肩こりがひどく頭痛めまいまでへの鍼灸症例|鎌ヶ谷市在住50代女性
肩こりがひどく頭痛めまいまでへの鍼灸症例
現代社会において、多くの方が悩まされている「肩こり」。
デスクワークやスマホの長時間使用、ストレス、運動不足など、その原因は多岐にわたります。
「たかが肩こり」と放置してしまう方もいらっしゃいますが、その背景には身体全体のバランスの乱れが隠れていることが多くあります。
今回は、長年の頑固な肩こり、そしてそれに伴う頭痛やめまいに悩まされ、当院に来院された患者さまの症例です。
患者さまについて
年齢・性別:
50代 女性・鎌ヶ谷市在住
主訴:
慢性的な首・肩のこり、ひどい時の頭痛とめまい
鍼灸院に来られるまでの経緯:
若い頃に遊園地のジェットコースターに乗った際に「むち打ち」を経験されたことがきっかけでした。
それ以来、首から肩にかけての慢性的なこりを感じるようになり、日常生活の一部となっていたそうです。
しかし、数年前からその症状が悪化。
とくに、仕事や家事などで疲れが溜まってくる夕方から夜にかけて、首・肩のこりが耐え難いほど強くなり、それに伴ってズキズキとした頭痛やめまいを感じるようになりました。
このつらい症状は、患者さまのQOL(生活の質)を著しく低下させていました。
【その他の症状】
正常眼圧緑内障:
10年ほど前に診断され、現在も点眼薬を使用中。
視野欠損の進行が懸念される状態。
慢性的な疲労感:
日常的に強いだるさや倦怠感があり、なかなか疲れが抜けない。
足先の冷え:
足先が冷たく感じることが多い。
膝関節の痛み:
膝に痛みを感じることがある。
消化器系の不調:
比較的、お腹を下しやすい傾向がある。
これらの情報は、東洋医学的な視点から患者さまの全体像を把握し、根本的な原因を探る上で非常に重要な手がかりとなります。
当院では、主訴だけでなく、一見関係なさそうに見える症状や体質にも目を向け、包括的なアプローチを心がけています。
東洋医学的考察
東洋医学では、私たちの身体は「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」という3つの要素がバランスを取りながら循環することで、健康が維持されていると考えます。
【気】
生命活動の根源となるエネルギー。
身体を温め、内臓の働きを活発にし、外敵から身を守る(免疫力)などの役割があります。
【血】
血液とその中に含まれる栄養素。全身に栄養を運び、精神活動を支える基盤となります。
【水】
血液以外の体液全般(リンパ液、汗、涙など)。身体を潤し、体温調節などに関与します。
これらのバランスが崩れると、様々な不調が現れます。
今回の患者さまの状態を東洋医学的に診させていただいた結果、以下のような状態にあると判断しました。
■血瘀(けつお)
「血」の流れが滞っている状態です。
むち打ちという外傷の既往歴、長年の慢性的な肩こり、夕方から夜にかけての症状悪化(気血の巡りが低下しやすい時間帯)、緑内障(東洋医学では目と「血」の関連は深いと考えます)などが、血瘀の存在を強く示唆していました。
血行不良は、痛みの直接的な原因となりやすいです。
とくに、経絡(気血の通り道)上での血の滞りが顕著でした。
■脾気虚(ひききょ)
「脾」は、東洋医学における消化吸収機能や、気血を生成し全身に巡らせるエネルギー源をつかさどる臓腑です。
脾の働きが弱る(脾気虚)と、エネルギー(気)や栄養(血)が十分に作られず、全身に行き渡らなくなります。
この患者さまに見られた慢性的な疲労感、下痢しやすい傾向、足先の冷えなどは、脾気虚の特徴的な症状です。
気虚があると、血を巡らせる力も弱まり、血瘀を助長することにも繋がります。
■心・肝・脾の変調
東洋医学では、精神状態や各臓腑の機能は密接に関連していると考えます。
