼の間、被検者は肩関節の外転・内転を行うように依頼された。
結果
両群ともに「痛みの程度」は改善し「肩関節機能」の改善が見られた。
両群を比較すると、対照群の方が肩関節機能改善は優れていた。
興味深いことに、鍼治療の脳でのメカニズムは、同側と対側では異なっていることが確認できた。
脳の「前帯状皮質(ACC)」が対側鍼治療での効き目に重要な役割を果たす可能性があり、逆に「脳幹(-視床-皮質の経路)」が同側鍼治療で役割を果たしている可能性がある。
(注:前帯状皮質(ACC)も脳幹も、ともに鎮痛に関連ある脳の部位です。)
(上の写真が対側穴に鍼した時:下の写真が同側穴に鍼した時)
当院の考察
肩痛への足のツボ刺鍼で、対側も同側も共に鎮痛効果を出せるが、しかしその作用の仕組みには違いがある、という興味深い結果でした。
いち患者さんとしてはとんと興味のない話でしょうが、鍼灸師としてはちょっと興奮します(苦笑)
使うツボは同側がいいのか対側がいいのか、そしてそれは何故なのか。
鍼灸師としてはよく議論にあがる点ですが、両側使う人が多い気がします。
両側を使えば違った鎮痛回路へ効かすことが出来そうなので、結果的に最適な方法なのだろうと理解しました。
気や経絡などから鍼灸する東洋医学的方法論と、神経や血流から鍼灸をする西洋医学的方法論。
どちらかに偏ることなく学んでいきたいものです。
一介の鍼灸師としては、どちらも自分の施術が自信をもって行えるようになるのであれば参考にしたいですね。
ちなみになぜ条口穴を使ったのだろう?と調べてみると、条口には作用に「舒筋通絡」、主治に「肩の痛み」がありました(『針灸経穴辞典』(東洋学術出版社))。
いやしかし結構マイナーな経穴ですよね、なんで使われることになったのだろう??(笑)
今回の論文も勉強になりました。
日進月歩のせいとは言え、こういった西洋医学的な知見を基礎から学ぶ場が少ないのが鍼灸業界の気がします。
そういう場があれば出ていって学んでみたいです、学生のように。
学びは続く。