「心」は血脈を主り精神活動に関与し、「肝」は気血の流れをスムーズに調整し、感情の安定にも関わります。
「脾」は前述の通り気血の生成源です。
長年のストレスや疲労、血瘀の状態が続くことで、これらの臓腑の機能にもアンバランスが生じている可能性が考えられました。
とくに、頭痛やめまいは「肝」の機能失調と関連が深いことが多いです。
これらの考察から、単に肩の筋肉をほぐすだけでなく、「血瘀」を改善して血行を促進し、「脾気虚」を補ってエネルギーを養い、「心・肝・脾」のバランスを整えることが、根本的な改善への鍵であると考えました。
治療方針
上記の東洋医学的考察に基づき、以下の治療方針を立てました。
■活血化瘀(かっけつかお)
滞った「血」の流れを改善し、痛みやこりの直接的な原因を取り除くことを目指します。
とくに、首・肩周りの局所的な血行促進を図ります。
■健脾益気(けんぴえっき)
弱った「脾」の働きを高め、「気」の生成を促し、全身のエネルギーレベルを引き上げます。
これにより、慢性疲労の改善や、血を巡らせる力の回復をサポートします。
■疏肝理気(そかんりき)・養心安神(ようしんあんじん)
「肝」の機能を調整して気の流れをスムーズにし、「心」の働きを穏やかにすることで、頭痛やめまい、精神的な緊張感を和らげます。
■温経散寒(おんけいさんかん)
冷えは血行不良を悪化させる要因です。お灸やホットパックを用いて身体を温め、気血の巡りを助けます。
とくに、足先の冷えや下腹部の冷えに対応します。
■全身調整
局所的な症状だけでなく、身体全体のバランスを整えるツボを選定し、自己治癒力を高めることを目指します。
これらの目的を達成するために、鍼(はり)、灸(きゅう)、温熱療法(ホットパック)を組み合わせた、患者さま一人ひとりの状態に合わせたオーダーメイドの治療計画を立案しました。
治療経過
1回目:
仰向けで、気の流れを調整し、腕や頭部への効果が期待できる「外関」、胃腸の働きを整え全身のエネルギーを高める「足三里」、目の疲れや頭痛に効果的な「太陽」、頭部の反応点、生命エネルギーの根源に関わる「太谿」に置鍼(鍼を刺したまま一定時間置く方法)。
腹部の「中脘」(胃の近く)と「関元」(下腹部)に棒灸(棒状のもぐさを燃やして温める)を行い、内臓の働きを温めながら活性化。
足先にはホットパックを当て、末端からの冷えを改善。
座位で、肩こりの特に強いポイント(圧痛点や硬結部)に点灸(米粒大のもぐさを直接皮膚に乗せて燃やす)を行い、局所の血行を強力に促進。
うつ伏せで、首の後ろから肩にかけての重要なツボである「完骨」「風池」「天柱」、そして背部にある内臓の働きと関連する兪穴(ゆけつ)の中から「心兪」「肝兪」に置鍼。
「脾兪」に棒灸を行い、「脾」の働きを温めながらサポート。
2~7回目(週1回のペース):
初回の施術後、肩こり自体は「少し楽になった気がする」とのお言葉をいただきました。
しかし同時に、全身にだるさを感じたとのことでした。
これは「好転反応」と呼ばれる、体が良い方向へ変化する過程で一時的に起こる反応である可能性が高いですが、患者さまの負担を考慮し、鍼の刺激量を調整することにしました。
具体的には、鍼を刺す深さを浅くし、お灸の壮数(燃やす回数)も減らすなど、よりソフトな刺激に変更しました。
治療内容は、基本的には初回と同様の方針を踏襲しつつ、その日の体調や症状の変化に合わせて微調整を行いました。
とくに、ご本人が気にされていた肩こりに対しては、点灸の箇所を増やしたり、円皮鍼(えんぴしん:小さなシール状の鍼を貼り、持続的な刺激を与える)を追加したりと、重点的にアプローチしました。
週1回のペースで治療を継続する中で、悩まされていた首・肩のこりは徐々に軽減していく様子が見られました。
「以前より明らかに楽な時間が増えた」「ガチガチだったのが少し和らいだ」といった前向きな変化を実感されるようになりました。
一方で、仕事が非常に忙しい時期であったことや、季節が夏場だったことも重なり、日常的な疲労感やだるさについては、顕著な改善とまではいきませんでした。
東洋医学的に見ても、夏は暑さによって「気」を消耗しやすく、湿気によって「脾」の働きが妨げられやすい季節であるため、疲労回復には時間がかかる場合があります。
残念ながら、お仕事の都合で定期的な通院が難しくなり、7回目の治療をもって一旦終了となりました。
しかし、短期間ではありましたが、長年の悩みであった頑固な肩こりに対して、鍼灸治療が一定の効果を発揮し、症状の軽減に繋がったことは、患者さまにとっても私たちにとっても大きな収穫でした。
使用した主なツボとその代表的な効果
今回の治療で用いた主なツボ(経穴)とその代表的な効果をいくつかご紹介します。
外関(がいかん):
手の甲側、手首のシワから指3本分上にあります。
腕や肩、首の痛みやこり、頭痛、耳鳴りなどに効果があるとされ、上半身の気の流れを調整します。
足三里(あしさんり):
膝のお皿の下、外側のくぼみから指4本分下にあります。
胃腸の働きを整え、全身の気力を高める「万能のツボ」として有名です。
体力増強、疲労回復、消化不良、足の疲れなどに用いられます。脾気虚の改善に繋がります。
風池(ふうち):
首の後ろ、髪の生え際あたりで、僧帽筋の外側のくぼみにあります。
頭痛、めまい、眼精疲労、鼻づまり、そして特に首こり、肩こりに効果的な重要なツボです。
天柱(てんちゅう):
風池の少し内側、太い筋肉(僧帽筋)の外縁にあります。
風池と同様に、頭痛、首・肩こり、眼精疲労などに効果を発揮します。
肝兪(かんゆ):
背中、第9胸椎棘突起の下から左右外側へ指2本分のところにあります。
肝臓の機能を調整し、血の貯蔵や解毒、精神安定に関与します。
ストレス、イライラ、目の疲れ、筋肉のひきつりなどに用いられます。
脾兪(ひゆ):
背中、第11胸椎棘突起の下から左右外側へ指2本分のところにあります。
脾臓(消化器系)の機能を高め、消化吸収を助け、気血の生成を促します。
食欲不振、胃もたれ、下痢、全身倦怠感などに効果的です。
中脘(ちゅうかん):
おへそとみぞおちのちょうど真ん中にあります。
胃の働きを直接的に調整する重要なツボです。胃痛、消化不良、食欲不振などに用いられます。
関元(かんげん):
おへその下、指4本分のところにあります。
下腹部を温め、生命エネルギー(元気)を補うとされる重要なツボ。
「丹田」とも呼ばれ、泌尿生殖器系の不調、冷え性、下痢、疲労回復などに効果があります。
これらのツボを、患者さまのその日の状態に合わせて的確に選び、鍼や灸を施すことで、症状の改善と体質改善を目指しました。
まとめ
今回は、長年のむち打ち後遺症による頑固な肩こり、そしてそれに伴う頭痛やめまいに悩む50代女性の症例をご紹介しました。
東洋医学的な視点から「血瘀」と「脾気虚」を主な原因と捉え、「活血化瘀」「健脾益気」などを中心とした鍼灸治療を行いました。
週1回のペースで計7回の施術を行い、刺激量に配慮しながら治療を進めた結果、主訴であった首・肩のこりは軽減傾向を示しました。
慢性的な疲労感については、仕事の多忙さや季節的な要因もあり、著効とまではいきませんでしたが、鍼灸治療が症状改善の一助となり得たことを示唆するケースでした。
「どこに行っても良くならない」「薬だけに頼りたくない」「体質から改善したい」とお考えの方は、ぜひ一度、当院にご相談ください。
鍼灸治療は、身体が本来持っている自然治癒力を引き出し、健やかな状態へと導く、優しく効果的な治療法です。皆様のつらい症状が少しでも和らぎ、快適な毎日を送れるよう、心を込めてサポートさせていただきます。
肩こりの鍼灸の詳しくはこちら
緊張型頭痛の鍼灸の詳しくはこちら
緑内障の鍼灸の詳しくはこちら